第13話
怪しい表情。
しかし背に腹は代えられません。特に今はオークに関する情報も何もないわけですから、ヒントの一つとでも思えば良いでしょう。
「森を東の方かな。に抜けると小さいが岩石地帯になっているんだ。この前、そこに一体だけだが入って行くのを見た。依頼が出される前だからそいつらのことだと思うぞ」
「なるほど……。ありがとうございます。参考にさせていただきますわ」
「気にすんな」
それだけ言って冒険者は去って行きました。
その様子は本当に、ワタクシがオークを倒せるかどうかを見極めたいだけに思えました。
一体を見かけただけ。それでも倒せれば半分は達成することになります。とりあえずはそこを見に行くのも良いでしょう。
罠だとすればもう少し確度の高い情報にするはずです。
そもそもワタクシを罠にハメるような理由は彼にはありません。この前ボコボコにした冒険者チームの報復だとしたら、言っていた場所は遠いでしょう。
その岩石地帯に向かいながらグルフロウを探す。これが確実でしょう。
何にせよまだ昼間ですが、早く寝て夜の内にでも町を出るとしましょう。
そう思っていましたが、日の高い内に寝て目が覚めたのは次の日の明け方でした。
グルフロウのボスとの戦いで精神が。治癒魔法で肉体からエネルギーを使われ、ワタクシ自身が思っていた以上に体に負担がかかっていたのでしょう。
日もまだ昇り切らない内に開いているのは冒険者ギルドくらいです。
酒場も本格的には動いていないでしょうが、簡単な朝食なら食べられるでしょう。
朝は昼間とはまた違った独特な空気があります。普段ならたくさんの人が行き交っているであろう場所を一人で歩くというのは、妙に心地良いものです。
冒険者ギルドも普段の喧騒が嘘のように静かでした。数人が食事をしたり眠ったりしているだけです。
簡単なサンドイッチを頼んで席に着きます。
「お向かい、失礼するわね」
そんな私に、再び誰かが話しかけて来ました。
昨日と違って今日は女性。受付の制服を着ています。チラリと見かけたことだあるだけで名前もしらない方です。
こちらも朝食でしょうか。向かいの席に腰掛けます。
制服を着ているということはまだ仕事中のはずで、ほとんど人が居ないとは言え良いのでしょうか。
「良いんですよ。この時間に人が来るのはめずらしいですから」
ワタクシの視線から察したのでしょう。そう言って笑いました。
女性の方から何か話して来るかと思いましたが、食事がひと段落するまでは互いに一言も発しませんでした。
妙な気まずさがあって食事も喉を通りにくかったです。
「急にごめんなさいね。早番の時はいつもここで食べているんですが女性はほとんど来なくて」
冒険者自体、男性の方が多くてそこから朝早く来る人、となれば同席できる女性は確かに少ないでしょう。
一人で食べることの寂しさは知っているので拒否するはずもありませんでした。
まぁ、ワタクシが女性に入るのかどうかは疑問ですが。
「昨日、ヘイルさんと話していましたよね?」
「名前は聞き忘れていましたが多分その人なのでしょう」
「アマルさんは見た目の割に大人っぽいので大丈夫だと思いますが気を付けてくださいね。それだけ伝えたかったんです」
それっきり私が何かを言う間もなく、そしてちょうど受付に他の冒険者が来たこともあって、その受付嬢はテーブルから去りました。
まさか朝からいきなりこんなことを言われるとは思いませんでした。
何か具体的に注意されたわけではありませんが、それでも最低限のことは伝えよう、そういう気持ちだとしたら無下にすることもできません。
これはオークの情報をそのまま信じて良いのでしょうか。それを基準に予定を立てていただけに不安になります。
簡単に倒せると思っていたグルフロウに手こずったことと良い、ワタクシは意外と冒険者に向いていないのでしょうか。
これまでずっと木の景色が続いていて、それがまばらになったと思ったらすぐに岩石の積み上がった荒れ地のような場所に出ました。
その岩石地帯はあまり広くなく、その岩石も所々に整えられたような形跡が見られます。採掘跡だとかそういう感じの場所でしょうか。
朝ご飯を食べた後、しばらく悩んで結局、言われた通り岩石地帯に来てしまいました。
受付嬢の言葉が気になったものの他に当てがあるわけでもなく、途中で必要な分のグルフロウも倒してしまったので行かざるを得なかったのです。
ちなみにそのグルフロウも、先に倒した七体と同じように痩せ細っていました。
無事にグルフロウは規定数倒し、依頼は順調。後はこれが罠でないのを祈るだけですが、岩山に開いた横穴から大きな顔が覗きました。
周囲を警戒するようにキョロキョロし、また戻って行きました。
「一安心ですわね」
頭しか確認できませんでしたがあれはオークで間違いないでしょう。
醜悪な人間に似た顔。ひと際目立つ豚鼻。血色の悪そうな顔色。見間違えようがありません。
もう少し待つと、オークは動物の骨のような物を抱えて外に出て来ました。その様子を観察していると、少し離れた場所に同じように骨が積まれています。
それだけで結構な量があるのはわかり、大柄なオークだとしても一体で食べられる量ではありません。
二体で暮らしているというのは容易に想像がつきました。
そしてオークがあれだけ大量に食べているのであれば、グルフロウの餌がその分足りなくなったのでしょう。放置していたらそれだけ、生態系に与える影響は大きそうです。
「しかしどうしましょうか……」
遠くから見ても、オークが暮らしている横穴は暗いのがわかります。闇の中では満足に戦えないでしょう。
しかも本当にあそこで二体のオークが暮らしているのであれば、慣れない環境で二対一。避けるべきところです。
しかし誘き出すような策があるわけでもありません。
結局は、オークが出て来るのを待つことにしました。
食べ残しの山を見ればオークが大食漢なのは想像ができます。あれだけの量を貯め込むことも難しいでしょうし、そう待つこともなく狩りに出かけるはずです。
横穴から離れた位置の岩陰に腰を下ろします。
ボリスを簡単に殺したせいで自分が強いと錯覚してしまいました。そのせいで昨日はボロボロになったのです。
油断はしません。
「……来ましたわね」
横穴からオークが顔を出し、再びキョロキョロと周囲を見渡します。
こちらに気づいた様子もなく現れたオークの手には巨大な棍棒が握られていました。
「行きますか」




