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兄の出立 5
バス停に着いた。
「バスが来るまでつきあう」
と帰宅を渋る晴彦を、兄は、半ば強行に突き放した。
「持衰が目を覚ましたときに、お前がうちにいたほうがいい」
「でも、誰もいないとこに崇志兄を置いてくわけにいかんし……」
抵抗を示す少年に、崇志は顎で前方を指ししめす。
片側1車線の、住宅街を周回する道路。対岸には民家が並び、交通量もそれなりにある。
なにより、兄の耳は近づいてくる喧しい集団の声を捉えていた。
「あと10分もすればバスが来る。それに、お前に見送られるのは……」
いったん言葉を切って、バツが悪そうに俯き、
「気恥ずかしい」
と愚痴る。自分が無事にバスに乗車するまで、熱心に目で追いつづけるだろう晴彦を想像すると、座りの悪い感覚に囚われる。
「なんや、それ?」
呆れた表情を返した少年は、わずかの間、兄の依頼を無視していたが、やがて、
「……じゃあ、帰る。ちゃんと京都に着いてね。連絡待ってるから」
と、自分の携帯をポケットから取りだし、振って見せた。
「わかったわかった」
ふだんは電話の不携帯を苦にしない崇志も、今回は、電源がしっかりと入っていることを確認して、晴彦にジェスチャーを返してみせた。




