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サラは黄金のサラを探した。ただすぐに場所がわかった。金切り声が響いていたからだ。
「さっさと出しなさい!灰の者がここにいるのはわかっているのよ!!」
その後にパァンと言う音と人が呻く声が響いてくる。
「早く連れて来なさい」
そう言って部屋からジュリーが出てきた。
「ったいわねぇ。あれ本当に聖女なの!?」
「だ、大丈夫ですか?」
慌てて駆け寄ると頬が腫れていた。
「あら、サラ。……どうしてここにいるのかしら?駄目よ、皆のところに戻りなさい」
「私、その……聖女さまに会いたくて……」
「あら。でも駄目よ。みんなに駄目って言われなかった?帰りなさい」
「……言われてません。だから行きます」
サラは皆に何も言わずに来たことを告げず、ジュリーを振り切って、聖女サラがいる部屋へ入っていった。さらには鍵を閉めた。
『ちょっ……、ちょっと!サラ開けなさい!!サラ!!!』
ドアを叩く音が聞こえてくるが、それを無視をした。
「あら。お久しぶりね。相変わらず貧相なこと」
「………何か御用があると聞きました」
黄金のサラは蔑む眼差しで灰色のサラを見つめていた。黄金のサラの後ろには、ローブを顔半ばまで被った魔法使いのような者達が控えていた。
「はぁ。辛気臭い。嫌だわ。そうそう、貴女。聖女と持て囃されているそうね」
「…………………っ」
「聖女は私よ。貴女何を勘違いしているかわからないけれども」
灰色のサラは長年虐められた恐怖心から、黄金のサラと相対すると震えが止まらずに口もうまく動かなくなってしまう。
「ふぅん。相変わらずのだんまりね。まあ、いいわ」
「……………わ、私はそんなことは……」
「……そんなこと?……ふふ、貴女ばかりなのよね。………皆貴女ばかりなのよ。大神官様も貴女ばかり構うのよ。聖女は私なのに」
灰色のサラは黄金のサラを困惑しながら見つめるしかできなかった。黄金のサラは、灰色のサラを憎々しげに見つめていた。
「……貴女がいると何もうまくいかないのよ。城から追い出せばうまくいくと思っていたのに……。何もうまくいかない」
黄金のサラは持っていたポーチから、禍々しい黒い小瓶を取り出した。
「これさえあれば私はきっと認められる。王太子殿下も大神官様もきっと認めてくれるわ」
「そ、それは……何?それは駄目なものでは……?」
「知っているわ。……下働きがいないのは仕方ないけどいいでしょう」
灰色のサラは黄金のサラを止めようとした。その小瓶の正体はわからないが、何かよくない気配がした。灰色のサラにとって、それは濃い病の気配に似ていた。後ろに控えていた者達は、黄金のサラの耳元で何やら囁きながら何かを促していた。
「貴女さえいなければ………。貴女さえ居なくなれば私は………。私はっ!」
黄金のサラの口から『認められる』という言葉に水晶の割れる音が奇妙に響き渡った。
***
水晶に封じられていた病魔の雫は一気に散っていき、広がって行った。
それは人間にしか感染しない病で、肌に黒い染みが広がりそこから痛みと痒みをもたらした。それが続くと徐々に食欲が落ちたり、意識がなくなり始め重症化していった。そしてこの病は接触すると感染するため、そのことに気付いた人々は、病に罹った人には関わらないようにし、自分の家に閉じこもっていた。
しかしこの病には恐ろしい速さで進化をした。接触でしか感染しなかったその病は、その内に病に罹った人達の身体から、黒い靄を発生させ新たな感染者を増やして行った。
「今のところ城下町の外には漏れていないようだな」
コームは現状ままならないとは思いつつも、被害を城下だけに留められていることに安心していた。
黄金のサラがもちこんだ病魔の雫は、一気に広がって行ったが、何故かサロン・夕顔とボーテ・フルールには感染者がでなかった。そのため、その家族や近隣の娼館に勤める者達が集まってきていた。そもそも周囲がこんな状況となったため営業もあがったりな状況だった。
そしてことの発端となった黄金のサラは、現在地下の一室に閉じ込められている。
病魔の雫を発動させた時、ジュリーが呼んだコーム達によりあっという間に捕縛された。黄金のサラは、『あの解呪師が解呪するはずだったのよ、それで私が聖女に……』『私が聖女なのよ!灰の者は認められていない!!』と、同じようなことを何度も言っていた。あの小瓶を誰にもらったのかもはっきりと覚えていなさそうな様子もあり、明らかに裏に誰かがいそうではあったが、黄金のサラからはこれ以上の情報は聞き出せそうにはなかった。彼女の後ろに控えていた魔法使いは、病魔の雫を発動させた後すぐに姿を消しており、捕まえることはできなかった。
神殿にあるといわれている様々な効果を持つと言われている『雫』は、いずれも厳重に保管されており、外部へ持ち出された形跡はなかった。神殿でも今回使用された病魔の雫が、どこから持ち込まれた物かを至急調べてはいるが、今のところ見当がついていない状況であった。
