5話「突然の告白」
体育の時間はとくに問題なく終わった。
ドレスを隠してるから動きにくいことを覚悟していたけど、そんなことはなく、逆に身体が軽く、動きやすい位だった。走幅跳で自己新を記録するくらい。なにこれ。
制服への着替えはまたトイレですることにした。でも流石に今回はコハクさんがいたトイレと違う場所。そもそも着替えるだけで何も悪いことしてないし、こそこそする方が変だよね。
アカリちゃんに一言かけたから、今回は一人で行けた。少し心配そうにしてたけど。
残りの時間割はすべて座学だから、これからの授業でドレスがバレる可能性は低い。
ほっと一安心。
さて、つぎに私が警戒しているのは、いわゆる魔法少女のテンプレ展開である。
何を隠そう、私は魔法少女オタだったのだ。中学生の時までだけどね。
この金髪ピアスだって、私の好きだった魔法少女アニメの敵幹部がモデルだったりする。
運命に立ち向かう孤高の存在、そんな生き様に共感してしまったんだ。
最終的には光堕ちして、ギャル系魔法少女に変身したときは興奮した!
テレビの前で「うぉーー!」ってな感じでね。
さて、魔法少女のテンプレとは例えば、テロリストが現れたり・怪人が現れたり・天変地異が起きたり・マスコットに助けを求められたりとか、そりゃあもうたくさんある。
隕石が落ちてくるのもあったな。
つまり、『望まずに魔法少女となってしまった主人公が、そういった脅威に立ち向かう展開』が、私にも訪れるかもしれないということだ。
思えば、トイレで幽霊に遭遇して、その悩みを解決する、というのも、かなり魔法少女っぽい。
…でも、こんな桃色のフリフリしたドレスを着た金髪ピアスが、全校生徒の前でそんなことできる訳ないだろお!
社会的に死ぬわ!金髪が映える黒薔薇のドレスとか、せめてもっと良いドレスよこせやあ!
……
なんて、そんなテンプレ展開が起きることはなく、あっという間に昼休み。
これには拍子抜け。
でも平和に越したことはない。アカリちゃんに、何かがあったら困る。
魔法少女のドレスみたいな君の、存在理由って何なの?
敵の襲来を警戒して、窓側の自席から校庭へ鋭い視線を向けていた私のもとに、アカリちゃんが近づいてきた。
「ねえキサラちゃん。いっしょにご飯食べない?」
「うん、もちろんいいよ。ユキさんは誘う?」
アカリちゃんは恥ずかしそうに、両手人差し指をツンツンしてる。
「今日はキサラちゃんとふたりきりで食べたい。久しぶりに体育館裏に行こう?」
そんな上目遣いで頼まれたら、断れないよ。
……
私が金髪に染めた頃。
鋼メンタルな私もさすがに他人の視線が気になってしまった。
校則が緩いとはいえ、ここは進学校。派手な金髪なんて誰もいなかった。
そんな中じゃ、まあ当たり前だけど、みんなジロジロ見てくる。
そんな時にお世話になったのが体育館裏である。
体育館裏と言えば、告白の定番として知られるくらい目立たない場所。
視線に敏感になってしまった私は昼休みの時間をここで過ごしていた。もちろんアカリちゃんといっしょに。
今となってはそんな視線も気にならないので、ここに来ることはめったに無くなった。
アカリちゃんと体育館裏を久しぶりに訪れた。
夏であれば日陰を求めて人がまばらにいたりするけど、今は冬。私達以外に人はいなかった。
11月の寒い風が、体育館裏に溜まった落ち葉を舞い上げる。
「流石に冬は寒いね」
寒がりのアカリちゃんがぷるぷる震えながら言う。キュン死させる気か?
