26 上のやりそうな事って、違う世界でも変わりは無いのか
「ふわああぁ〜っ」
「サクラ、のど○んこ丸見え」
「やだーち○こだってーくすくすくす」
「アン、下ネタに反応良すぎ」
お嬢ちゃん達がかしましい。きゃっきゃと笑いあうから、髪を縛るのが大変だ。
やれやれと呟き、村上○樹かよとひとり突っ込むが、わかる人はこの世界に存在してないなと思うと余計虚しくなった。やれやれ。
トマス始め、チビちゃんチームがべったり貼り付いて離れない。広いベッドが気に入ったのか、お昼寝も夜も一緒。時々裏拳や踵落としが炸裂。なので眠りが浅くなり、昼間に欠伸が出てしまう。
でも可愛いから許す。
元気になって身体を持て余し始めたビルと双子は、なんと傷顔男と仲良くなっている。あの無口な奴と、よく絡めるものだ。
でも顔の割に、意外と面倒見が良いようだ。外の森で、罠の仕掛けを教えて野うさぎをゲットとか、煎じると熱冷ましになる薬草を探すとか、しょっちゅう四人で出かける。
悪党一味は、傷顔の行動は黙認、ってより興味なし。わたしさえ敷地内なら文句は無いので、暫定ボスと軍人風は昼間っから酒飲んだりカードゲームしたり。これが現代日本なら、開店前からパチンコに並ぶだろう、間違いなく。
ロッテンは、こんなに長くかかるなんてとぷりぷりしているが、誰も気にしちゃいない。下働きは身分上やらない、孤児の世話をどうしてわたくしが、周りは田舎過ぎて出かける気にもなりませんわってことで結局二人と同じ道を歩んでいる。つまりはカードとお酒。いいのか身分ある女史が昼間っから。
この緊迫感の無さから、まだまだここに留まるつもりなのは分かった。たぶん冬を越すのだろう。なのでサクラも腰を据えて対策が練られるというものだ。
奴等に見つからないよう気を付けながら、シスターに地理を訊ねた。
「元はアトリファスという国でした。十年前になりますか、ダガイルが侵攻してきて一度は墜ちたのですが、リオネル王子が取り返して下さったのです。王族が絶えてしまって結局はシャトルリューズに併合されましたが」
ほうほう、シュヴァイツさんに聞いた歴史と同じだわ。
「現在、ダガイルとはあの山々を挟んでいるのですね」
「ここから東に半日ほど歩くと、峠へ向かう道にぶつかります。峠を越えるには歩きか馬で、馬車は道が細くて使えません」
ダガイルに行くルートはその一本限り、それか、西から大きく遠回りして、他の国を二つ通るしかないらしい。
じゃあ確実に、あの道通るわけだ……ってかダガイル確定じゃん。嫌だわ侵略と略奪が趣味の王様なんて。後宮も女の戦いエンドレスだろうし。
「あと半月で山々は雪が降ります。そうすれば峠は越せません」
だからあんなにのんびりモードな訳か。ここで越冬確実だな。
タイムリミットははるか先だけど、だから安泰じゃないし。どうしたものかな。
チビちゃんをシスターに任せて、マリアと洗濯物を取り込む。一番歌が好きなマリアは必ず合唱をせがむ。
「好きだねー歌うのが」
マリアはうん、と頷いて呟いた。
「歌ってるときは、嫌なことや怖いこと思い出さないから」
マリアは目の前で母と姉が乱暴されているのを耳にしながら、戸棚に隠れて逃げ延びた。今でも突然思い出して涙が出るのだ。最初は何かまずいことでもしたかと、私はオロオロした。
ここの子どもたちは皆似たり寄ったりの境遇だ。親兄弟は殺されたか、ダガイルに連れていかれて奴隷にされたという。助けられて、寝る場所と食べ物があるだけで幸せだと……
「サクラさん?」
「なんでもない。さ、片付けちゃおうよ」
辛いのは私じゃない。泣いたって何もならない。
「あ、帰ってきた」
傷顔と男子三人組が笑い声を上げながらこちらにやって来た。こうして見ると髪の色が同じだから年の離れた兄弟みたいだ。それを言ったら、マリアがとんでもないことを答えた。
「ボリスさんはこの辺の生まれだからね。あのひとはダガイルに連れていかれて奴隷にされたんだよ」
「嘘」
傷顔の名前初めて知った。いや問題はそれじゃなくて。
「あのひとオデコにバッテン入れられてるの。奴隷の印」
聞かれても良いのか、マリアは淡々と話す。案の定近くまで来た傷顔もといボリスさんも、そうそうと頷き、ひょいと前髪を上げた。
鳥肌が立った。
「焼きごて……?」
「ああ、そうだ」
「なんでまたそんなところに……普通は肩とか」
「普通ってなんだ?」
あ、そうか。世界が違えば常識も、でもこれは酷い。
「服で隠れるところは、探すの面倒くさいからだとよ……おい」
ひどいよこんなの。焼きごて押されるとき、怖かっただろうに、痛かっただろうに。
えぐえぐと子どもみたいに泣いたわたしに、ボリスさんも子どもたちも優しい。それがまた泣ける。
「あんた、神の遣いって本当か?」
二人きりになったとき、ボリスさんが訊いてきた。
「よくわかんない。でも神様に、この国に連れてこられたのは確か」
ふうんと答えたボリスさんは、少しだけ考えてから言った。
「もし神様と話が出来たら、あの国を潰してくれってお願いしてくれ」
「ダガイルを」
「ああそうだ。あいつらなんか人間じゃない。小綺麗な皮を被った悪魔だ」
「わかった」
わたしの声に、ボリスさんはにこりと笑った。よく見ると、優しい目をしたひとだと、思った。
更新遅くなりました。決して余所のお話の獅子顔王様に萌えていたせいじゃありません。
今回地味な話だったので、次でもう少し話を進めたいです。獅子顔出したいから。




