6話「希望の光」
未来の私から、キサラちゃんを魔法少女にするという提案をされた。
確かに、魔法少女になれば運命を変えられるだろう。
未来のひとつで、キサラちゃんは魔法少女になっていた。
綺麗な金髪が映える黒薔薇のドレスに身をつつんだ、凛々しいキサラちゃんの姿を思い出す。
…そう、素質はある。確実に。
でも、できない。やりたくない。
魔法少女になる方法は色々ある。
これは参謀が聴取し、レポートにまとめている。
ありえた未来では敵の襲来によって変身した。
『敵に対抗するには、魔法少女にならなければならない』という世界のルールによって。
でも、敵の襲来なんて、そうそう起こることではない。
敵がどこにいるかも知らないから、私たちは苦戦しているのだから。
未来視での襲来はきっとデッドエンドの刺客だ。再現性はないと見て間違いない。
意図的に、狙って行うのであれば。私の時と同じ方法。
『最愛の肉親の死による、悲劇的な出来事と目覚め』が確実。
それ以外は不確定要素が多すぎて、本番で挑むには無謀だ。
……
両親が事故にあったとき。私も同じ車に乗っていた。
買い物の帰り道だった。
鼻歌を歌いながらハンドルを握る父と、助手席で舟をこぐ母。
後部座席で外の景色を眺める私。
交差点に入り、横から迫る車に最初に気づいたのは、私だった。
衝突の衝撃で反対側のドアの窓ガラスを突き破り、私は道路に転がった。
…意識が戻り、顔を上げたときには車が火に包まれていた。
サイレンが鳴り響く中、呆然とする私。
なぜ私は無傷なの?
いつの間にか右手に握っていたものを見る。
綺麗な…小さなステッキ。
私は魔法少女になり、顕現したマギロッドが私を守ってくれた。
最愛の両親の死を、代償にして。
……
もっとも愛情を向けている家族の死。
キサラちゃんであれば、おそらくだけど、妹の、ミサキちゃんの死。
こんな残酷な手を提案するくらい、未来の私はキサラちゃんを失うことを恐れ、冷静さを失っている。
もう取り返しのつかないところまで来ているから。
試せるチャンスが、残り一度しかないから。
…私が殺すの?
あの、かわいいミサキちゃんを?
私を、アカリおねえちゃんといって、慕ってくれるあの子を?
無理、ぜったいむり!
皆が不幸になるだけだ。キサラちゃんもミサキちゃんも、ご両親も、私だって!
…必要な死が、私だったら良かったのに。
それだったら、何の躊躇もしないのに。
11月22日、キサラちゃんは死ぬ運命にある。
私がいっしょに行動したとしても、死を防ぐことはできない。
あらゆるものが死の原因になる。
車、人間、魔法少女の敵、そして自然までも。
キサラちゃんを意図的に魔法少女にするのは、実質的に不可能。
皆が不幸になるだけだ。
怪人が現れるのを神頼みする?
いや、そんな確率の低い博打は打てない!
私はこれまでの見てきた未来視の結果を眺める。
救う方法を考えて、ダメだったことに斜線をつけていく。
すべてに、斜線がつけられる。
もう私に取れる手はない…?
キサラちゃんは、死んでしまうの?
絶望的な状況に、髪をかきむしる。
縋るように、私はキサラちゃんとのツーショット写真に目を向けた。
写真の中でキサラちゃんはダブルピースをして、私はキサラちゃんのコートを着て笑っている。
キサラちゃんは綺麗に染めた金髪と、控えめなメイクがとても似合う、美人さんだ。
一方で私は童顔でちんちくりん。背伸びしてナチュラルメイクをしている。
去年のクリスマスに行った軽井沢は思ったよりも寒くて。
間抜けにも十分な防寒をしていなかった私は、寒さで震えてた。
キサラちゃんはすぐに気づいてくれた。
『アカリちゃん、寒いんでしょ?私のコート貸してあげるよ!』
『え、でも、キサラちゃんは寒くないの?』
『平気へいき!いい肌着を着てて、暑いくらいだから!』
そう笑いかけて、優しくコートを掛けてくれるキサラちゃん。
でも触れた手は冷たくて。
きっと、キサラちゃんも寒いはずだったのに。
自分に構わずに、私を寒さから守ってくれた。
……そう。
そうだ。
あのとき。キサラちゃんの『コート』が、私を『寒さ』から守ってくれた。
じゃあ、私の『魔法少女のドレス』をキサラちゃんに着せれば、『デッドエンド』から守ってくれる…?