「ほら、私のコート貸してあげるよ」
私は着ているコートを脱いで、アカリちゃんに優しく掛けてあげた。
「ありがとう…。軽井沢を思い出すね。ほら、これ見て」
アカリちゃんが差しだしたスマホには写真が並んでいた。アカリちゃんが画面をスクロールすると、様々な写真が映し出される。
アカリちゃんが私へ肩を寄せると、ふわりと良い香りがする。
コハクさんとの交流をきっかけに、アカリちゃんを親友以上に思い始めてしまった私は、少し気恥ずかしくなってしまった。ドキドキしちゃう。
「私のお気に入り」
「…私もお気に入りだよ」
アカリちゃんが見せてくれた写真は、私とアカリちゃんのツーショット写真。
朝、電車で眺めていたのと、同じ写真。
軽井沢のクリスマスイルミネーションをバックにして、ハイネックのセーターを着た私はダブルピースをしている。その隣でアカリちゃんは私のコートを羽織って、輝くような笑顔を浮かべていた。
私とアカリちゃんは、去年のクリスマスにふたりきりで軽井沢へ日帰り旅行した。
まだ高校一年生であまりお小遣いもなかったから節約旅行だったけど、とても面白かった。
工房体験で手作りした大きなアロマキャンドルは、まだ私の部屋の机に鎮座している。
お互いに作ったものを交換したんだ。だから私が持っているのは、アカリちゃんの手作り。
…もしかしたら墓まで持っていくかもしれない。
最後に訪れたのがクリスマスイルミネーションだった。
イルミネーションは色とりどりに輝いていて、そんな景色を眺めながら、私たちは身を寄せあった。
そこでアカリちゃんが寒そうにしているのに気づいた。
アカリちゃんが寒さに弱いことを知っていた私は、自分のコートを掛けてあげたんだった。
去年の旅行での思い出を喋りながら、昼食を食べる。
アカリちゃんも工房体験でつくった、私のアロマキャンドルは大切に残してあるみたい。
軽井沢でのことを思い出したいとき、あの工房で買ったアロマキャンドルに火を灯すらしい。
そんなに、良い思い出になったんだ。よかった。
そうだ。次のクリスマスの軽井沢旅行を提案しないと。
私がアカリちゃんの方を向くと、すでにこちらを向いていたアカリちゃんの可愛らしい猫目と、目が合った。
「私って、いつもキサラちゃんに助けてもらってる。旅行の時も寒がってた私にコートをくれて、寒さから守ってくれた。お母さんとお父さんが死んじゃった時もそばにいて、慰めてくれた。最近だって、落ち込んだ私を励ましてくれてる。でも私って、まだ何も返せてない」
アカリちゃんの瞳が涙に潤んでいる。
「だから、キサラちゃんが大変な時は私が守る。だから」
アカリちゃんが私の手を握る。
「これからも友達でいてね」
私は少し腰を落として、アカリちゃんと視線を合わせた。
アカリちゃんの手を両手で優しく包む。
「私とアカリちゃんは親友でしょ。親友は対価を求めたりしないんだよ。私は、私がそうしたいからしてるだけ。無理はしないで。いっしょにいてくれれば、それでいい」
ポロポロと涙を流し始めたアカリちゃんが私を見つめ返す。
アカリちゃんが目前に近づいてきて、
頬に伝わる温かい感触。もう一度アカリちゃんと目が合う。綺麗な涙が光る。
「ありがとう」
そういうと、アカリちゃんはすれ違うように駆け出した。
…今のって、まさかキス?
まだ熱が残る頬に手を当てる。
いきなりのことで驚いてしまった私はしばらく呆然としてしまった。
はっとしてアカリちゃんが走り去った方に振りかえるも、すでにそこにアカリちゃんはいなかった。
やっぱり、アカリちゃんを追い詰める何かがあるんだ。
私はようやく確信した。
急いで教室に戻ると、私の机の椅子にコートが掛けられていた。アカリちゃんに貸したものだ。
キョロキョロと教室中を見渡すが、アカリちゃんの姿がない。
「ユキさん、アカリちゃんを見なかった?」
「アカリちゃんなら早退したよ。…体調、悪いんだって」




