Ⅱ-18
「あ、奥さんの名前『サカナ』って本当ですか?」
「そうです」
「すごいですね。ほんと、徹底してるなあ。水の関係とか、魚が出てくるのはいっぱい作ったでしょ? そのくせ、旅行で海に行こうって話になっても、そういうのにはいっさい参加してなかったけど…」
美代ちゃんは、しゃべりながらもいくつかのゲーム機とゲームをまん中のテーブルに出してくれた。
「こんなもんかな。代表的なのは…。いろんな種類が混じるようにしてあるし、一応なにげに、年代順になってます」
そう言い置いて、美代は部屋を出て行こうとした」
「あ、すいません」
佐香那はあわてて呼び止めた。
「あの…、使い方、わからないんですけど…。ゲーム機も一つじゃないんでしょ?」
美代ちゃんは、すこしきょとんと、佐香那を見つめ、
「あ、そういうことかぁ」
とにっこりした。
「じゃ、年代じゃなくても…、あたし好きなのからいこうかな。これ、『リトルETワールド』」
慣れた手つきでゲーム機とテレビをつなげ、美代はゲームをセットした。ゲームが始まるまでの導入部の映像は適度にスキップして、説明しながら画面を佐香那に見せていった。
「これは、宇宙人の種をまいて、植物みたいに育てるんですけど…、いろんな形、色の宇宙人が出てきて、それぞれにちゃんと性格もあるんですよ。ミノさんのってそういうこだわりすごいです。キャラの細かい性格とか、そういうのが特に人気あるんです。つぎ、こっちの『大地の冒険』がかわいいかな。この主人公はね、ミノさんの憧れの少年像だって言ってましたから…」
美代ちゃんは次々とソフトをゲーム機にセットし、つぎつぎに説明した。約二時間があっという間に過ぎた。
パズル系のゲームからRPG、格闘系、などなど、いろいろなゲームのさわりを追い、美代のときどきはまったく理解不能な説明を聞きながら、佐香那はすっかり疲れてしまった。
美代の話が半分くらいしか耳に入ってこなくなった。
「あの、対話式のゲームって?」
岡村の話の中で、いくつか気になるキーワードが佐香那の耳に残っていた。
「え? あれ…」
美代が口ごもった。
「あれ…、ちょっとヤバイのもあるかな…、って思って」
「え?」
「あの、ちょっとHなんですよね。つまり、成人向けっていうのかな。女の子がね、だんだん洋服脱いで行ったりするんですよ…」
「あ…」
今度は佐香那の方が口ごもった。
「あ、ミノさんはゲーム機をたくさんお持ちですよね。これ、お貸ししますよ。だいたい使い方はわかりましたよね?」
美代は佐香那の返事を確認もせずに、棚に詰まったゲームの間から袋を捜し、どんどんその中にゲームを放り込んだ。
「あの…、さっき岡村さんから聞いたんですけど、魚の対話式ってのは…、商品化してないわけですよね?」
「ああ。あれのことか…、試作品みたいのはあるから、それをお持ちになりますか?」
「はあ」
きょとんとしている佐香那を後目に、美代はてきぱきと事を運び、ゲーム機とゲームソフトの関係などをメモしながら、どんどんソフトを積み上げた。佐香那は紙袋にいっぱいゲームソフトを押しつけられ、プラネット・ジェダイを後にした。「家に帰ればいっぱいあります」とは言い出せなかったし、どっちみち家にあるものと見比べても同じかどうかさえわからないだろうし、探したくもなかった。
家に着いた佐香那はソファにどかっと座り込んだ。紙袋の中のゲームを見つめ、長いため息をついた。そのまま、小一時間も座っていただろうか。
やっと重い腰を上げ、佐香那はコンビニで買ってきた弁当を食べながら、うんざりしていた。
「しょうがないか…、見てみるか…」
佐香那は美邦の部屋に紙袋を運んだ。
美代が書いてくれた、ゲーム機とソフトの関係を見る。水中写真のCD型のゲーム「フィッシュ・ワールド」、美代が「試作品」と言っていたやつ…、それが一番気になった。
ゲーム機にセットしてみると、水の中をただようような幻想的な曲が流れ、美邦を思わせる太った魚が現れた。その魚がしゃべるような感じで声が出てきた。
「ようこそ、フィッシュ・ワールドへ」
声が出るのはそこまでで、その後は画面下に文字が点滅する。
『君の名前教えて?』
そこに、五十音の中からひとつずつ文字を選んで決めていく。美代から教えられたとおりに、やっとこさっと文字を打ち込んでゆく。
『サカナ』
『君は男の子? 女の子?』
今度はどちらかを選ぶ。
『サカナちゃん。かわいい名前だね』
佐香那はなんだか白々しい気分になってきていた。
「ああ、かったるい!」
佐香那は、いきなりそのゲームを終えると、今度は美代が「ヤバイ」と言っていたゲームを入れてみた。
画面にさまざまな女の子が現れる。胸があいた白いセーラー服に紫の髪をおさげにしている子。看護婦…、うすいピンクの制服でウインクしている。SM嬢風やら、水着、膝丈の着物を着た時代劇風まで、二十種類ほどのキャラクターが用意されていた。それぞれのキャラクターには名前が付いていた。




