山の神の祟り 3
陽の光は未だ雲に覆われている。黒い神の表面が溶けたような薄気味の悪い質量が、鬱蒼と茂る常緑樹の間に漂いはじめた。
「…さ、触っても大丈夫なのっ?!」
即座に『触らぬ神に祟りなし』の格言を思い出して非難する少女に、少年は、わずかに首をかしげて、
「どうかな」
と呟いた。
「祟るかもしれんね。この丘で自殺する人が多いっていうのも関係してる気がするし」
「ちょっとお…」
そんなおっかないものを取り出さないでよ、とさらに批判を重ねようとした葉月は、さっき、神体に触れようとした自分の行動を咎めた晴彦の真意を、やっと察した。
「…ねえ、晴くんも本当は祟るってしっかり思ってるんでしょ? だから、あたしには触らせないようにしてくれたんでしょ?」
確かめると、
「信心は持ってるからね、オレも。祟りはあるって信じてる。だから、何も知らん葉月ちゃんは遠ざけておいてあげたいとは思ってた」
思ったとおりの答えを返す。
「ありがとう」
初めて自分に対して優しさを見せてくれた少年に、笑顔になった少女は、またふと顔を曇らせた。
「晴くんは? 思いっきり触っちゃってるけど…」
いまもまだ手を離そうとしない晴彦に向かって咎めると、少年は頭を掻きながら、言った。
「うん、わざと。祟りがどんなものか、確かめてみようかと思って。そしたら持衰さんの行動も理解できるし」
「ジサイさん?」
聞きなれない言葉に首をかしげる葉月に、晴彦は、
「神降ろしをする巫女さんのこと。この神さんが降りたとしたら、持衰さんがここに来るのも納得できる」
とよく解らない返答をよこした。




