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Ⅱ-25

「早いほうがいいので…、できれば明日とか…。会社の後にでも」

「いいですよ」

「ええと…、六時とか…」

「どうかな、それは…」

「七時」

「はい」

 場所は考えていなかったので、けっきょくこの間行ったばかりの市ヶ谷の駅の喫茶店を言ってみた。

「わかりました。行けるかどうかわかりませんけど…」

「え?」

「あ、とにかく場所と時間はわかりましたんで…」

 佐香那は、首を傾げながら受話器を置いた。すっぽかすかもしれない…という意味なのだろうか…。

 佐香那はもう一度公恵に電話をして、純一の外見を聞いた。電話の後味がなんとなく悪く、気もちが落ち着かなかった。

「そんなこと言ったって…。学生時代はやせてたけど、きっとそれよりは太ってるだろうし。髪だって、どうなってるかわからないもん。聞いても無駄よ」

 あっけなく公恵に言われた。


 翌日、佐香那は半信半疑で喫茶店に向かった。

 なんのことはない、純一はすんなり時間通りに現れた。ダークグリーンのスーツを着たサラリーマンが喫茶店に入って来て、そのまままっすぐ佐香那の方に歩いて来た。それが純一だった。

「クラキさんですよね」

 純一は迷いもせず、まっすぐに目を見てそう言った。

「はい」

 佐香那はびっくりしながら答えた。

「すみません。お呼び立てしてしまって…」

 純一が乗り気ではないと思いこんでいたので、佐香那はまず侘びた。

「まいりましたよ。うちの家内、ちょっと疑ってまして…。実は大学のクラス会が数ヶ月前にあったばかりなので…、大学は大学でもサークルの方の集まり…、とは言っておいたんですが…」

「あ、すみませんでした」

「でも、あなたならしかたないか…、疑われても…」

 にやりと笑っいながら、

「それにしても…、変わりませんね」

「は?」

「あなたのファン、多かったんですよ。うちの高校、男子校でしょ。総武線組ではちょっと有名だったんですよ。クラキサカナという名前」

 佐香那はびっくりした。電話の感じでは素っ気なかったが、今純一はにやにやと親しげに話していた。

「その…、ハラサワさんのお友達か知り合いにミノという人はいませんでしたか?」

「ミノって…」

「数字の三に野原の野と書くんですが…」

「それは…、ぼくの知り合いにはいませんけど…」

「解放塾ではどうですか? ミノの書いたものを見ると、解放塾で一緒だったってなってるんですけど…」

「塾はねえ…。誰かいたかなあ」

「キー子…、スギハラ…、つまり旧姓…、ハラダキミエさんの話では、菊中の近くの公園であなたと、そのお友達と会ったって…。それでハラサワさんの電話番号を調べさせてもらったんですけど…、うちの学校の文化祭にもいらしたことがあるんですよね?」

「ああ、行きましたよ。懐かしい…。それもあなた狙いですよ。悪いけど、キミエ…、さん…、そのハラダさん…、本命ではなかったんです」

 純一にじっと見つめられて、佐香那は胸くそが悪くなってきていた。佐香那は、バッグから美邦のファイルを出し、高校のあたり、純一と関係ありそうなところを見せてみた。

「これ…、ぼくのことを書いてあるみたいだよなあ。よく僕たちも、あなたの後着けたりして。そうそう、これと同じ! マクドナルドに行ったし。あれ…、クラキさんの誕生日に郵便受けに花を入れたって、これ、ぼくですよ。あなたはだれか他の人かと勘違いしたって…。いくら似てる話っていっても…、おかしいなあ。こんなに一致してるなんて」

「え?」

「あ、プラネット・ジェダイ!」

 ぱらぱらと紙をめくって見ていた純一が、大きめの声を出し、佐香那はびくっと身を縮めた。

「これ…、大学一年の時にゲームのストーリー募集で出したことあるや。その頃はね、この会社、学生みたいのが集まってできたばっかりの、サークルに毛の生えたような小さい会社だったんですよ」

 純一は、他のページも確認するように見ていった。 

「確か、初恋エピソードっていうんだったなあ。ゲームのキャラクターに使われるかもしれないってことで…。実際のエピソードに沿ってってことで、書いて応募したんですよ。友達数人で考えて話を持ち寄ったんです。みんなあなたのファンですよ。だから、ほかのやつのエピソードも入ってる。合作で名前作って応募したなあ。なんていってもあなたの名前、サカナなんて、そういう時使うにはぴったりだったし…。あなたの名前は実名にしちゃったんですよ。ただカタカナにはしましたけどね。賞品としてテレカかなんかもらっただけだったけど…、このストーリーは本当に使ったのかなあ? そのまま忘れてました」

 純一は、下から佐香那の顔を、またじっと見つめた。

「あの…、写真はどうですか? 写真まで提供したんでしょうか?」

 にやけた純一をたしなめるように、少し冷たく言ってみた。

「ええとね…、数人でストーリーを作ったんで、面接みたいな形でそこのオフィスに行ったんですよ。一次審査には受かったというようなことで、写真とかイメージを作りやすい資料もあったら持って来いと言われました。この会社、今はわりに大きい会社ですけど、当時はお茶の水の古いアパートの一部屋でしたよ。みんなでちょっとわくわくしてね。ゲームで一山当てられるかもな、なんて…。もうあちこちに声かけて手当たり次第にいろいろ集めたんです。あなたに関係ある物ならなんでも」

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