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7話「私のドレスに想いをこめて」


一通りの情報交換を終え、私とキリコさんとの間に沈黙が流れる。

キリコさんは目を閉じ、考え込んでいる様だ。


…

考えがまとまったのか、キリコさんが静かに目を開け、話し始める。


「情報を整理しましょう。デッドエンドを乗り越える鍵は、魔法少女になること。でも意図的に魔法少女になるには代償が必要になる。実質的にこの方法は選べないから、未来のアカリちゃんはキサラちゃんを説得してドレスを着せた…だよね」


「そうです。それでデッドエンドは乗り越えました。…だけど、次の日に敵に襲われた。それでキサラちゃんは…」


「落ち込んでも仕方ない。まだキサラちゃんは死んでない。そうでしょ?」


キリコさんが優しく微笑んで、私の頭を撫でる。

もっと厳しい人だと思ってた。お姉ちゃんがいたら、こんな感じなのかな。


「魔法少女と接触しただけで、一般人が襲われることはない。そんなことをしていたらキリがないし、敵にメリットがないから。でも例外がある」


「例外…ですか?」


キリコさんがこくりとうなずく。


「敵に襲われた理由。たぶん、キサラちゃんが『未来視の魔法少女』を知ってしまったからだと思う。『未来視の魔法少女』は、アカリちゃんが思っているよりもずっと、貴重な存在。私たちの切り札と言っていい。敵は切り札の情報を欲している。もし情報があると分かれば、魔法少女から報復を受けようとも、なりふり構わず襲ってくるでしょう。だからキサラちゃんに『未来視の魔法少女』の情報を渡さずに、ドレスを着てもらう必要がある。そのためには…」


キリコさんが真剣な目で私を見つめる。思わずごくりと喉が鳴る。


「黙って、無理やり着せるしかない。だってアカリちゃん、嘘とかつけないでしょ?ややこしくなるから、メモも渡しちゃダメ」


「無理やり…!?」


「もっといい方法があるかもしれない。でも時間がないし、未来視も使えない。強引だけど、シンプルでいいと思う。それと、アカリちゃんに見せてもらったキサラちゃんの死因なんだけど」


キサラちゃんの死因が書かれたノートを机に広げる。


「アカリちゃんが関われば関わるだけ、死因が非現実的になってる。交通事故、通り魔は現実的だし、まだ理解できる。でもアカリちゃんがつきっきりで守るようになってから、死因がテロリストからの銃撃、怪人の襲来なんて非現実的すぎる。こんなの、中学生の妄想でしょ?それに未来視は未来に少なからず影響を与えるけど、雷雨とか地震みたいな自然災害の原因になんてならない。もしもそんなことにつながるなら、未来視なんて怖くて使えないよ」


「じゃあ、私の接触自体も最低限にする必要がある…?」


「そう。でもこれは仮説。…絶対じゃないけど、試す価値はあると思う。それと、未来のアカリちゃんはもうひとつ大事な情報を残してくれている。死の危険は一度きり。それを防げれば大丈夫なはず。大切な人の身の危険を、陰で見ているのは辛いと思うけど…」


「いえ、まずはドレスの防護を信じます。私とキサラちゃんの接触は最低限にします。それでも危険が来るなら。私は魔法少女の力を、使います。自重なんて、しません。一生をかけて、私がキサラちゃんを守り切ります。監禁してでも」


「アカリちゃんの愛が重い」


……


キリコさんとの作戦会議から帰宅後。

私はキサラちゃんからもらったキャンドルに火を灯した。

昨夜も火をつけたから短くなったけど、灯った火は力強く、私を励ますように揺れている。

火を見つめると、キサラちゃんとの思い出があふれだす。


明日が運命の日。デッドエンド。

今までの未来視では、日曜日からキサラちゃんの家に泊まって、つきっきりで守ろうとした。

それでも失敗した。

守ろうとすればするだけ、デッドエンドは残酷な手口で命を狙ってくる。

今までと違う方法を取らないと、デッドエンドは乗り越えられない。


マギロッドを手に取る。

私はマギロッドが嫌いだった。視界に入れたくないほどに。

事故の日に、私を守るために顕現したものだけど。

両親の死を思い出すからだ。


でも今回の作戦では、このマギロッドが鍵だ。

お願い。私のために、協力して。


明日は長い戦いになる。

できるだけ体力と魔力を回復させる必要がある。


スマホのアラームを19時にセットし、ベッドに身体を横たえる。

もう未来視はできないけど、ミニテーブルには私の宝物を、キサラちゃんとの思い出を、すべて並べる。


両親からもらったオルゴール、映画の半券、桃色のブラウス、プレゼントで貰った髪留め、お揃いで買った小物。他にも、思いつく限りのすべてを、ミニテーブルに溢れんばかりに、綺麗に並べた。


