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2話「いつも通りの通学路」


電車に揺られながら、スマホに映る一枚の写真を眺める。

去年のクリスマス。親友の、アカリちゃんと軽井沢に行ったときの写真。

イルミネーションの前で笑う二人の写真。

私の宝もの。


今年のクリスマスも近い。

またふたりで、軽井沢へ旅行するのも楽しいかも。



…



駅の改札を出てすぐの小さな広場。

いつもここをアカリちゃんとの待ち合わせ場所にしている。

周りはサラリーマンや学生で賑わっていた。


「キサラちゃん、おはよう!」

「おはよ、アカリちゃん」


駅の改札から出た私に、アカリちゃんがとたとたと駆け寄ってきた。


アカリちゃん。私の無二の親友。

柔らかそうな、ブラウンのミディアムボブ。大きくて可愛らしい猫目。ふっくらとした頬と小柄な身体。今日もとってもキュート。


アカリちゃんの後ろ髪が寝ぐせで少しはねてる。撫でて直してあげよう。

気持ちよさそうに目を細めるアカリちゃんの破壊力はバツグンだ。吐血しそう。




アカリちゃんとは、高校に入学したときに出会った。

映画の話題で意気投合して、すぐに仲良くなった。

私が金髪にしたときだって、クラスのみんなは引いてたけど、アカリちゃんはすぐに駆け寄ってきて「すごいかっこいい」って、いつもの満面の笑顔で褒めてくれた。


急に金髪に変えた私に、アカリちゃんはいち早く、いつも通りに接してくれた。

私の見た目なんて気にしない。単純かもしれないけど、とても嬉しかった。




そんな中、去年の夏にアカリちゃんの両親に不幸があった。

そのときに何日か二人で生活して、いっしょに泣いて。たくさん話して。

私達はかけがえのない親友になったんだ。




アカリちゃんの視線が私の首元に向く。


「今日はチョーカーつけてるんだね。とっても似合ってるよ!」

「ありがとう。慣れないアクセサリーだからちょっと恥ずかしいけど、そう言ってもらえると嬉しいよ」


やっぱり目立つようだ。

でも実はこれ、おしゃれじゃなくて呪いの装備なんですよ。

アカリちゃんに褒められてよかったなと、チョーカーを撫でてみる。


嬉しそうに微笑んでいるアカリちゃん。

でもアカリちゃんの目を見ると、先週よりも隈が濃くなっている気がする。

元気そうに振る舞ってるけど、不安げな表情が透けて見えた。

もしかして無理してる?


「アカリちゃん、まだ寝つきが悪いの?」

「うん。悪い夢が続いてて、眠るのが辛くて」


アカリちゃんはため息をついた。


「どんな夢?」

「…キサラちゃんと離ればなれになる夢」


そういえば先週も、同じような夢を見たといって、泣いていた。

…私にとっても悪夢だ。大事な親友が離れてしまうなんて、到底許せることじゃない。


「大丈夫、私はアカリちゃんの親友でしょ!ずっといっしょだよ」


私はアカリちゃんの手をぎゅっと握る。どこにも行って欲しくないという気持ちをこめて。


「…ありがとう、キサラちゃん。元気出たよ。うん、私はきっと大丈夫」


アカリちゃんが私に笑顔を向ける。


「やっぱり、アカリちゃんには笑顔が似合うよ!」


そんなアカリちゃんの姿を見て、私は胸騒ぎを感じ始めていた。

アカリちゃんに何か不幸が訪れるんじゃないか、という不安。


アカリちゃんに涙は似合わない。今日はずっとそばにいてあげよう。

いつでも、どんなものからでも守ってあげられるように。


スクールバッグの中のミニステッキが震えた気がした。

私の気持ちが伝わったのかな?

…光ったり、ぶるっとしたり。不思議なアイテムだ。



駅から学校まではだいたい10分位。


駅前は再開発の最中だから、工事現場が目立つ。

新しくできる予定の商業施設の建築現場は朝から大忙しのようで、働く人の怒号やら金属を打ち付けるような音が聞こえてくる。なんだかお祭りみたい。


ふと隣のアカリちゃんを見ると、身を竦めているように見える。

ぎゅっとカバンの紐を掴んで、その手が小刻みに震えている。

怒号に怯えているのかな?アカリちゃんは気の弱いところがあるし。


「大丈夫?アカリちゃん」

「…!う、うん、大丈夫!ちょっと工事現場の前って苦手で」


「まあ、確かに。工具とか落ちてきたらどうしようって思うことあるよね!」

アカリちゃんの口がひきつる。

冗談だったんだけど、逆に怖がらせちゃったかな?


「大丈夫!そんなことがあっても、私のスーパーパワーで守ってあげるから!」

私はむん!と胸をはってみせる。そう、アカリちゃんは私のヒロインだからね!

「…キサラちゃんって、強いよね。私はキサラちゃんのそういうところに憧れちゃうよ」


私はアカリちゃんの手を取った。微かに震える、冷たい手。


「ほら、工事現場も過ぎたし、楽しい話でもしようよ!」

「うん。ありがとう、キサラちゃん」



私とアカリちゃんは、最近見た映画の感想とか、学校の宿題の話とか、とりとめもない話をしながら歩いた。アカリちゃんは宿題を忘れていたみたいで焦っていたけど、いつもの笑顔が戻っていた。

ときおり見せる、不安そうな目は消えていなかったけど。


今年のクリスマスをどうするかという話の途中で学校に着いてしまったから、旅行のことを切り出せなかったのが残念。

お昼休みに改めて提案しよう。



学校の昇降口は学生でごった返していた。

わいわいがやがやと、朝からみんな元気だ。


「キサラさん、アカリさん、おはよう。今日も朝から仲良しだね」


下駄箱で話しかけてきたのは、私とアカリちゃんの共通の友達であるユキさん。

ユキさんはクラス委員長。肩書き通り、頼りがいのある友達で、アカリちゃんがショックでふさぎ込んでしまったときにも助けてくれた。


「私とアカリちゃんは親友だからね!」

「う、うん!し、親友だもんね!」


私がアカリちゃんに勢いよく抱きつくと、アカリちゃんは顔を真っ赤にしてあたふたしていた。


「相変わらずだね、二人とも」


ユキさんは優しく微笑んでいた。


ユキさんは私のジャージに目を向ける。やっぱり変だった?


「キサラさん、今日は下にジャージ着てるんですね。そういえば1時限目は体育でしたっけ」


アカリちゃんとの登校で幸せいっぱいだった私は、迷惑なドレスのことをすっかり忘れていた。

頭の中が白くなる。

着替えどうしよう!


思わず固まってしまった私のことを、ユキさんとアカリちゃんが心配そうに見ていた。


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