第20話
ここ数日は冒険者として様々な魔物を倒していました。この日も一仕事終えて休むところです。
これまでのポイントで身体能力を更に強化したのはもちろん、これまではほとんどなかった魔力も強化したので、多少であれば身体強化の魔法も使えるようになっています。
それでもまだ魔力は足りず、想像しているような炎を飛ばしたり水で捕らえたりといった魔法らしい魔法はまだ使えません。
閑話休題。
そろそろ本業もやらなければいけないでしょう。
報酬を受け取り、ギルドを出て人の居ない場所を探します。
ちょうど角をいくつか曲がった場所が、じめじめしてネズミしか居なかったのでここにしましょう。
「テレポート」
目を閉じて自宅をイメージしつつ、小さく唱えます。
すると、次に目を開けた時には既に、家の建っている浮き島に移動していました。
このテレポートがないと家に帰ることはできないので、先に取っておいて良かったです。そうでなくとも、明確に場所をイメージできれば好きな場所へ行けるのですから便利です。
今はまだ殺風景な浮き島ですが、暇を見つけて色々やりましょう。畑なんかを作ってみるのも面白いでしょうか。
妄想が捗りますが、とりあえず今は仕事が優先です。
「久しぶりに大物でも狙ってみましょうか……」
一ポイントや二ポイントのターゲットはすぐに見つかりますし、単純な戦闘力も高くない者がほとんどです。
しかし十を超えた辺りから、本腰を入れて探さないといけないくらいには厄介なターゲットが現れ始めます。
面倒ですが、それもまた楽しいものです。
「二十……。これくらいが頃合いですかね」
今貼ってあるターゲットのリストの中ではマイク・ホーザントという男が二十ポイントで一番高いです。
神様的にも早めに倒して欲しいのでしょう。
準備をして出かけようとした時、掲示板の近くの機械が音を立てて動き出しました。
ガタガタと大きな音を立て、やがて紙が一枚吐き出されます。
いい加減この機械の呼び名も考えなければいけないでしょうが、冷静に考えればそうそう呼ぶような機械でもあります。
なんて無体なことを考えながら紙を拾い上げます。
さて、新たなターゲットはどんな人でしょうか。
「……百五十!?」
このターゲットを倒して得られるポイントは百五十ポイント。これまで倒して来たターゲットの中にも、三桁を越えたターゲットは居ませんでした。
しかも何よりワタクシを驚かせたのは、ターゲットの似顔絵です。
似顔絵調であるにも関わらず、ちゃんと特徴を捉えていてわかりやすい似顔絵。今回そこに描かれていたのは、まごうことなき赤ちゃんの顔でした。
ただの赤ちゃんであればこれほどのポイントをかけられるようなことはないでしょう。そもそも、赤ちゃんがターゲットにされることが不可解なのです。
ポイントの高さは単純な強さではなく、この世界に与える影響の大きさ。
つまりこの赤ちゃんがそれこそ、この世界で一番危険な存在とも言えるのです。
「どうしましょうか……」
ポイントのことを考えるのであればこの赤ちゃんを先に殺すべきです。
しかし前代未聞の百五十ポイント。
今の状態でもそれなりに強くなっている自覚はあり、早々、武力において後れを取るとは思っていません。
それでも百五十ポイントというのは、二の足を踏ませるには十分な理由です。
「止めておきましょう」
悩んだ末、とりあえずは先に選んでいたマイク・ホーザントを優先することにします。
このポイントも何かしらの能力を強化して、それでこの赤ちゃんに臨みましょう。
掲示板の一番目立つ場所に紙を貼り付けます。
まだ一歳にも満たないような小さな赤ちゃんは、紙の中で溢れんばかりに笑っていました。
隣国から乗り合いの竜車に乗って何日か。ようやく辿り着いたのが目的地であるミラー教国です。
ミラー教国は厳しい戒律で有名なミレーア教の総本山として有名です。
それほど大きな国ではありませんが世界各地から信者が巡礼に訪れ、大変賑わっている国です。乗り合い竜車の他の客も、巡礼者らしき人がほとんどでした。
マイク・ホーザントが居るらしいリスタの町は首都の周りにある衛星都市の一つで、聖職者しか滞在のできない首都の代わりに巡礼者やその他の人々が滞在している町でもあります。
一応、多少の下調べはしていましたが、リスタにはミラー教国軍の基地があるみたいです。
そんな場所ですので少し身構えてしまいます。
竜車は町の随分手前で止まりました。
「町までは行きませんの?」
「あんまり近くまで行くと面倒なんだよ。ほら、戒律があるだろ?」
必要以上の殺生はしない、という決まりでしたか。
魔物に襲われても追い払うだけで、討伐しようとすると制止されるらしいです。
積極的に魔物の討伐はしないと聞いてはいましたが、これほどとは思いませんでした。ミレーア教徒の目がある場所では、魔物に抵抗するのも難しいのでしょう。
冒険者が敬遠するのも納得です。
「お嬢ちゃんは信徒じゃないよな?」
「はい。一応、冒険者をしております」
見た目に驚いたようです。
「信徒とそれ以外とで手続きも違うから気を付けろよ。じゃあな」
話している内にワタクシが最後になっていました。
御者は竜車を早々に反転させると、足早に去って行きました。
さてさて。何だか一波乱ありそうな予感がします。




