第19話
こちらの世界に生まれ変わってからどれだけの時間が経ったでしょうか。
季節は何度も移り変わり、元の地球での生活ももううろ覚えです。
忘れかけてしまうほどに忙しなくターゲットを追っていました。一人殺せばすぐに次。それを殺せばまた次に、と。
誰もが放っておくと世界に悪影響を及ぼすような存在で、どうしてこの世界はこれほどギリギリなのかと尋ねてみても神様には「性根の悪い奴も居るんだよ」とはぐらかされるだけでした。
閑話休題。
休む間も惜しく駆け回っていたのは、欲しい物があったからでした。
そしてこの日は、神様にそれをお願いした日でもあります。
「ここがそうだね。もう少しポイントを貰えれば広い場所も探せるけど」
「いえ、十分ですわ。これ以上広くても管理が大変そうですから」
ワタクシと神様が居るのは、体育館ほどの広さの島。
ただの島ではありません。この島は空中に浮かんでいる島なのです。
魔力の影響がどうのとかでこういう土地もあるらしいですが、原理は良くわかりません。一つわかるのは、この浮き島がとてもファンタジーということです。
交換できるリストの中にこれを見つけた時から絶対に欲しいと思っていました。
「じゃあ百二十ポイントね」
大きな買い物ですがそれに見合うだけの価値はあるでしょう。
ワタクシ自身にも神様にもこの島にも変化はありませんが、確かにワタクシの物になったとわかります。
「これでオーケーだね。完全に君の物になって私の加護も付けておいたから絶対に落ちることはないよ。次は住む場所だね」
「あそこの辺りに建てていただいてよろしいですか?」
選ぶのは島の端の辺り。
ギリギリですが神様なら家が落ちたり地面が崩れるなんてことは起こさないでしょう。
窓から広がる雲海を眺めるなんて憧れるではありませんか。
「一人暮らし用だから……こんな感じでどうかな?」
神様が手をかざします。するとそこから光の粒子のような物が現れ、ワタクシが示した辺りに集まって行きます。
そして段々と家の形に変わっていき、あっという間に小洒落た一軒家ができあがりました。
三階建て。しかし縦に高くてもあまり横には広くないようです。白い壁に赤いレンガの屋根。煙突から煙が出ていて、わかりやすくファンタジーな家です。
「内装は私好みにしておいたが二つくらいはまっさらな部屋を用意しておいたからそこは自由に使うと良いよ」
木で作られた扉は、ついさっき作られたばかりだというのに何十年もそこにあったかのような貫禄を醸し出していました。
ドアを開けます。普通の人には重たいのでしょうが、ワタクシには大した重量ではありませんでした。
「うわぁ……!」
思わず子供の様に歓声を上げてしまいました。
部屋の半分は土間のようになっていた台所と言うか、いわゆる炊事場でしょうか。かまどと洗い場がありました。そして洗い場には蛇口が付いていて、捻ると普通に水が出て来ます。
こちらの世界に来て驚いたのは水事情です。
蛇口もあるにはありますが、宿屋や風呂屋等の大きな建物に一つ二つが当たり前で、一般人の家にはないのだそうです。
なので我が家にこうして水道があるのは嬉しいものです。浮き島に水源があるとも思えないので、これも神様からの計らいでしょう。
そして一階のもう半分。板敷の部屋に上がります。
ソファやら絨毯が置いてあってくつろげるようになっていますが、目立つのは壁にあった掲示板です。いくつかの紙が貼られていました。
近づいて見ると、貼られているのはターゲットの情報だとわかります。
「これはありがたいですわね」
「一々、私の所に来る必要もなくなるからね」
現在貼られているのは五枚。最近は任されるターゲットの人数も増えていて管理も大変でした。
「そして注目して欲しいのがコレ!」
神様が指差したのは掲示板の近くに置いてあった良くわからない機械でした。
ボタンらしき物があるわけでなく、何かを入れるのか出すのか隙間が開いているだけで本当に何の機械なのかわかりません。
すると突然、その機械が大きな音を立てて動き出しました。
待っていると、隙間から紙が排出されていきます。
「ターゲットの情報、ですか」
「そういうこと」
出て来たのはこれまでと同じターゲットの情報。
これまでは神様から直接受け取っていた物を、これからはこの謎の機械から受け取れることになります。
しかしFAXなんて今時誰も使っていないのではないでしょうか。
「掲示板に直接現れたりとか、そういうことはできませんの?」
床に落ちた紙を掲示板に貼り付けます。
ここまでできたのであればこの手間もなくしてほしいです。
「それじゃあ風情がないでしょ?」
神様はこういう人でした。諦めるしかないでしょう。
「もう一つ見せたいのはコレコレ」
それ以上の文句は受け付けないとばかりに神様はサッサと歩いて行きます。
階段があって、いったい二階はどうなっているのでしょうか。
しかし神様は階段を上らず、その隣の床を持ち上げました。
床下収納でしょうか。それにしては微妙な位置にありますが。
「それは?」
「見てからのお楽しみ」
尋ねても答えてくれないので隣に並んで覗き込むと、地下室が広がっていました。
それ自体はワクワクする光景でしたが、部屋全体が青白い光を放っていて、何だか警戒してしまう光景です。
しかし神様が下へ向かったので、ワタクシも続くしかありません。
地下室は全面に棚が備え付けられていました。そしてその棚に並んでいるのは大量の瓶。瓶の中にあった青白い何かが光の正体でした。
「これはもしかして……」
「そう。これまで君が倒したターゲットの魂だよ。これでいつでも眺めて楽しめるからね」
「ワタクシにそんな趣味はありませんが……」
とは言いつつも、ボリス・ウッドと名札が貼ってある瓶を見つけて少し懐かしい気分になってしまいました。
「割れたりしたら魂が抜け出て生まれ変わっちゃうから気を付けてね」
ならどうしてこんな部屋を、と思いますがそれは言っても無駄でしょう。
神様はこういう人で、結局ワタクシが我慢するしかないのは短くない付き合いで学んでいます。
一階に戻ってソファに腰掛けます。
「二階と三階は何も家具を置いていないから自由に模様替えしてね。家具セットも交換できるけどどうする?」
「それは結構ですわ。これからゆっくり揃えていきます」
「じゃあ家の分だけでオマケして百ポイント。これでほとんどなくなっちゃったね」
「仕方ないですわ。これからも頑張って取り戻すとしましょう」
「オーケー。それじゃあ私はここで失礼するから、またよろしくね」
そうして神様は光になって消えました。
浮き島で周りに何もないので本当に静かで、神様が居なくなると他に何の音もしなくなりました。
急に静かになって少し寂しい気分と、ゆっくり落ち着ける気分とです。
我が家はずっと夢見ていたので、一つ大きな目標を達成できた気分です。今日はこのまま休んでしまいましょう。ソファのふかふか具合がそう思わせてくれます。
明日からはまたターゲット追って冒険者として生活して。
慌ただしい日々が待っていそうです。




