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【読者地図】創作エッセイ―読み手と書き手の共犯関係の向こう側―「なぜ、その物語は届かないのか」  作者: Taku
読者編:『なぜ、その物語は届かないのか ―受容の地図―』

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第2話 【共犯関係】共犯関係の三つのタイプ

では、共犯関係を三つのタイプで見ていくこととする。


タイプ①「観測する共犯」――「見る」ことで共有する快感


まず一つ目は、「観測する共犯」


これは、読み手が書き手の言葉を「見ている」関係のこと。書き手は世界を描き、読み手はそれを追体験する。もっともスタンダードな共犯の形だ。


自作品『彼女の計画』ではどうか。

私たちは拓の視点を追い、瞳の視線を受け止め、純の観察を観察する。

書き手は「非常階段で誰かが誰かを見ている」という状況を描く。読み手はそれを「見る」。

ここで起きているのは「見ている者を見ている」という二重の構造。書き手は見ている。読み手はその見ている様子を見ている。その視線の連鎖こそ、観測する共犯の本質である。


この共犯がなぜ気持ちいいのか。


それは、私たちが普段「見られる側」に立たされているから。会社では監視され、SNSでは評価され、常に誰かの目を気にしている。でも物語の中では、安全な距離から「見る側」に回れる。誰にも責められず、誰にも評価されず、ただ観測する。


その「無責任な自由」が、観測する共犯の最大の報酬になる。


あなたにも経験があるはず。夢中になって本を読み、気づけば自分が登場人物になっている感覚。それは観測する共犯が最も深まった状態と言える。


タイプ②「対話する共犯」――「考える」ことで応答する関係


二つ目は、「対話する共犯」


これは、読み手が書き手の言葉に対して「応答」する関係のこと。書き手は「問い」を投げかけ、読み手は「考える」ことで応える。答えを教えてもらう読書は受動的だが、考える読書は能動的だ。


『羊をめぐる冒険』(村上春樹)を例に考えてみる。この物語は、明確な答えをほとんど提示しない。「鼠」はなぜ消えたのか。「羊」とは何だったのか。ストレートな答えは最後まで出てこない。書き手は答えを教えてくれない。代わりに、読み手に問いを預ける。読み手は考え続ける。答えが出なくても、考え続ける。


なぜこれが楽しいのか。


それは「自分で見つけた」という達成感があるから。人から教えられた知識はすぐに忘れる。でも自分で考えて辿り着いた答えは忘れない。それが「対話する共犯」の報酬である。


『彼女の計画』もまた、多くの「問い」を読み手に投げかける。「拓はなぜ選べないのか」「純はなぜ観察するのか」「康介はなぜ何もしなかったのか」。答えは明示されない。でも、考え続けることで、あなた自身の「答え」を見つけることができる。それでいい。それが、このタイプの共犯の在り方。


この共犯が成立するためには、読み手に「覚悟」が必要だ。「わからない」ことを受け入れる覚悟。答えを急がない覚悟。この覚悟がなければ、読み手は「早く答えを教えてくれ」と焦る。対話する共犯は成立せず、物語はただの「もどかしいもの」になる。


タイプ③「創造する共犯」――「埋める」ことで完成させる協働


三つ目は、「創造する共犯」


これは、読み手が書き手と一緒に物語を「作り上げる」関係である。書き手は「余白」を残し、読み手はそこに「自分の記憶や想像力」を流し込む。


『羊をめぐる冒険』の「鼠」というキャラクターを思い出してみる。彼のセリフは少なく、その輪郭も曖昧。なぜ多くの読者が彼を「自分の大切な友人」のように感じるのか。それは、書き手が「鼠」の骨格だけを提示し、肉付けを読者の想像力に委ねたから。読者は自分の理想の友人像を「鼠」に投影する。この「投影」こそが、創造する共犯の核心である。


なぜ人は空白を埋めたがるのか。


それは脳が不完全な情報を勝手に補完する性質を持っているから。心理学では「 closure(閉合)」と呼ばれる現象。分かりやすい表現で言えば、「ケリをつける」。私たちは「欠けている部分」があると、無意識にそれを埋めたくなる。書き手はこの心理を利用している。


『彼女の計画』のラストシーン。未読の方も安心してほしい。拓と瞳と純は、何も話さない。沈黙が続く。その「間」は細かく描写されていない。しかしそこに、読者はこの物語での出来事やこういう場合ならという想像を重ねる。書き手が「余白」を残し、読み手がそこに「自分の魂」を注ぐ。この共同作業がなければ、物語は完成しない。


あなたにも経験があるだろう。描写されていない背景を、自分の経験で補ったこと。それが創造する共犯だ。

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