Ⅱ-26
「でも、菊高の卒業アルバムや文集も?」
「もちろん! そんなのは簡単な方ですよ。あなた手芸部だったでしょ…。だれだか、手芸部の作品というのもずっと写真で持っていてね、そんなのも借りてきました」
「元の写真は返してもらったとしても、先方で例えば、スキャナやコピーのようなものがあれば、複製は取れますよね」
「そういうことになりますね。あまり詳しくは覚えていないんですが…。個人情報とかそんなにうるさい時代じゃあなかったんで…。資料はたぶん、返してもらってないかもしれません。
それに、その時オフィスに行ったのは四人だったけど、仲間の数人はおもしろがって、しばらくプラネット・ジェダイに入り浸ってたんです。ぼくはすぐに就職してしまいましたけど…。すぐ就職しなかったやつらなんか、大学卒業してもしばらく行ってましたよ。ゲームのチェックやったりしてバイト代もらうから楽しいって。そういう奴の中で何か貸してるということもありますよね。結局そっちの方で花開いた奴は一人もいなくて、その後はみんな普通のサラリーマンになったけど…。青春時代ってやつですか」
純一のにやけた笑いは、佐香那をどんどん不快にしていた。
「それにしても…、なんのつもりなんだろう。ゲームのシナリオなんか…。それをどうして、あなたが持っているんだろう」
佐香那は、答えることができず、うつむいた。
「そのミノって人、ミッキー・ミーノですか? もしかして? あのあと有名になりましたよね。それがあなたのだんなさまってことですよね。で、その人がこのファイルを持っていて、あなたと結婚して…? それって、偶然なんですか?」
「それは…、わからないんです」
純一は今ひとつ解せないという表情をして、ゆっくりと珈琲を口に運んだ。その間もなんだかおもしろそうに、にやけた目で佐香那を見つめている。佐香那はすぐにでもこの場を去りたい気分に駆られた。
「ま、そんなことはどうでもいいや。どうせ終わったことなんだし。こんな風にまた再会するというのも何かの縁だと思いませんか? ドラマチックですよね。どうですか? お酒でもつきあっていただけませんか? なんなら、そのときプラネット・ジェダイに行ってた奴も呼びますよ。あなたの名前出したら、みんな喜んでやって来ますよ」
佐香那の不快感はマックスに達しており、とてもそんな気分にはなれなかった。
「菊高から桜女子大に行った人はけっこういたでしょう。ニシガキミチさん、ご存じですよね。友人の一人は大学時代もその子とつきあっていたんです。ですから、就職くらいまでのことは…、あなたの噂は僕の周辺には流れてきていました。ちょっとしたスターですよね。そのほかにも…」
まだ続けて話そうとしている純一の言葉を遮るように佐香那が言った。
「すみません。最近、体調が悪くて…。わたし、失礼します…」
そしてぱっと立ち上がった。
純一の表情がさっと変わった。
「ま、何かまだ聞きたいことがあったら、こっちに電話してくださいよ」
と、名刺を取り出し、ケイタイの電話番号を指し示した。
「うちけっこう家内がね…、細かいんです。でも、僕の方はうまく交わして、いつでも出てきますから」
純一はまだ何か話しをしたそうだったが、佐香那は伝票を持ちさっと席を立った。
「どうも、ありがとうございました」
できるだけ素っ気なく御礼を言った。
「あ…」
きょとんとする純一を後目に、佐香那はさっさと出口に向かった。
後味の悪い成り行きになってしまった。わざわざ出てきてもらったことに対しては悪いという気持ちもあったが、もう二度と純一には会いたくはなかった。
「ま、とにかく近況教えてよ」という公恵の声が耳の奥で再生された。佐香那は嫌な気持ちを吐き出すように、ため息をついた。もう公恵にもこちらから電話する気にはなれなかった。
佐香那は改札に向かいながらケイタイを手に、プラネット・ジェダイのオフィスに電話を入れた。後味悪さを一掃したいという気持ちもあった。もう一度岡村に会って確かめようと佐香那は思った。
遅かったが岡村はオフィスにいた。岡村は半分あの会社で生活しているようなものなのではないか、と佐香那は思った。
その足で佐香那はプラネット・ジェダイに向かった。
九時になろうとしていた。
ビルの入り口には鉄格子のシャッターが降りていて、岡村に教えてもらったとおり、脇の警備員控え室の横から署名をしてビルの中に入った。
エレベーターホールはしんとしていた。なのに、オフィスの扉まで来ると、人の気配がざわざわと伝わってきた。扉を開けるとまだ半分がた人が残っていて、人の熱気がむっと押し寄せた。
岡村はほどなくやって来て、この間と同じように上の階の自分のオフィスに佐香那を案内した。
佐香那は遅くに押し掛けたことを詫び、椅子に座りながら、すぐに本題に入った。




