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Ⅱ-22

「あ、さっきからあなたさんのこと、気になっていたんですよ。でも、ずいぶんおきれいな方で、その、東京の方で…、すらっとしてらしてモデルさんみたいな人だったもんだから、まさかミクニの奥さんとは…」

 佐香那は絶句した。さっき写真で確かめたおじさんとは別人だった。細長い顔に細い目、いかにも気の弱そうな男だった。佐香那は、答えを捜し…、あわてた。

「す、すみません…。あの…。おじさんって…、北海道でミクニのことを育ててくださったおじさんだと思っていて…」

 進藤は、目をきょとんと見開いて

「あ、そうです。ミクニは小学校五年の時から、高校卒業するまで、うちに引き取って育てました。あ、これは…、妻のスミコです」

 佐香那は混乱して、二人を見くらべた。妻の方も写真とはまったく違う。丸顔でずんぐりとしている。佐香那はあわてて結婚式の写真を袋から出した。

「あらー。ミクニ君…」

 澄子は感極まって、ハンカチで口元を押さえた。

「北海道出てから、何も連絡くれなくて…」

 佐香那は美邦の後ろに立っている夫婦を指さした。

「じゃあ、この方達は?」

「は? だれですか?」

 食い入るように写真を見つめる夫婦に佐香那は、「おじさん」とは言えなかった。

「あ、と、とにかく、お墓に…」

 佐香那はどう対応して良いかわからなくなり、どぎまぎしてしまった。とりあえずタクシーを呼んで墓に向かう。

 タクシーの中でも夫婦はまだ写真を見ており、二人とも涙ぐんでいた。

 佐香那は何と声をかけていいかわからず、ただひたすら、せわしなく考えを巡らせていた。

 墓参りの後、再びタクシーを呼んで駅に向い、佐香那はやっと声を出した。

「あの、よろしかったら、お茶でも…」

「あ、わたしどももそう思っていたんです。でも、ご迷惑じゃないですか?」

「え?」

「ミクニは、もう北海道には戻る気はなかったと思いますよ。こっちで勝手に捜して来たんだから…」

 進藤は下を向いた。妻の澄子はまだめそめそしている。佐香那は気が滅入ってきた。

「あの…、北海道でミクニの面倒を見た親戚の方って…、他にもいらっしゃるんでしょうか?」

「さあ。いないはずだが…。ミクニとは遠い親戚ですから。血はつながってないし…。もし親戚がいるとすれば、ミクニの母の里の山梨の方だと思いますよ」

「じゃあ、この写真の人たちは、だれなんだろう」

「親戚の方じゃあないんですか?」

「ええ…。ミクニの説明では…」

 その先を言おうとして、佐香那は言葉に詰まった。どこかに落ち着いて話した方が良さそうだ。気が進まなかったが、またこの夫婦を呼びだして会うというのは、もっと気が進まないだろう。

「とにかくどこか店に入りましょう」

 タクシーから降りながら、佐香那は喫茶店を捜した。駅の周辺はここ数年でだいぶ変わっていて、大きいショッピングセンターができ、歩道橋で駅とつなっがっている。そうなってからは、どこに何があるのか佐香那はわからなかった。

「とりあえず、あそこに入ってってみましょうか」

 佐香那はそのショッピングセンターを指さした。一階にあった洋菓子店の喫茶に入り、夫婦を壁際の席に促してその前に座る。

 二人とも下を向きがちで、どうしても雰囲気が湿っぽくなる。

「すみませんでした。わざわざ出て来てもらいまして…。実はこれで、ミクニを見つけたんです」

 進藤は、ゲーム雑誌を出した。「ミッキー・ミーノ」という名前で、サングラスをかけて美邦が出ていた。半ページほどの記事である。新しいゲームについて、簡単な問いに答えるというものだった。

「もう七年前のやつなんですけど…、ご近所の方が、これミクニ君に似てるわね、って…。そこの家の息子がミクニの同級生だったんですが、その弟が持っていた雑誌ということで…。もらったんです」

「こんな写真でよくわかりましたね」

「ええ。ずっと大事にしまってあったんです。似てるけど違うかもしれないし…。仮にこの写真がミクニ本人だったとして、どうしていいかわからないし…。で…、虫が知らせるって言うんですか、つい一週間ほど前に急にまた思いついて、何の手がかりもなかったもんですから…、どういうわけか、今度はどうしても連絡したくなって、すがるような気持ちで出版社の方に電話したんですよ。雑誌の方ではわからなかったんですけどね、この『プラネット・ジェダイ』ってとこ教えてもらって…。で、昨日やっと電話してわかったわけなんですよ」

「じゃあ、この会社に行ったんですか?」

 自分も行ったばかり…。そういうことは重なるものだ、となんとなく思った。

「はい。北海道から電話したとき、今日奥さんが来ていた…、奇遇だ。不思議だって…、向こうの方、言ってました」

「それで、すぐにいらした…」

「はあ。わたし、床屋だもんで昨日の月曜が休みだったんです。今日は臨時休業にさせてもらって、予約のお客さんに電話入れてよくよくあやまって、昨日のうちに出てきてしまいました。

 遅かったけど、オカムラさんって人が会社に残って待っててくれたもんだから。会ってくれて、話聞いて、墓の場所はわかったもんですから、ただ墓参りだけしようと…、最初は思ってたんですけどね。奥さんの連絡先も教えていただいたもんだから…、せっかくわかったことだし…。昨日の夜中こいつとホテルで相談して、どうするか…、あなたさんに連絡しようかどうしようか…。そうそうこっちまで来られるもんでもないし…、ご迷惑とは思ったが思い切ってお電話したんです」

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