Ⅲ-2
「結婚式って…、あの時にはおじさん夫婦が来てたじゃない!」
「それがさ…、あれ別人だったのよ」
「え?」
「つまり、本当のおじさんじゃなかったの」
「なに? それ」
「雇ったのよ。そのほかに高校時代の友人二人、大学時代の友人四人分。ミクニの知り合いとして出席していた人は、元の会社の人以外は雇われて来てた人だったの」
「まさか!」
「ホントなのよ『おまかせ屋』って大阪の会社があったのよ。なんでも屋というのかな。そこに乗り込んだのよ。そしたらさ! なんと、その会社の社長が出てきて、その人があの結婚式に出たおじさんだったのよ!」
「えー? うそ!」
「ほんとなの! で、お茶を運んできた秘書みたいな人…。それがおばさん。その二人は夫婦。最初、あたしの顔見て顔面蒼白になってたわよ! たぶん、大阪の会社の人にすれば、東京でやった式だからそうそう町中でばったり会うということもないから。ミクニもわざわざ遠くの会社を探したんだと思うわ。で、ミクニが亡くなったこと言って、頼み込んで本当のことを聞いてきたわけ」
「なんか、探偵みたいね…」
「学生時代の友人役も全部、その夫婦が人を探して言いくるめて、ちゃんと役割分担もして、ある程度のシナリオ作って、ちゃんとリハーサルとかしてやって来たんだって。全部で八人。おじさん夫婦というのは頼んだ人じゃあ荷が重いだろうし、スピーチもするからお祝いの席でバレても困るから責任重大でしょ。だからその二人が自らやることにしたのよ」
「なんでそんなことしたんだろう」
「それがさ…。ミクニのノートとか、パソコンに残されてたファイルとか全部見たんだけどね。私のことについてのファイルはいっぱいあったでしょ…。なのに、ミクニのことやミクニの気もちとか、日記とか、そういうものは一切無いの。何一つ」
「でも、あんたに関しての感想とか、日記はあったじゃない!」
「それがさ! あれも偽物!」
佐香那は、本当の美邦のおじ夫妻がやって来たこと、原沢純一やオフィス・ジェダイの岡村に会ってわかったことを康子に話した。
「変わってる人だとは思ってたけど…。何から何まで作り物だったって…。そりゃ、珍しいね」
「そう。自分のことは捨てちゃったって感じだよね。そう思わない? 過去のことは忘れて、まったく新しい自分を作るっていうことなのか…。今のミクニにつながるストーリーが欲しかったのね。ミクニにとってはゲーム作りのうちだったのかもね。うまいこと自分のことのようにファイルを作った。たぶん、本当のあたしのことも遠巻きに調べていたと思うわ。それって、一種のストーカーなのかな? それが彼の楽しみになっていたのかな? たしかに、派遣であたしを雇うところだけは仕組まれたと思う。そこで現実と空想が本当に接点を持った。で、その後は、ミクニのリアルにあたしが飛び込んで行った…。つまりストーリーの方から動き出したのね」
「あたしにはわからない感覚だわ」
「もともと過去が真っ白だったからできたことなのかしら? あたしはたった二年誰とも連絡しないだけだったけど…。あたしにもわからない感覚だったわ」
「真っ白…」
「あたし、想像したの…。ミクニって火事で一人生き残ったでしょ。たぶん、ミクニの過去はその前は真っ白だったから、だからその部分は無視して生きてきたんだと思う。だって、引きずってたらやってられないもんね。で、それにつながりのある部分も全部無いことにして、まったく新しい部分を作りたかったんじゃあないかしら」
康子は返答に詰まり、水の中の氷をコロコロと揺らし、それをじっと見つめた。
「ヤスコと最後にした電話覚えてる?」
「え? ああ、居酒屋の? 飲んでたから、うすぼんやり…」
「あれ、あたしにとっては衝撃だったわ。あたしがいつも主役で周りの人を振り回していたって…」
「え? あたし、そんなきついこと言った?」
「そうよ。ね、あたし、ミクニがなぜ火事場から脱出しなかったのか…、それにすごくこだわってたんだよね。それだって、ミクニがあたしのことを思い出したら、必死で逃げ出して来ていいんじゃないか…、なぜ、そのまま死んじゃったのかってことが不満だったからだわ。つまり、ミクニはあたしの傍らにいて、ずっとあたしのこと守って、静かにあたしの話を聞いて、ずっとそのままあたしのこと大事にしてくれてたらいいって、心の中で思ってたからだわ…。つまり主役の姫を守る役目をずっと続けろってことよね。だから、ミクニが黙って死を受け入れているように見えるのがしゃくだった。くやしくて…、たぶん頭に来ていたんだと思う。どうして逃げて来なかったのかって…」
佐香那は、エプロンのポケットから封書を取り出した。
差出人は進藤勤次となっていた。
「これで、やっと落ち着いた」
佐香那は、手紙を康子に渡した。




