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暴露動画が投稿され、配信者すみれが炎上し、二週間が経過した。
炎上したが燃料が続けて投下されなければいつか落ち着いて、気づけば「一部は覚えているけど大半は忘れている」状態となることを、四年間の配信者活動のなかで知っていた。
言い訳じみた動画を投稿するか迷ったが、暴露動画が出て三日後に、蒼次郎は暴露動画に対する短い動画を投稿した。
「はいこんばんは~。男と付き合ったのが暴露されて炎上したすみれでーす。ヤケクソだよ畜生」
そんな台詞から始まった短い動画で、すみれが付き合ったのは暴露動画で言われたとおり、古参リスナーの一人だということを話した。あくまでこちらから連絡を取ったのだと強調し、蒼次郎は頭を下げた。
「俺を応援してくれた人たちのなかには納得いかないだろうし、むかついている人もいるのはわかってる。俺に時間をくれ。落ち着いたらきちんとみんなに話したい」
動画を投稿したあと、SNSには一切触れなかった。どうせ自分のことを悪く言われているのはわかっているし、否定的な意見を目にするのは億劫だった。これ以上、人の感情に触れて心を重くしたくない。
蒼次郎はごろりとリビングのソファに転がる。テレビからはアナウンサー二人が「今日は暑いですねえ」と話している。
だらだらと天気予報を見る。カレンダーは七月になり、気温が一気に高くなった。それでも、ずっと空調のきいた室内にいるので実感はあまりない。
「ネットをしていないと暇だな……」
呟き、アイスコーヒーを飲む。自分で適当に作ったアイスコーヒーは全く写真映えしない。それでいい、それが許されることにほっとする。
蒼次郎は台所のほうをちらりと見る。台所の電子レンジが置いてある棚に、蒼次郎はわざとスマートホンを置いて充電していた。
台所に置いてあれば電話が鳴ればすぐに取りに行けるが、目の前にあるわけではなく距離があるので、少しはスマートホンを触る抑止力になる。普段は仕事部屋のゲーミングチェアの前に座っていることが多いが、リビングにいるのも、気になってパソコンを触り、ネットを見てしまうことを防ぐためだった。
動画を作る気力も無く、日々、だらだらと過ごしている。リビングのテーブルの上には書店で買い込んだ本が積み置かれている。
十冊以上ある本のうち、五冊を読み終えた。
――ミステリーは偉大だ。脳が刺激されまくって、その反動で疲れて昼寝が捗る。
だが、同じ物を食べ続けていると飽きるようにミステリーばかりでも飽きる。今読んでいるのは鮫の雑学本だった。子供向けだが絵がかわいく面白いので、気楽に読める。
地を這うような低い音が聞こえ、蒼次郎はソファから起き上がり、台所へ向かった。台所の棚に置いたスマートホンが震えている。画面を確認すれば直弘からの電話だった。
画面に表示された直弘の名前を見てほっとする。充電ケーブルを抜き、電話に出る。
「お、直弘、どうした? 朝から電話なんて珍しいね」
リビングに戻り、部屋にあるデジタル時計で確認すれば朝の十時前だ。就職活動中で時間の融通がきく直弘だが、朝に電話をかけてくることは今までなかった。
「とくにこれといって用は無いんですが、蒼次郎さんのことが気がかりで。……その、メッセージ送ろうかと思ったんですけど」
直弘の照れたような笑い声が聞こえる。
「あの、声が、聞きたく、て」
ぎゅうと心臓が甘く捩れる。胸の奥でパチパチと炭酸の泡が弾けるように恋心が弾けて、甘さが広がる。
「直弘~! 好き~!」
たまらずそう言うと、顔が見えないのに直弘が笑ったと分かった。
「俺も好きですよ」
さらりと、それでいてどこか甘さが滲む声に、会いたい、と痛切に思う。会って、直弘を抱きしめたい。会いたいよ、といま言いたい。自分のことが気がかりだと電話をかけてくれた直弘の優しさが、恋しさを募らせる。
だがいまは会わないほうがいい時期だとお互い理解しているし、我慢している。自分が会いたいと言うと直弘を困らせてしまうから、蒼次郎は自分の声がいつも通りの声になるように苦心しながら、他愛のないことを話す。
お互いに近況を話し合い、直弘が言う。
「ハローワークでの職探しを今日はお昼で切り上げるつもりです。また連絡してもいいですか。昼過ぎ……十二時半には連絡できると思います」
「うん、待ってる」
それから少しだけ他愛のない話をし、電話を終えた。
スマートホンを再び台所の棚に置いた蒼次郎は、リビングのソファに転がる。
二週間、直弘と会えていない。けれど直弘は少しでも時間ができると電話をかけてくれる。直弘が好きだし、蒼次郎のために行動してくれるのは有難い。
でも、と不安になる。直弘は献身的に行動してくれるが、それが重荷になって、恋心を潰す原因にならないだろうか。
――この状態が続いたら、別れるんじゃないか。
そんな不安な気持ちを、どうしても抱いてしまう。
直弘ともっと話したいと思う。自分自身のことより蒼次郎を優先しがちに見える直弘の本音を聞きたい。そうでないと、これから先、ずっと一緒にいられない気がする。
蒼次郎は大きく呼吸を繰り返し、ソファから体を起こした。
このままぐるぐると答えの出ないことを考え続ければ沼に足を突っ込んだように気持ちは沈んでいくし、這い上がるのに苦労する。
テーブル上のデジタル時計で時刻を確認すれば、まだ十時過ぎだった。蒼次郎はまだ読んでいない本を一冊掴み、ソファに転がった。