そして黄金のサラの手によってばら撒かれた病魔の雫はゆっくりと、確実に、その魔の手を広げていた。神官や聖魔法の使い手や癒し手達がその勢いを削ごうとはしているが、進んでいないのが現状だった。
その中で灰色のサラは、コームより城下町一帯に広域魔法陣を展開し、この病魔の雫に対抗するように命を受けた。
広域展開する魔法陣は、サロン 夕顔やボーテ・フルールに使用している魔法陣を改良して発動しようとしていた。光と聖属性を強化し、コームから聞いた対魔の魔法陣を組み込もうとしていた。
『病魔の雫』は意思を持たない小さな魔物の集団と言われている。ただ目に見えないほど小さいため物理攻撃が殆ど無効になることと、異常なほどの適応と進化能力、魔法にも敏感に反応するので非常に困難な討伐対象となる。討伐方法としては、聖女や聖人達による聖魔法や広域高密度高威力の魔法により原因そのものを潰す方法と、薬師や癒し手、解呪師による対症療法がその対抗策となる。
「サラ、陣はどうだ?」
「でん………、んん、コーム、お陰様で陣はこれで完成です。あと、魔法陣を広げるときに魔力が足りるか心配ですが……」
「陣を広げるときには力を貸すから心配するな」
「ありがとうございます。心強いです」
灰色のサラは王城にいたときに、大神官とコームとともに魔法研究に勤しんでいたこともあり、その時に研究していた広域魔法も合わせて展開するつもりであった。
魔法陣の起点となる場所には既に印と聖水による浄化を行い、魔法陣が立ち上がりやすい環境を整えていた。
サラは城下町の真ん中に立っており、隣にはコームがサラの手を握りしめていた。
「サラ、魔法陣の発動はいつも通りに。魔力がなくなったら、僕の方から自動的にサラに送られるから」
「はい」
街には殆ど人気がなく、ここには灰色のサラとコーム、その護衛のオーバンやゾエ、サラに助けられた娼婦達、サロン 夕顔とボーテ・フルールの女将らがいた。
サラは皆の顔を一眼見て、息を吐き、呼吸を整えた。そして握った手の暖かさを噛み締めながら、歌うように呪文紡いでいった。
「きらきら降り注ぐ光は全てを照らす癒しの光。さらさら流れ注ぐ風の息吹は全てを吹き流す健やかな風。影が全て光となり余すことなく照らし、澱みが全て風となり余すことなく吹き流す。生命は元の流れに揺蕩い、身体は理に則り、魂はあるべき姿へ」
「陣、起動」
「流れは点をつなぎ、点はやがて流れへ。私の言霊を乗せて大いなる流れへ」
サラの呪文が形となり、コームが起動した起点へと流れていく。それは城下町全体を覆うもので、起動したところから魔法陣が淡く輝いていく。そして光の粒が空へと舞い上がり始める。
光の粒に触れるとシュワっという音と共に消えていくが、病魔に冒された人々が触れると、皮膚の黒い染みに溶けるように滲み始めた。そして黒い染みが光の粒となり、空へと舞い上がっていった。
突如光り始めた魔法陣に恐れ慄いていた人々は途端に外へと出て、その身を光に曝け出した。酷い人は服を脱ぎその身に光を浴びた。全て浄化するように光となり、空へと舞い踊る。
サラは魔法陣が効果を正しく発動させ、ほっと一息をついた。途中から自前の魔力ではやはり足りなくなり、コームから魔力を分けてもらい魔法陣を展開していった。
「見事だな」
「ありがとうございます。これも……コームの、皆さんのおかげです」
「サラの献身のおかげだ。……これで聖女が誰なのかはっきりするだろう」
コームがサラの手を強く握り返してきた。サラもそれに応えるように、コームの手を握り返す。
「私、なんかわかった気がします。私聖女になんてなれなくてもいい。ううん、ならなくていい。ただ、皆の役に立ちたいんです」
「……そうだな。サラは昔から何も望まなかった。でも困るんだ、それだと」
「……困るんですか?」
「好きな女性の望みは叶えたい。……望まなければ僕は何もできないんだ」
「すきな……?」
「君だ。サラ」
私?とサラが自身を指差せば、コームが満面の笑みで頷いた。
「僕は臆病で頑固だ。だが確実に落としたい。外堀は埋めてある。後はサラだけだ。でもなかなか隙がない。望む物がないから貢ぎたくても貢げない。宝石やドレスは喜ばない。だから困る」
わかるか?と目で訴えられるが、生まれてから色恋沙汰とは全く無縁だったので、わかるか?といえばわからないとしか答えようがない。ただ空気は読めるから口に出さないだけだった。すでに頭の中は何も考えられない状態で、コームの言葉は頭に入ってこなかった。
そしてコームは、サラの現状をよくわかっていた。
「……可愛い」
隣で俯いて両手で顔を覆い、ぶつぶつ何かを唱えているサラの両耳は真っ赤になっていた。そんなサラにコームが近づき、肩が触れるたびに「ひっ」といいながら、肩が触れないように距離をおき、またコームが近づき触れると離れるを繰り返していた。
コームはそんなサラの様子が可愛くて楽しくて仕方がなかった。そして幸せを感じているところに、無粋な声が聞こえてきた。
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