↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒い神  作者: 小春日和
兄妹の邂逅
28/104

山の神の祟り 2

 祠から神体を下ろし、隙間に積もった泥を爪でこそげ落としながら、晴彦は説明を重ねた。

「たぶんやけど、この土地はかなり昔から人が住んでいた場所じゃないかな。それこそ弥生期のころから。稲作に支えられた住人が心の拠り所としたのが、石積さんのとこに残ってる田の神や、この山の神さんいう存在だった」

「でも晴くん、さっき、この神様のことを地母神って言わなかった?」

『山の神』という単語にすんなりすり替えた晴彦に、葉月は不信の目を向ける。少年は苦笑して答えた。

「地母神は1番古い信仰だったって言ったでしょ。それが分身して田の神や道祖神に変化したんだろうって。だったら、田の神が山に帰った姿の山の神も地母神と同一の存在と違う?」

「あ、そっか」

あっさり疑念を取り下げる少女。

「じゃあ、今度からこの神様は山の神様で統一ね。いろいろ名前があると混乱しちゃう」

晴彦が恐れげもなく触れる神体に、葉月も警戒心を解いたようだ。そろそろと、ではあるが手を近づける。

「うん、わかった」

承諾した晴彦は、

「でも、触るのはどうかと思うよ。この神さんがまだ効力を失ってないとしたら、女の子にはあんまりありがたくないやろうし」

出産の神さんは子作りを促す神さんでもあるからさ、と続けた。

「…どうしてそういうことがさらっと言えちゃうのかなあ…」

晴彦のことを異性と認識している葉月は、また俯いて、

「ばか」

と罵った。

「…神さんの性質を教えただけやし」

少年は、また困った表情で頭を掻く。


 「…話、戻すけど」

背を向けた少女に遠慮がちに話しかけると、葉月はしぶしぶと言った感じで向き直った。

「うん、山の神様が、それから?」

「こういうものは、普通、そこらへんの石で作ってあるもんなんや。大きな石とか変わった形の石自体に魂があると考えられてたから。それにちょっと細工して神さんとしての体裁を整えたわけ」

「…晴くんって、もっと神様に対して信心深いのかと思ってたけど、意外にドライなんだね」

自身が仏の超常力に憧れ、創作活動をしている葉月には、晴彦の感性がひどく乾いたものに感じられてしまう。

「信心はあるよ。でも、それ以上に、信心を持った人たちの時代背景を考えることが好きなん」

少年は笑う。

「じゃあ、十二神将大好きなあたしにも興味持ってくれる?」

すかさず少女が斬りこむと、今度は顔をしかめて、

「それ、信心と違うやん。仏さんを超人に仕立ててるだけでしょ?」

と反論が来た。言葉に詰まって黙る。

 晴彦が、少し表情を引き締めながら、蛇の顔のあたりを指で拭った。

「この山の神さん、素材が違うでしょ。黒曜石だと思うんやけど、この石を使った神体で蛇の形をしてるものって、オレ、見たことない」

「それってどういう意味?」

珍しいご神体、というだけの説明とは思えない真剣な態度の晴彦に、葉月も思わず続きを促す。

「黒曜石…も含む『黒』いう色は、武器や武器を作る鉄に好まれて使われた表現なんだ。富国強兵…己が力をつけて敵を追い払う、みたいなね」

「ふうん。…で?」

まだよくわからない少女は、簡単に答えて先を急がせた。

「予想やけど、神さんや仏さんにこの色を使うのは、『退魔』の意味を持たせたんじゃないかな。この土地に入りこんできた『魔』、要するに『敵』を追っ払う役目を担わせた」

「それならわかるっ!」

十二神将も仏の世界を守るために戦う退魔の戦人たちだ。葉月には馴染んだ感覚だった。

「それじゃあ、この山の神様は、田の神様として、この土地に入りこもうとした魔物を追い払ってきたわけだね」

「そう。たぶん、この土地は他の土地より米の収穫に恵まれていたんだと思う。『魔』に入りこまれて不作にでも陥ったら、被害が大きかったんやろうな。だから、特別な石を使って守護神である山の神、田の神の力を強めた」

「じゃあ…」

『守護神』などというキーワードを出されて、フル活動しはじめた神仏ファンタジー愛好家の少女の脳は、そこで奇妙なことに気づいた。

「…その大きな力を持った神様が、封印されちゃってるいまの状況って、どうなっちゃうの?」

「…祟り神に変化したかもしれん」

晴彦は沈んだ表情で手の中の『神だったもの』に目を落とした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。