キサラちゃんを魔法少女にせず、魔法少女の護りをかける方法!
そうだ、これしかない…!
私は机に置かれた、大きなアロマキャンドルを手に取る。
工房体験でキサラちゃんといっしょに作って、交換したもの。
キサラちゃんが、私のために作ってくれた、この世界でただ一つの贈り物。
私の一番の宝物をミニテーブルに置き、火をつける。
いつもの小さなアロマキャンドルより、大きな火が灯る。
今までで一番大きな希望の光が見えた。
これが、最後の未来視。
猫のぬいぐるみを強く抱きしめた。
……
【未来視ー8】
『過去の私へ。』
『キサラちゃんをなんとか説得して、魔法少女のドレスを着てもらうことに成功した。』
『実際に変身してみせて、魔法少女の存在を知ってもらって。』
『魔法少女のドレスがキサラちゃんを守り切った。』
『キサラちゃんを襲った死の危険は、一度だけだった。』
『デッドエンドは乗り越えた。』
『だけど』
『だけど翌日、キサラちゃんが死んだ。敵に殺された。残酷に。キサラちゃんの家族全員。』
『キサラちゃんに情報を渡し過ぎた。敵がリスクを承知で、その情報を得るために襲来した。』
『私が魔法少女だと告白したことも良くなかった。キサラちゃんの正義感を忘れていた。私と、積極的に関わろうとしてしまった。』
『次は、決して逃れられない運命の日。』
『突破口は開いた。だけど魔法少女としての関与は控えて。』
『過去の私、お願いだから親友の未来を変えて。』
『これが最後のチャンス。』
『デッドエンドを乗り越えて。』
……
目が覚める。
また助けられなかった。
でも涙は、もう流さない。
ありがとう、未来の私。
最後のヒントをくれて。
スマホを手に取る。
「もしもし。アカリです。…見つけました、デッドエンドの突破口」
…
……
………
お昼。
キリコさんと喫茶店で落ち合った。
突破口を見出したのに沈む私を、キリコさんが心配そうに見つめる。
親友が敵に狙われ、運命の日の翌日に殺されてしまったことを話した。
キリコさんは一瞬悩み、口を開いた。
敵との戦況について。
敵の大規模作戦を防いだことで、敵は苛立っているらしい。
日中は敵の監視が強まっている。
少しでも魔法少女の情報を得ようとするために。
キサラちゃんに着せたドレスに魔力を込めすぎて、敵に感知されたかもしれない。
敵の監視を受け、私が『未来視の魔法少女』とバレたのかもしれない。
キサラちゃんが貴重な情報源になると、敵に知られたのかもしれない。
どれも仮説だ。
でも、キサラちゃんが敵に狙われたのは事実 。
少しでもリスクを減らす必要がある。
魔法少女として接触するなら、深夜の短時間だけ。
その条件なら、先輩も手伝えるそうだ。
そして、キリコさんから忠告を受けた。
デッドエンドを乗り越えても、それで終わりじゃない。
私たちの戦いは続く。
魔法少女の警句。
魔法少女になったキリコさんが、大事な人と距離を置いた理由。
『魔法少女は孤独でいることが推奨される。大切な人を失いたくないなら。』
…私は、覚悟を決めた。
私にとって、命よりも大切な人を守るために。




