Ⅱ-17
「癒し系の対話形式ったら、また今どき当たりですよね。あのまま出してりゃあそれはそれで当たってたと思いますよ…。とにかく、ミノは人の先、先行く奴でね。凝るしね。凝りすぎるほど凝って、じっくりやってる間に他の会社とバッティングした…。先に行ってたのはミノなんすよ」
「そういうゲームって…、今、やって見ることできますか?」
「え? ああ、あればね。できますよ。じゃ、ミヨちゃんかなんかに捜してもらおうかな」
岡村は内線電話で、誰やらを呼びつけた。
「あ、悪い悪い。ミノ知ってるっしょ? あ、ミノって死んだんだよ。で、奥さんがいらしてんの。で、奥さん、ミノが作ったゲーム見たいんだって。悪いけどさ、捜してくんないかな」
美邦の死を、ずいぶんあっさりと、何でもないふうに話すものだ…。佐香那はその岡村の口元を見つめていた。
「ミノは、人一倍ゲーム作ってますから、ま、ゆっくり見ていってください。ミヨちゃんって、バイトの子だけど…、よくわかってるから聞いてやって下さい」
岡村は、下の階の部屋に佐香那を案内した。その部屋の前で、その美代ちゃんという、二十代前半くらいの女の子が待っていた。真っ赤なTシャツに、膝から少し下までしかないジーンズ。驚いたことに素足にゴム草履を履いていた。髪を金茶色に染めて、つむじの上で縛っている。髪は全体にワックスで固めているのか、その縛っている髪は、ちょこんと突っ立っていて、アンテナのようだった。
この会社の中にいると、佐香那の方が変わった人物のようだ。ありきたりのベージュの無地のワンピースなんて。
「あ、どうも…」
美代ちゃんはにっこり笑うと、部屋の中に佐香那を案内した。
まるで倉庫のような部屋だった。
部屋のまん中に、八人ほどが囲んで座れるようなテーブルが二つつなげて置いてあり、数台のテレビとパソコンなどが並んでいた。その周りの壁は、全部が棚になっていて、ゲーム機やソフトがぎっしりと詰まっていた。
美邦の部屋に詰まっていたゲーム類にびっくりしていた康子の顔を思い出した。ここに来たら絶句するに違いない。
「ミノさんのゲーム。たくさんあるから、どんなのがいっかなー。ミノさんがこの会社で作ってたのはもう古い型のゲーム機のばっかりなんです。もう今は売ってない機種ばっかり…」
「あの…、バイトさん?」
「え? そうですけど…」
「ミノがこの会社辞めたのって、三年前ですよね。そんな頃からミノのこと、知ってるんですか?」
「ああ…。あたし、もう高校の時からバイトしてるんです。で、本当は、デザインのほうやりたくて…。ゲーム関係は足洗おうと思いつつ…、就職の方がいまいちだったんで、またバイトで戻って来て…。キャラのかっことか、考えるのは好きだから…」
「あ、そうですか…」
「そうじゃなくても、ゲームにちょっと詳しいと、けっこうミノさんて有名なんですよ。ミッキー・ミーノって聞いたことないんですか? 真っ黒のサングラスかけた覆面キャラ」
「え? い、いえ…」
「ギャングみたい、黒ずくめなんですよ。でも、あの体型だから、すぐにミノさんってのはだれでもわかってるんですけど。ときどき、真っ赤だったりとか、洋服もね、すごいお茶目なの。花柄とか水玉とかね。ゲーム雑誌に説明とか批評とか、写真入りでバリバリおもしろいの書いてたんですけど…。この会社も二百人くらいいるけど、たぶん、ミノさんは一番の有名人ですよ」
美代ちゃんは、棚のゲームを調べながら、しゃべっていた。美邦がそんなかっこうで人前に出てしゃべる…、佐香那は頭がくらくらしてきていた。
「あの…、変なこと聞いて、いいですか?」
美代が妙に改まった口調でそう言うと、くるりと佐香那の方に向き直った。目が大きくて、マスカラでばっちり固めてある。まるで少女漫画の主人公のような、キラキラした目だった。
「ミノさん、火事で死…、あ、その…、亡くなったって、そうなんですか?」
「ええ」
「不思議なんですけどね、ミノさんって、火が嫌いだったんですよね?」
「え?」
と、思わず佐香那は聞き返した。
「いつも、水関係ばっかり。魚の物とか…、水の中をどんどんもぐるゲームとか」
「それだったら、火が嫌いというより、水が好きってことかしら」
「まあ、そうなんですけど…。ゲーム案をグループで作ってた時なんですけど、みんなで話しながらストーリー案をまとめてて…、クロサキさんて人が、消防のゲームどうかって出したんです。最初小さい火だったのがだんだん燃えてって…、それを見つけてうまく消す…。ハラハラドキドキでいいんじゃないって…。そんな案…。そしたら、ミノさん『オレ、火が出てくるゲームなら下りる』って。みんな冗談かと思ったらしいけど、RPGなんかでもね、火が燃えてる場所を走って逃げる画面なんかがあると、絶対譲らなくて、お堀の水のなかをくぐる場面とかに変えるんだって。『あいつ、徹底してるよな』って、黒崎さん言ってました。花火までなら許すとか。でもそれ止まりだって」
「そう…」
「クロサキさん、そのあと、格闘ゲームで、火がばんばん燃えてるところで戦うっていうのが出てくるの作ったそうなんですけど、『絶対にミノはチェックしてくんねえ。火が出るからね』って、笑ってました。でもこのあいだ、ミノさんが火事で亡くなったって聞いて、あいつ予知能力でもあったのかな…、ってまじめな顔して言ってましたよ」
佐香那はなんと返事していいか、わからなかった。




