第15話
討伐の証としてオークの鼻を切り落としてから休憩します。少し早いお昼ご飯です。
ギルドで出がけに買っていたパンと果物を広げます。パンは固く、味はそれなりでしたが、果物の方は瑞々しくて甘かったです。
すぐ近くにはオークの死骸がありますが、離れるのが億劫になるくらいには疲れていました。
それも、食事と水分補給で多少はマシになりました。残ったオークが同じくらいの強さであれば、十分に戦えるでしょう。
どうしましょうか。灯りを用意していないので横穴に飛び込んで行くのは気が引けます。
それでも、
「虎穴に入らずんば、ですわね……」
向こうから出て来るのをずっと待つわけにもいきません。中の状況も見ないで手をこまねいているのも悪手でしょう。
とりあえず中の様子を探る。危険そうであればすぐに退く。
これを徹底すれば大丈夫でしょう。
近づいても穴の奥は見通せません。軽く下り坂のようになっていて、日光も入口近くで途切れています。
最初の予想通り、やはり人工的な穴でしょう。
「これは……」
特に目立つ物はないと思っていましたが、スイッチのような物を見つけました。
この横穴が何かを採掘していた跡であれば、灯りのスイッチかもしれません。もし違ったとしても入口の近くであれば罠だとしても容易に逃げられましょう。
カチッと小気味良い音がしました。続いて、ジジッと言う音。一拍置いて、手前から奥へと順々に、天井付近に取り付けられた灯りが点っていきました。
「……これなら戦えますわね」
灯りが点いた瞬間に奥の方からうめくような声が聞こえましたが、きっと気のせいでしょう。
と、現実逃避してみましたがオークが居ると思ってここに来ているのです。何を恐れることがありましょうか。
意外とビビりな自分を発見して何だか微妙な気分です。
気を取り直して。
一本道なので特に警戒することなく進んで行きます。しばらく進んで行き角を曲がろうすると、その先で何か動くような気配がしました。
十中八九オークでしょうと思って慎重に顔を出しますと、案の定オークが一体寝そべっていました。
そこが行き止まりのようで、地面も整地されて動物や魔物が山のように積まれています。そこはあたかもオークの部屋のようになっていました。
オークはそのまま餌の山から小動物を取り上げると、一口に放り込みます。そしてそのままバリボリと骨ごと食べます。そして次は大きな鹿に手を付けると、じっくりと食べて残った骨はまた山のように積まれていきました。
ちょっと見ている間にも休むことなく食べ続けています。
表に出て来たオークよりも一回り以上大きく、これだけ食べるのであれば食糧の確保も大変でしょう。
そして、グルフロウ達がご飯にありつけていないのもこのオークが原因でしょう。
寝転がった状態であればすぐに動き出すことはできないでしょう。
剣を握り直し、深呼吸をします。
狙うのは首です。首冴落としてしまえば一瞬で勝負はつきます。
「覚悟してくださいませ」
角から飛び出し剣を握る手に力を込めます。オークはすぐにこちらに気づきましたが、今から起き上がった所で避けられないでしょう。
しかし、
「――!」
首元へ迫ろうとした時、オークが腕を振り上げました。
拳を下ろす。それだけの攻撃でしょう。オークの動きであればそれを避けて攻撃することも可能なはずです。
しかし寸前でワタクシの背筋を何かが駆け抜けました。
その嫌な予感に従って足を止めると、ワタクシの目の前に巨大な隕石が落ちて来ました。
もちろん、落ちて来たのは隕石ではなくオークの拳です。しかしその勢いでワタクシがたじろぐほどの風圧。そして地面をめくりあげるほどの威力を見ると、隕石としか思えませんでした。
予感に従って足を止めて正解でした。
あのまま進んでいたら――
しかしその想定はするだけ無駄です。今はオークの攻撃を避けられて、攻撃のチャンスということです。
魔力を腕に集中させ、目の前の腕を一刀両断。
そして叫び声を上げるオークの口を目掛けて剣を突き出しました。
「……浅い」
踏み込みが甘かったのか、まだオークには息があります。
更にもう一歩踏み込もうとしましたが、剣はピクリともしませんでした。ガッチリその歯で刃に噛みつき、押すことも引くこともできません。
少し間違えればそのまま剣が刺さって死ぬというのに迷わず受け止めようとするとは。目の前のこのオークもまた、死に物狂いなのでしょう。
だからと言って負けるわけにはいきません。
グッと力を込めて剣を押します。やはりピクリとも動きません。しかし力を緩めて一瞬後、一気に引き抜きます。
ずっと力を入れ続けることは不可能です。こうして簡単に剣は自由になりました。
しかし自由になったのはオークも同じ。すぐに片腕で器用に立ち上がるとすぐに襲い掛かって来ました。
それでも手負いのオークの動きは簡単に読み切れます。
その腹を一閃。
決して浅くはないですがそれでも決定打にはならないダメージです。だというのに数歩後ろに下がったオークは、過剰とも言えるほどの反応を見せました。
茫然自失といった様子で傷を押さえ、跪きます。
これほどまでにわかりやすい隙を見逃すワタクシではありません。
もう一体のオークにやったように首を刎ねました。
依頼達成。それでも何だか達成感だとか爽快感だとか、そういう感情はまったく湧いて来ませんでした。
最後の最後がこんな終わりだったからでしょう。しかしそういう物を求めて戦っているわけではないので割り切るとしましょう。
二つ目の鼻を手に入れ、これで本当に終わりです。
その作業をしている時、倒れるオークのお腹の辺りがもぞもぞと動いているのに気づきました。
「ちょっと……やめてくださいまし……」
懐かしの映画を思い出して口調もどこかおかしくなってしまいました。
しかしまさかオークの腹から地球外生命体が産まれるわけでもないでしょう。それを言い出したらこの世界に居る生物はみんな、地球外生命体です。
そう思えばなんだか怯えていたのがおかしくなってきました。せっかくなのでその正体を確かめてみるとしましょう。
慎重にお腹を裂いていきます。
「ァァァァァッ――」
「そんな……まさか」
オークのお腹から現れたのは小さな小さなオークでした。




