第16話
「こ、これは……オークの赤ちゃんですか……!」
「身籠っていたみたいです。連れて来てしまいましたが大丈夫でしたか?」
タイミング良く受付に居たハルカは、何とも言えない表情でカウンターに置かれたオークの赤ちゃんを見つめました。
オークの赤ちゃんはカウンターの上ですやすやと寝息を立てています。
魔物の子供だからでしょうか。生まれたばかりだというのに特に処置をしなくともピンピンしていて、ちょっとした人間の子供くらいの大きさもあり抱えるだけで一苦労です。
美幼女が魔物の赤ちゃんを抱えているとは、歩いている間は随分と注目を集めてしまいました。
連れて来てしまったものの、引き取れないなんて言われてはワタクシもどうしようもありません。
「大丈夫ですよ。買い取ってくれる調教師の方が居ると思いますから」
「それなら良かったです」
「報酬はどうしますか? 直接受け取るか振り込みかを選べますが」
「今、いただきますわ」
いつまでこの町に留まって居られるかもわかりません。すぐに受け取ってしまうのが良いでしょう。
「わかりました。赤ちゃんの分も入れておきますね」
そう言ってハルカはオークの赤ちゃんを裏へ持って行き、硬貨の入った小袋を手に戻って来ました。
小さいながらもズッシリとしていて、冒険者として初めての報酬だと思うと実際の価値以上に重たく感じます。
「魔物の赤ちゃんは中々手に入りませんからね。多めに入れておきました」
「ありがとうございます」
さて、これからどうしましょうか。
宿屋に戻って早めに休むか、豪華に食事でもしてから帰りましょうか。
報酬を受け取ったばかりというとついつい財布の紐も緩くなってしまいそうです。
「まさかいきなりオークを倒すなんて、思ってもいなかったぜ」
「あら。この間は情報、ありがとうございました」
後ろから声をかけて来たのは、オークを見かけたというあの冒険者でした。名前は確か、ヘイルといったでしょうか。
受付嬢から気を付けるように注意を受けただけに少し身構えてしまいます。
相変わらず、不審な所なんて少しもない男でした。
「話があるんだ場所を変えないか?」
「……こんな子供を誘って良いんですの?」
「なぁに。あんたがただの子供じゃないのはこのギルドに居る奴らな全員が知っているさ」
ヘイルの動作に合わせて周囲を見渡すと、ほとんどの冒険者は視線を逸らしました。そして僅かな人数が、憐れむような眼でワタクシを見ていました。
注意しろ、と言われるような方です。この誘いにも裏があるのは間違いないでしょう。
「……ギルドでは話しにくいことなのでしょうか?」
「周りの目が気になるからな。差し支えなければ移動したい」
「……わかりました。案内してくださいます?」
裏があるのは間違いないのです。
それでも、その裏を見てみたいと思ってしまうワタクシは、見た目以上に子供なのかもしれません。
ヘイルに案内されたのは少し裏通りに入った店でした。
場所は少し薄暗い所でしたが店自体は高級感のあるお店で、およそ冒険者が訪れるような場所とは思えませんでした。
ヘイルはそのまま魔物を狩りにでも行けそうな普通の冒険者の恰好。ワタクシもドレスを着てはいるものの所々破れ、返り血も付き、髪の毛もボサボサです。
ドレスコードに合っているとは思えません。
「大丈夫だ。ここのオーナーは寛大な方だからな」
それでもヘイルは気にせず入って行きます。
席へ案内してくれた店員も顔色一つ変えず、ヘイルと短く言葉を交わして引っ込んで行きました。
特に気負ったところのないヘイルの様子からも、この店に通い慣れているのがわかります。
「オークはどうだった?」
「苦労はしましたがまぁ、何とかなりましたわ。オスとメスのつがい。見た目がアレでなければロマンチックでしたのに」
「ははっ、確かにそうだな」
そんな会話をしていると、すぐに料理が運ばれて来ました。
こういう高級な店でのコース料理は経験がないですが、大きなお皿にちょこんと乗せるのが高級感の象徴なのでしょう。
味も良くわかりませんでした。
そして料理を楽しんでいる間も、ヘイルは何気ない世間話を続けていて中々ワタクシを呼び出した理由を切り出しません。
そのままデザートまで食べ終えます。
「それで、今日は何のお話でしょうか?」
切り出すと、ヘイルのまとう雰囲気が変わりました。
「俺は今、ある人に雇われているんだ」
雇われている。その意味を改めて問おうとした時、タイミング良く店の扉が開きました。
そちらに目を向けると、冒険者然とした男を何人も連れたラッタ種の男が入って来るところです。
どこかで見た気がするような……。
男はヘイルを見つけると真っすぐこちらへ向かって来ました。
「あちらが俺の雇い主だ」
「ヘイル君、こちらのお嬢さんがそうかね?」
「はい。オークも簡単に倒してしまうような強者ですよ。お嬢ちゃんもせっかくだから直接話をした方が良いだろう」
「リリット・ホールだ。さて、どこまで話しているのかな?」
席に着いたその男は、今回のターゲットであるリリット・ホールその人でした。




