蛇神の怒り 3
美耶ちゃん自身に自殺願望がないのは見ててわかるし、と方向を定めたあと、少年は兄に質問を投げかける。
「だとすれば、美耶ちゃんに自殺行為をさせているのは、美耶ちゃん以外の『何か』の可能性が高い。最初の軽い行動は持衰さんで確定しておこう。じゃあ12月の件は?」
妥当な答えを思いつかなかった様子の崇志は、ためらいながら、こう言った。
「それも持衰じゃないのか? 美耶を本格的に乗っ取ろうとして、普段より思いきったことをしたとか……」
「首を吊ってしまったら、乗っ取るも何も、肉体が死んでしまう。持衰さんにとって、それは歓迎すべきことじゃないと思う」
晴彦の意見にも一理ある。が、先ほど聞いた蛇神が、この時点で祟りを起こす理由もない。
「吊る真似事をしただけ、とか。それか……」
兄は、苦しまぎれの別意見を出したあと、言い淀んで目を伏せた。
「美耶の意思だったか……」
秋口から始まった現象は、妹と両親の信頼関係を壊しつつあった。美耶がそれを苦にして、自ら死のうとしたとしても不思議ではないほどに。
「あいつはあんまり自分のことを話さないから、こっちも勘違いするんだよ。わがままを態度で示してるんだろう、放っておけばいいだろう、って」
美耶の性格が事態を重篤化させるのだと言う崇志に、晴彦は反論する。
「美耶ちゃんは、言葉にはしないけど、ちゃんと意思は伝えてるよ。それを受け取れないのは崇志兄の怠慢やし」
兄はうなだれて、
「うん」
とだけ答えた。
出家を嫌がっていた美耶の本心を、自分は心のどこかで感知していた、と認める。そして、己の都合のために無視していたことも。『どうしていなくなっちゃうの?』と妹に本音を吐露されても、なお逃げようとした行為が、非道く卑怯なものだったように、改めて思う。
晴彦は12月の怪事の分析に戻った。
「あの丘に行ったのは、美耶ちゃん自身の意志だったかもしれん。それはオレも考えてみる。逆に持衰さんの行動だったかもしれん。それも頭に入れておいて」
「持衰が首を吊るわけがないって言ったのは、お前だ」
少年の言葉尻を捉える崇志。
「自殺しに行ったわけじゃないとしたら?」
晴彦は根幹を覆した。
「美耶ちゃんが見つかったのは沼や。禊は本来、屋外の水場で行う。しかも時期は12月で、魂の穢れを浄化する大祓の儀式の前や。魂の前に、身体を清める禊を本格的にしておこうと思ったとしたら、辻褄、合わん?」
神事に深く関わる持衰の行動としてはおかしくない。崇志も素直に共感した。
「美耶が裸だったのは、沼に入るために、自ら服を脱いだってことか……」
状況を察すると、さらに納得が深まる。襲われた、という痕跡が、少女にはなかったからだ。
「でもじゃあ、首に絞めた痕があったのは?」
最後の疑念を口にした兄は、自らの言葉で答えを出した。美耶についていたのは、『首を吊った痕』ではなく『首を絞めた痕』だった……。
「葉月ちゃんが、あの公園には変質者が出るから1人では入れないって言ってたん」
晴彦は窓越しに視線を飛ばす。祟りなどに見舞われずとも、自ら醜悪な行為を重ねていく人間が跋扈する屋外に向かって。
「オレ、こう言ったらなんだけど、そんなんが死んでも、別に気にならん」
ためらいのない態度で冷徹な言葉を吐き出す少年に、崇志も、
「俺も同感だけど……」
と頷きかけたが、
「でも、できれば、俺が殺してやりたかったかな」
と言い換えた。




