献杯
「ジェイド!奮発しましたね!こんな良いお酒を。さすがに冷たいアナタでも兄の弔いならばここまではしてくれるんですね。」
なかなかの大声で嫌味っぽく喋るサクラだがここまでは普段通りである。
「サクラ…大丈夫なの?」
カエデは心配そうに声をかける。
「私達はこういう仕事をしているからな!元々、二人きりの家族だったが一人になった!悲しい!」
「ヴァルキリーは家族だと思っていますよ。」
「ありがとう!モミジ!私もカエデとモミジは可愛い妹だと思っているよ!」
「同い年じゃないの…」
俺は四人のコップに酒を注いだ。元気じゃねーか!なんて野暮なツッコミはしない。そう見せているだけだから。
「ジェイド!ツマミはないのですか!」
「献杯にツマミはつけねーだろ 」
「じゃあ献杯が終わったらツマミを頼みましょう!」
そう見せているだけのはず…
「ディアッカに献杯」
「献杯」
俺達が献杯しているとギルマスのフレイヤがやって来た。
「サクラ…これ」
俺が回収したディアッカの刀だ。
「ありがとうギルマス!ギルマスも献杯してくれ!」
「そうね…」
フレイヤも献杯してくれた。一息で飲む姿はとても美しかった。
「ジェイド!やはりアナタは巨乳が好きなのですね!私だってギルマスほどではないですけど形は良いですよ!」
雰囲気が台無しである。俺達は食堂に移動した。
「これからどうするんだ?」
「どうするもなにも。変わらないですよ。ヴァルキリーとしての活動はもちろん続けますし。兄が亡くなった、それだけです。あ、ポティトください。」
本当にツマミを頼んだ。まだ昼なのに…
「ディアッカさんの仇討ちをするつもりなんですか?」
モミジが聞きにくいことをズバッと聞いた。さすがである。
「いや、兄を殺ったヤツはもう始末されたらしい。肉親でもこれ以上は極秘って言われたけど!」
「そうなんだ…ゴールドのディアッカさんが亡くなるなんて…どんな危険な仕事だったのかしら…」
「私も詳しくは知らない。というか教えてもらえない。ケチだ!」
プラチナランク以上の仕事は極秘扱いだからな。ディアッカも表向きはゴールドランクだが本当はプラチナランクだ。
俺達はディアッカとの思い出を語りながら夕方まで過ごした。
「じゃあな。」
「ジェイド!こういう時は俺のとこに来ないか?とか言うもんじゃないんですか!行きます!」
「言ってねーし。ほれ帰れ。」
「私達はもうちょっと飲んで行きます。」
「そうね。今日だけはゆっくり飲みたいわ。」
カエデとモミジが気を遣う。
「おぉ!可愛い妹よ!冷たいジェイドとは違う!」
「だから同い年でしょって」
なかなか酔っているようだ。俺はギルドを後にする。
俺は宿に戻り一眠りする。
静かな王都の噴水の前にサクラはいた。コップを片手に静かに水面を見ている。こうして見ると貴族令嬢のようである。実際に声をかけられることは多いが会話してチョットチガウとなることがほとんどだ。
「もう二人は休んだのか?」
「えぇホームで寝ているわ。」
ヴァルキリーは王都にホームの一軒家を借りている。三人暮らしだ。
「私は兄の仕事を詳しくは知らない。」
サクラがボソッと言った。
「兄は強かった。私達より。」
「そりゃゴールドランクだからな。」
「違う。私は兄はゴールド以上だったと思っている。」
サクラは妙に鋭い。
「兄が負けるということはゴールドランクでは誰も勝てないということ。でも相手は始末された。それがどういうことかわかっているつもりだ。」
「よくわかんねぇな…」
「本当にアホですね!ジェイドは!それ以上の実力者がギルドにはいるってことです!」
「なるほど…それで?」
「私達ではその域に達していないから話せない!そういうことなんですよ!」
「だから私はそれ以上を目指します。ゴールドの上を!」
コイツは本当に鋭い。じゃあ普段はなんなんだよと思うがそれもまた彼女の本質なんだろう。
「ジェイド!アナタもいつまでシルバーなんですか!私達より強いくせに!」
「いやいや、良くて引き分けくらいだろ。」
「私達は個人でもゴールドランクです!ゴールドと引き分けということは少なくともその実力はあるでしょう!」
なぜ俺のランクの話になるのか…
「俺は指名依頼とか貴族依頼が嫌だからな。シルバーくらいがちょうどいいんだ。前にも言ったろ?」
「確かに!前も聞きました!ごめんなさい。」
よくわからんテンションだ。
「私達は今後も仕事をして王都一のパーティになります!そして兄の死の謎を解き明かします!」
「急に探偵みたいな…」
「私は納得できないのが嫌なんです。強かった兄が誰に殺されたのかわからないままでは嫌です。」
「ジェイドは気にならないんですか?」
む…そうくるか…
「サクラ…俺だってわかっているつもりだ。ゴールドでも勝てない、ナニカが存在してるってのは」
実際にシルバー以上になるとその片鱗に触れる機会は多くなる。わけのわからん規模での後始末、災害としか思えないような魔物の死体。
「そのナニカってのはタブーなんだろうよ。世に知られると混乱してしまうような。」
「だからこそ私は強くなりたい!兄はその域にいたはず。」
俺はそれ以上は何も言えない。
沈黙が二人を包む。
「ジェイドは死なないですよね?」
急にマジなトーンで聞いてきた。
「俺は危険な仕事はしないからな。」
「絶対にダメですからね!死ぬのは!私の家族計画が崩れますから!あと五年以内の話なんですから!」
サクラは俺に一目惚れしている…らしい。正直、テンションのせいで真偽がわからんが。
「あと!風俗店に行くのもダメですよ!その時は私が相手しますから!」
「いや、なんちゅーこと言ってんのよ。」
矢継ぎ早に思ったことを喋るからサクラの相手は楽しいが大変である。
「さて、ジェイドの部屋に行きましょう!慰めてください。」
「…とりあえずもう帰ろう。明日からもう復帰なんだろ?」
「はっ!そうです!帰って寝なくては!では!」
サクラはそう言うとサッと帰った。切り替えはえーな。
「ディアッカ…サクラ達は俺がなんとか守るから心配すんな。」
俺は夜空に向かって呟いた。
「守るならヴァルキリーに入るか結婚しましょう!」
「まだいたんかい!俺が入ったらヴァルキリーじゃなくなるだろ!」
「確かに!じゃあ結婚で!」
「じゃあってなんだよ!とにかく帰れ!な!」
俺はサクラをヴァルキリーのホームまで送った。