写真を見つめる。

今度こそ、必ずあなたを守るから。

写真を胸に抱き、目を瞑った。


…

……

………


日付が変わってすぐの深夜。


窓から忍び込んだ私は、キサラちゃんの部屋に立っていた。

薄暗い部屋の中で私はキサラちゃんの寝顔を見つめる。


幸せそうな顔で眠っているキサラちゃん。

どんな夢を見ているのだろうか。その夢に私はいるのだろうか。


窓から差し込む光で照らされた綺麗な金の髪。

化粧を落としているはずなのに、微かな光を浴びて輝く肌。

艶っぽい唇。

去年よりも大人びている姿を眺めているだけで、鼓動が早まる。



両親が亡くなったとき、キサラちゃんは私を心配して泊まりこんでくれた。

夜が怖くて震える私を抱きしめてくれたときのことを思い出す。


同じ布団の中で柔らかい身体が密着して、キサラちゃんの綺麗な瞳に私が映ったあのとき。

キサラちゃんへの想いが、恋心になったんだ。



これからキサラちゃんに無理やり、私のドレスを着せる。

私の服を本人の了解をもらわずに着せるなんて、とても背徳感がある。

大丈夫だろうか、私の理性。


掛布団をぺらりとめくる。

キサラちゃんはモコモコとした冬用パジャマを着ていた。

少しめくれたパジャマの隙間から、綺麗なおへそが見える。

……こんな時だっていうのに、見惚れるな!


「この子がキサラちゃん? ビックリするくらい、美人ね」

周囲を警戒し終えたキリコさんが窓から顔を覗かせる。


「キリコさん。本当にありがとうございます。一人でやるには難し過ぎるので…。キリコさんが窓の鍵を簡単に開けたのには驚きましたけど」

「大事な人を失う怖さは、よく知ってる。後輩に同じ思いはさせたくない。…それに黙っていたことの贖罪でもあるから。鍵開けはね、引きこもり癖のあった友人を外に引っ張り出すのに、よく使ってたんだよね」



ドレスを着せるのは、簡単だ。私のマギロッドを握らせればいい。

ドレスのサイズはマギロッドが上手く調整してくれるはず。

だけどパジャマを脱がせておかないと、ドレスが消えたときにパジャマ姿に戻ってしまう。


「じゃあ、ちゃちゃっと脱がせましょう。公衆の面前でパジャマ姿は可哀想でしょ?」

「……」

「どうしたの?」

「パジャマ姿を脳に焼き付けたくて」

「アカリちゃんって、そんなキャラだったの…?」



魔法少女はドレスがない状態でも、常人以上の力を持つ。

100キロでも余裕で持ち上げられるし、銃で撃たれてもたぶんケガ程度で済む。


気持ちよさそうに眠るキサラちゃんのパジャマを、二人で協力して慎重に脱がせていく。

なんだか、すごくイケナイことをしている気がする。心を殺して、無心でやろう…


私たちからすれば、キサラちゃんは軽い。大きなお人形さんのお着替えをさせるようなものだ。

キサラちゃんを起こさないように、慎重に作業する。

あっという間に、キサラちゃんは肌着姿になった。


「わあ、すごいスタイル。モデルさんみたい。……アカリちゃん大丈夫?顔真っ赤だけど」

「…………だいじょぶです」



キサラちゃんの手を開き、その手のひらに私のマギロッドをそっと置く。一本一本、丁寧に指を握らせていく。


「お願い。私の大切な人を守ってあげて」


マギロッドが任せろと言わんばかりに点滅する。

…あまり使ってこなかったから、こんなに感情豊かだと思わなかった。キサラちゃんを無事に守り切れたら、褒めてあげよう。


マギロッドを握るキサラちゃんの手を、両手で包み込む。

マギロッドから光があふれ、光が収まるとキサラちゃんは私のドレスを身に着けていた。


「金髪美人さんに、アカリちゃんの可愛いコスチュームは酷ねえ」

「……かわいい。女神様みたい」

「アカリちゃんがこの子にぞっこんなのはよく分かったわ」



キサラちゃんの手からマギロッドを抜き取り、キサラちゃんの腰のホルスターに差し込む。


マギロッドには、私の魔力が充填されている。

ドレスの維持には魔力が必要だけど、キサラちゃんは魔力を持たない。マギロッドはバッテリーだ。

ドレスには防護の力だけを込め、それを維持するだけの魔力に節約するようにすれば、1日は大丈夫。

それに、この程度の魔力であれば、敵にも感知されないはず。


あとは、キサラちゃんにマギロッドを持って登校してもらう必要がある。

1時間くらいであればマギロッドから離れてても大丈夫だけど、家に置いてきてしまえば魔力の供給ができない。

…これが一つ目の賭けだ。


マギロッドがさっきと同じように点滅する。任せておけ、ってことか。

心強い。もしかしたら、張り切っているのかもしれない。


不安が残る。まだ不確定要素はある。

いくつもの仮説の上に立てた作戦だ。未来視での検証もできていない。

でも、デッドエンドを乗り越え、敵に目をつけられないようにするには、この方法しか思いつかなかった。


「アカリちゃん、そろそろ出よう。深夜で敵の気配はないみたいだけど、用が済んだら早く出た方がいい。…大丈夫、マギロッドは魔法少女の相棒なんだよ。アカリちゃんの大切な人を必ず守ってくれる」

「……分かりました。行きましょう」


キサラちゃんに布団を優しく掛けなおす。


ごめんね、キサラちゃん。朝起きたらとても戸惑うと思うけど、これはあなたを守るのに必要なドレス。

私の想いを、守りたいという想いをたっぷり込めた、ドレスだから。


いっしょにデッドエンドを乗り越えよう。


その先に別れが必要だとしても。

愛する人には生きていて欲しいから。


残り1話で完結の予定です。

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