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短めです。
パァンッ
『貴女、目障りなのよ!早く出ていきなさい!貴女がいると王弟殿下も王太子殿下も迷惑なのよ』
いきなり手に持っていた扇子で頬を叩かれて、呆気に取られて、そのまま立ち尽くすしかなかった。
そして供を連れた金髪の美しい少女は、灰色の髪の少女を詰る。
『で、でも殿下達は迷惑だなんて言って『そんなの優しいお二人が言うわけないじゃない!?ねぇ皆さん?』
そう言うと取り巻き達は一斉に金髪の少女に同意する。
『言われたこともできない、迷惑ばかりかける、能力もない、何のためにここにいるのかしら?』
灰色の少女は惨めな気持ちになり、俯くしか出来なくなる。
『さっさと出ていきなさいよ。貴女なんて要らないのよ』
泣いたら負けなのに涙が出てきてしまう。耐えるために唇を噛み締める。血の味がする気もするが全く気にならなかった。
『おい!?何しているんだ?』
そこへ殿下達がやってくる。
『どうしたの?』
王太子殿下が金髪の少女達に問いかける。彼女達は有る事無い事囃し立てる。彼女達の話を王太子殿下はよく聞き、そして彼女達をどこかへ誘導していった。灰色の少女はただ俯くばかりだった。
『ほら、大神官のところいくぞ』
王弟殿下が手を引っ張って連れて行こうとする。足を踏ん張り抵抗する。
『わ、私でて行かないと……』
『……君の場合、ここを出て行くか出て行かないかは大神官が決めることだ。君が決めることはできないんだ』
『………だって殿下達にご迷惑が……』
『迷惑かけられてるのは、あっちの奴らだ。ったく聖女候補だからってやりたい放題……。だからお前は気にするな。いざとなれば俺が面倒見てやる!』
『迷惑、かけてない?』
『かけてない!むしろもっと我儘を言え!!全く!』
そこまで言われてようやく足が動きだし、そのまま手を引かれていつもの様に神殿へと向かう。繋いだ手が温かく、労ってくれる優しさが身に染みる。いつまでも続けば良いのにと思ってしまった。
***
叩かれた頬が痛い様な気がしたが、痛かったのは頭だったのを思い出した。
見慣れない豪華な寝台に横になっていると思ったが、そういえば今はボーテ・フルールにいたことを思い出した。
「サラ、よかった……。体調はどうだ?」
「体調は大丈夫です………。あ、れ?ん?コーム……さ、ん?んん?んんん?」
「もしかして、思い出したのか?」
「コーム………王弟殿下………?」
「ああああ!サラ!よく思い出した!!良かった、良かったー!!」
そう叫ぶとサラに抱きついたコームは、軽食をもってきてくれたゾエに引き剥がされた。
「コームさん。ここでは貴方は下働きです。サラさんは元聖女で今では皆に慕われております。むやみに触れないように」
貴人に対する態度ではないが、表向きコームは下働きのため敬称つけたり、態度を改めることは逆に皆に怪しまれてしまう。オーバンもその通りと頷いた。
「その通り!良い女がこんなに大勢いるのに殿下だけがサラさんに触れて、俺は指を咥えるしかないなんてそんなの酷い!」
「酷くない!記憶が戻ったんだ。喜ばせてくれ!」
コームとオーバンが言い合いを始めたことをいいことに、ゾエはサラの近くにきて軽食の準備を始めた。
「サラさん、体調はどうですか?」
「ありがとうございます。まだ少し頭が痛い様な気がしますが、動けないわけではありません」
「それは良かった。バルバラさんが医者を呼んでくれて薬を貰っています。少しお腹にいれたらこれを飲んで、今日は休んでください」
濃い緑色をした沼の様な液体を置く。
「こ、これを飲む……?」
「はい、薬湯に鎮痛薬と栄養剤を混ぜたものだそうです」
腐った水の様な臭いが鼻につき、美味しそうな軽食が腐りそうに感じてしまった。不味そうな薬湯をできる限り遠くに置き、軽食を美味しく食べてゆっくり休んで考えないと、頭が沸騰しそうだった。
そしてサラは薬湯を飲みゆっくり休んだことにより、頭の痛みや不快感はなくなり気分がすっきりしていた。頭が冴え渡っておりとても調子良く感じた。
だからといって目の前にコームの顔があったことにも、落ち着いて対応できるわけがなかった。
「あわわわわわわ。こ、コーム殿下!?ど、どうしたんですか!?」
「どうしたって…………心配した」
「うぅっあ、心配してくれてありがとうございます……」
「どうする?もう少し休むか?」
「……薬湯のおかげですっきりしてます。今日は働けると思います」
気づくとコームは椅子には座っているが、両手で手を握り込まれており、その整った顔をサラに近づけていた。
「顔色は良さそうだし受け答えもはっきりしているから問題ないな。……それからここではただのコームで問題ない」
「……コーム……さま」
「コームだ」
「……………コーム」
コームは優しく微笑み、サラの頭を撫でる。
「思い出してくれて良かった」
「あ、そうなんですよ!何故忘れていたんでしょうか?あんなに一緒にいたのに……」
申し訳なさそうに呟くサラに、思わず可愛くて抱きしめたくなったコームだが、鋼の理性で欲を抑え込んだ。
「ごめん。僕の呪いのせいだ。ローランにやられてしまった」
それから呪いのことと密かにサラのことを王太子殿下付きの従者に頼み、何かあれば連絡する様にしていたこと、ずっとサロン夕顔にいたことを話した。
「コーム……が大変な時に私は何もできなかったんですね」
「サラ、そんなこと気にしなくていいんだ」
「………私、その……お二人の役に立ちたくて……。良くしてもらいましたから。……だからでん、コームが大変な時に何もできなくて……申し訳が立たなくて……」
しどろもどろに言葉を綴るサラは、自分のことで一杯になって他のことには目を向けられなかった自分を責めた。
「俺でも破るのに時間かかったんだから気にするなよ!それにそれ言うなら、あのおじいちゃんがなんとかするべきだよな!?」
「あー……、巡礼を次の代に任せられなかった若造りの神官か」
「あの魔力と体力が無限大なじいちゃんが、予知能力に目覚めてよくわからない力で助けてくれるのがいい!」
「……希望かよ」
「でもやりそうだろ?」
皆の中の大神官は好好爺の容貌ではあるが、中身は何でもできるヒーローだった。大神官にできないことはないし、彼が困っているところなんて誰も見たことがなかった。勿論、負けたところも。そんな大神官だから、戻ってきたらこんな呪いあっという間に解けそうだった。
「大神官様はオーバンの言う通り、なんでも出来そうな気がします……」
「悔しいけどサラの言う通りだな」
「だろ?」
だからと言って人任せにはできないが、大神官が生きて戻ってきた時には相談をしてもいいかもしれないとコームは思い始めていた。ただ、大神官が自分のことを覚えてれば、の話ではあった。大神官は呪いが発現してから巡礼の旅に出ており、コームは大神官に忘れられていることが怖くて会いにいかずにいたのだった。
「でん……コーム、私も解呪の方法を探してみますね」
「サラ、ありがとう」
「コーム、俺もサラと一緒に探すぜ!」
「お前はいらない。僕がサラと一緒に探す」
オーバンと一緒に居ても、魔法の理論がさっぱりなため役に立たないことはわかっていた。逆にサラは、昔一緒に勉強もしていたし、気心も知れている(と、コームは思っている)。大神官とも顔なじみで、何より優しくて沢山自分に笑ってくれるのだ。楽しい時間になるに違いなかった。
ただ、事態は動き始めていた。
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