第14話
最後にもう一度だけ深呼吸をします。
巨大な棍棒。太い体。素早い動きは苦手でしょうが、一撃は重いはずです。
対するこちらの武器も大きいので、一撃の鋭さは負けていません。動きの速さも負けていないでしょうから、一撃離脱で攻撃を食らわないことを念頭に戦いましょう。
オークが巣から離れて森に向かいます。
岩が多いので後ろに回ることは簡単にできました。こちらに気づいた様子はありません。
剣を下げるように構えながらオークに駆け寄ります。その最中も気づかれないように細心の注意を払いながら足音を立てないようにします。
「っ!」
攻撃の瞬間は思わず声が出そうになりました。
寸前でオークも気づいたものの、それで完全に避けられるほどの瞬発力はオークにありません。
しかし、
「――嘘でしょう!?」
剣の刃はしっかりオークに当たりました。
特別な能力がないにしろ切れ味は十分で、完全に当たればグルフロウですら両断してしまうほどの剣の一撃です。
しかし脇から肩へ切り上げようという一撃はオークの肉体に阻まれ、ワタクシの手にはゴムを打ったかのような感触がありました。
多少は肉を切り出血もしています。切り傷程度の浅い傷ではないですがダメージが大きいとも思えません。
そして振り返ったオークが棍棒を振り上げました。
呆気に取られて距離を取ることを忘れていました。
ギリギリで躱すことはできましたがオークの棍棒は地面を砕きます。その破片が顔の方にまで飛び、目に入るかもしれないと閉じてしまいました。
その瞬間、オークの拳がワタクシに叩きこまれました。
「ごはっ!」
呼吸が止まり、視界がチカチカします。
それを無理矢理に正常へ戻して着地をすると、オークが追撃をせんとワタクシに迫っていました。
すぐに剣を構えます。
「切るのがダメなら突くだけですわ!」
オークが攻撃の態勢に入る前に踏み出します。
突き出した刃は腹に沈み、跳ね返されるかと思いましたが肉を突き破る感覚がありました。
しかし一つ誤算が。
オークは自分の腹に剣が刺さっているにも関わらず、それをまったく気にした素振りがないのです。
歩みを止めることなくズシズシと進み、剣はそれ以上刺さらず。ワタクシは押されるようにズルズルと下がって行きました。
そして背中が岩に当たりました。
目の前のオークがにぃっと笑ったように見えます。
「危ない!」
背中の方で風が起こり、続いて岩が砕かれる音。
何とか避けることはできましたが、唯一の攻撃手段である大剣がオークの体に刺さったままです。
脂肪で剣を受け止めるだなんて、オークはこんなに常識外れの魔物でしたの?
大人よりも一回りも大きい身長で、この時ばかりは幼女の体を恨めしく思います。
「仕方ないですわね」
こうなった以上、身体強化の魔法を使わなければなりません。ちょっと使っただけでも眩暈を起こすほど魔力の少ないワタクシですが、素の力で叶わない以上仕方のないことです。
できる限り魔力の使用を最小限にするよう、練習もしていたつもりです。
まずは剣を取り戻さないといけません。
「強化するのは一瞬だけ――!」
「ウヴォアア!」
脚力に僅かな時間、魔力を込め、ロケットのように飛び出しました。
すれ違いざまに剣へ手をかけ、勢いのまま引き抜きます。流石のオークも無傷で済まず、剣の抜けた所から血を噴き出しながら声を上げました。
しかしこれで倒れるようでは苦労はしません。
左手で傷口を押さえながら、棍棒を手に突撃して来ます。しかし岩をも砕くその一撃も来るとわかっていれば容易に避けることができます。
横殴りの一撃を跳んで躱し、着地すると同時に再び脚力を強化します。
「ヴァアアアアアアアアアアアアア!」
ボトリとオークの右腕が落ちました。
着地の時にふらついて地面に膝をついてしまいましたが、オークからの追撃はありません。
腕力の方も強化すればオークの腕を切り落とせる。もしかしたら腹と違ってそれほど脂肪が溜まっていない分、衝撃も吸収し切れなかったのかもしれません。
どちらにしろ、身体強化の魔法を使えば攻撃は通用する。それがわかれば十分です。
「ウァァ……」
右腕を失くしてダラダラと血を流し、その目には怯えの色が隠し切れていません。勝敗は明らかですが、流石にここで油断をすることはありません。
少しだけ身体強化に使う魔力を減らし、怯えているオークの首を落としました。




