Ⅱ-27
「ああああ、そういうのあったなあ。新しいゲームの案でね。初恋の女の子をイメージして、その子とうまく結ばれる…、っていうストーリーなんだけど、エピソードは本当ぽい方がいいってことで公募しました。実話を元にした方がリアルになるんじゃないかということでね。そういやあ、その頃はミノは資料整理のアルバイトしてたかな…。中高生や大学生がごろごろたむろして、そういうゲーム作りの手伝いというか…、雑務みたいのやってたんですよ。おれらも同じような学生あがりだから、どれが社員か分からない…。ゲームのできとか確かめたり、そういうバイトしながらどっぷりです。その後もミノとか、できる奴、何人か引っ張って会社に残って…」
「あの、シンドウさんのご夫婦とお会いになったんですよね?」
岡村はびっくっとした。
「あ、そうそう。奥さんが来た日あの日、電話があって…。びっくりでした」
「お気づきになったかどうか…、岡村さん私たちの披露宴にいらしたけど…、おじさん夫妻って覚えてらっしゃいますか?」
「え? はあ。はっきり顔とかは覚えてはないんですけど…」
岡村は笑顔のまま表情をこわばらせて、急に声のトーンを落とした。そして、言葉を捜すように考えながら話し出した。
「他のことを覚えてるんです。その、なんと言いますか、変な印象があったもんですから」
「変な印象?」
「はあ、結婚式の当日ですね…」
岡村は、急に立ち上がって、
「あ、何か飲みますか?」
と、そわそわし始めた。
「え? けっこうです」
と、佐香那が言うのに、部屋を出ると紙コップのコーヒーを二つ手に持って戻ってきた。
「あの…、あの式の日なんですが…」
岡村は、コーヒーで口を湿らせた。
「披露宴の前にトイレに行こうとして、おじさんというご夫婦が話しているところを見ちゃったんです」
「え?」
「その…、トイレの角の所で、冷水器がある所だったんですけど、ちょっと死角になっているような所があって、だんなさんが、奥さんをなだめてたんです」
岡村の話の速度が落ち、話の合間にコーヒーをすする…。
「あたし、自信がなくなってきた…、とか、そういう…、奥さんの言葉が耳に入ってきました」
「自信がない…」
「ええ、その時は、自信ってなんなんだろう。親御さんの代わりとして結婚式をまとめる自信とか、そういうのかな、って…、なんかね、耳がダンボになりまして…」
岡村は、またコーヒーをすすった。
「だんなさんの方がね…、だけど、もう支払いも済んでるし、今さら断ることだけはできない。もう会うこともないんだから、とにかく気を入れて、乗り切れ…、みたいなことで、励ましてて…」
「はあ」
「それだけなんです。ただ、支払いってなんだろう、って思ったんです。式場の支払いか…、そりゃあ、取りやめることは今さらできない…」
「もう会うことはない…」
「そう。それもひっかかりました。会うことないって、親代わりなのにずいぶんと深刻な…。でも、まあ、ひっかかったけど、ま、いいかってことで、事情はいろいろあるんだろうし…。シンドウさんがここに見えるまでは、そのまんま頭のどっかにひっかかったままだったわけです。その後、ミノに確かめるということもなかったし…」
「どういうことなのかしら」
「そう。シンドウさんがいらしたとき、顔は覚えてないんだけど、なんつうか雰囲気で…、あのおじさんとは、まったく別人だなって思って…、帰られた後、すぐに写真を確かめました。おれ…、写真類とかアルバムとかも全部ここに持ってきてあったから。このオフィス、半分自分の部屋ですから。その…、そういうことあるでしょ? あれ? 変だなあって…。こんな人だったかいな、っていう…」
「私も…」
「それで、あれこれ、考えたわけです…」
「それで?」
「それで…、今日もその話題だったんですけどね、ほら、うちの会社のミズタニとかも式に出てるでしょ。あいつなんかと写真見て、噂してたんですけど…、たぶん、あの日、式に来ていたおじさんとおばさんってのは、雇われた人じゃないか…」
「雇われる?」
「そうなんですよ…。あるらしいんです。便利屋みたいのが。結婚式が決まったあとにリストラになったとか…、最近、不景気でそういうことあるみたいですよ。結婚式は取りやめられないし、友達とか親戚にはリストラになったなんて言えない。予約もしてあるし、とにかく披露宴は普通に済ませてしまいたい。会社の人にもスピーチなんかはしてもらいたい…、でも本当の会社の人にはしてもらえない…」
「…、…?」
「で、雇うんだそうです。会社の上司役、同僚役、とかね」
「全くの他人?」
「もちろんそうでしょう。つまり、芝居するんですよ」
「そんなことって」
「あるんですよ。それで、おれが式の日にひっかかったことも、急に説明がついた。支払いが済んでるとか、もう会うことはないから、乗り切れとかね」
「でも、何のために?」
「そこですよ。そこで、おれらも、何のために? って。だっておじさんおばさんですもんね」
「実際には連絡したくなかったってことなんですね、きっと」




