Ⅱ-29
岡村が言っていたこと。美邦と佐香那の結婚式当日におじさん夫婦がトイレ脇で何か話していたという…。
佐香那ははっとした。
オフィス・フィッシュで美邦の手伝いをしていた時、佐香那は経費を表形式のソフトに入力するということもしていた。美邦が資料として買った書籍、他会社で売り出したソフト類、機器類、交通費などを仕分けして…。
佐香那は美邦のパソコンを立ち上げた。そして画面上に口ががま口になっている魚のアイコンを見つけた。それはオフィス・フィッシュでも同じような形式になっていた。ただオフィスでは経理関係のファイルは一種類だったが、今画面上にある「金目鯛」というタイトルのアイコンは、開くと二つの選択肢が用意されていた。
「仕事」と「プライベート」。わかりやすい。
佐香那は「プライベート」のファイルで、自分たちが結婚式をした去年六月あたりの項目を順に追っていった。そして、『おまかせ屋』という変な支払先にぴんときた。なんの説明もないが、備考欄に電話番号が入力されていた。〇六で始まる…、大阪だろうか。「式一切」という支払いは百三十万円になっていた。
佐香那は電話番号をメモするとすぐに電話を入れた。
「ありがとうございます。おまかせ屋でございます」
先方で受け答えをした女性は、明るく響く声をしていた。
「あの…、お願いしたいことがあるんですけど…」
「はい、どういったご用件でしょうか」
「人を派遣してもらえますか?」
「はい。どういった仕事内容でございますか?」
「結婚式の日取りが決まっているのですが、夫になる人が急にリストラされてしまいまして…、その…、会社の上司や同僚を呼べないのです…。でも結婚式はもう取り消せないので、その式に出席して会社の人になってくださる方を何人か派遣してただければと…」
「はい、お引き受けできますが…。場合によってはお引き受けできないこともありますので、詳しい打ち合わせが必要となります。お手数ですがこちらの事務所の方に足を運んでいただきまして、お話しうかがいたいのですが…」
もう待つのは嫌だった。佐香那はその足で大阪まで出かけることに決めていた。
途中まで片づけた美邦の部屋をぐるりと見回すと、またふーっと長い長いため息をついた。




