5話「自分を犠牲にしてでも」
キサラちゃん達と過ごして、キサラちゃんを死なせないという気持ちはさらに強まった。
思えば、私はキサラちゃんから与えられてばかり。助けられてばかりだ。
恩返しをしたい。キサラちゃんを守りたい。絶対に。
デッドエンドからキサラちゃんを守り切るには、一日中キサラちゃんに張りつく必要がある。
いつ危険が来ても、対応できるように。
離れて見守るなんて、悠長なことはできない。常に視界に入れておきたい。
そこで考えたのが、キサラちゃんの家に泊まること。
デッドエンドの前日は日曜日。
何かと理由をつけて、泊まらせてもらう。そうすれば、いっしょに寝て、登校できる。いつでも守れる。
この方針で行こう。
いつも通りに未来視の準備を始める。
扉の3つの鍵を閉め、今日は気持ちを落ち着かせる香りのアロマキャンドルを選ぶ。
アロマキャンドルに火を灯し、机に大事なものを並べる。
今日着た桃色のブラウス、映画の半券、お揃いで買った小物、そしてキサラちゃんとの写真。
カーテンを閉め、部屋が暗闇に包まれる。
今日はキサラちゃんといっぱい楽しんだ。
『薬師の魔法少女』の薬を頼らずとも、大丈夫。今日は眠れるはず。
この薬は効果が強いから、できれば温存したい。
でも、念のため、市販の睡眠薬を口に含む。
口内に苦味が広がる。
冷えたミントティーで薬を流し込み、猫のぬいぐるみを手に取る。
そしていつものように魔法少女に変身し、横になった。
幸せな思い出を、視界いっぱいにおさめ、ぬいぐるみを強く抱きしめる。
大丈夫。きっと。
【未来視ー4】
『キサラちゃんが死んだ。11月22日 13:38に銃で撃たれて。学校に侵入したテロリストに。テロリスト?こんな馬鹿げたことがあるわけない!私が人質に取られて、私を助けるために、テロリストに反抗して、キサラちゃんが銃で撃たれた。私は銃で撃たれても平気なのに、間に入る時間も無かった。』
『テロリストは皆殺しにした。』
『家に泊まって、ずっといっしょだった。今日は危ないから、いっしょにいてと訴えた。キサラちゃんは信じてくれたのに。』
目が覚める。目覚まし時計を壁に投げつけた。
…
次の日の夜。『薬師の魔法少女』の睡眠薬を服用。未来視を行使。
【未来視ー5】
『キサラちゃんが死んだ。11月22日 10:15に敵の怪人の手で。10時、校庭に怪人が現れた。キサラちゃんが魔法少女に変身して、怪人を倒した。キサラちゃんに見惚れて、油断してしまった私を殺してしまいたい。キサラちゃんは潜んでいた増援の怪人に殺された。』
『怪人は解体した。』
『アカリちゃんが危ないって言ったのは、このことだったんだね。キサラちゃんは優しく、言ってくれた。でも、違うの。』
目が覚める。…無力感で、なかなか起き上がれない。
……
次の日の夜。『薬師の魔法少女』の睡眠薬と精神安定剤を服用。…身体が重い。未来視を行使。
【未来視ー6】
『キサラちゃんが死んだ。11月22日 7:48に落雷。天候まで敵になるなんて、予想できない。いつでも守れるように、近くで見守っていたのに。もうキサラちゃんの死を見たくない。』
『まって、おいてかないで。』
目が覚める。…涙が、枯れてしまった。
ここまで短期間に、未来視を乱用したことは無かった。
その影響かどうかは分からない。
でも3回目の未来視と同じく、鮮明な記憶が流れ込んでくるようになった。
……
授業中、教室に雪崩れ込むテロリストたち。
いきなりの非日常的な出来事に呆然としてしまう。
黒板の前に立って問題を解いていた私は人質に取られる。
怖い顔をしたキサラちゃんと目が合う。
集まった警察隊。
追い詰められたテロリストに、銃を向けられる。
キサラちゃんがテロリストに反抗し、銃で撃たれる。
その隙をついて雪崩れ込んでくる警察隊。
「大丈夫?」
血にまみれたキサラちゃんは私の腕の中で、私に微笑みかけて、死んでいった。
……
校庭に現れた怪人。
デッドエンドは、どこまでキサラちゃんを狙うの?
白昼堂々と敵が一般人を襲うことなんて、ありえない!おかしい!
怪人から私たちに放たれる光線。
それを防いだのは、黒薔薇のドレスに身をつつんだキサラちゃん。
私たちを守るために、魔法少女に目覚めたんだ!
私も急いで変身して、いっしょに怪人を倒した。
キサラちゃんが目を丸くする。
「アカリちゃん、魔法少女だったの!?」
それを言うなら、キサラちゃんだって。
美しい黒薔薇のドレス。キサラちゃんと肩を並べて戦うのが、密かな夢だった。
私はキサラちゃんに見惚れてしまった。
潜んでいた怪人にキサラちゃんの首が
……
キサラちゃんといっしょに家を出て、しばらく歩いたら雨が降り始めた。
今までにないことに、動揺する。
なんで!?いままで雨なんて降らなかった!
「ほら、アカリちゃん、走って駅まで行こう?」
にこりと、楽しそうに笑うキサラちゃん。
「まって、置いてかないで!だめ!」
いっしょに駆け出す。
轟音。
気づくと、目の前には焼け焦げたキサラちゃん。
「なんで!?こんなことっておかしい!どうして!?」
魔法少女のドレスに守られた私は無事。だけどキサラちゃんは。
「よかった。あかりちゃんがぶじで」
泣きわめく私を見て、私を安心させるために優しく、私の頬を震える手で撫でて、死んでしまった。
……
魔力が枯渇した。身体も動かせない。
同時に、薬を飲んでも眠れなくなった。未来が怖くなって。
そうか、こうやってデッドエンドは『未来視の魔法少女』を殺すのか。
…
……
………
ベッドの上で身動きが取れなくなった私は、叔母さんに病院へ連れていかれた。
極度の疲労と診断を受け、点滴を受けた後に帰宅。
そして私は2日間、学校を休んだ。
学校を休んだ日はずっとベッドに横になっていたけど、眠れなかった。
……
「……アカリちゃん、フラフラだけど大丈夫?昨日も休んでたし、無理してない?」
今日はがんばって学校へ来た。
無事なキサラちゃんの姿を見たくて。
「…うん、ごめん。最近寒いから風邪、引いちゃって。今は大丈夫。キサラちゃんに会いたくて、頑張ってきたよ?」
「なんか、照れる」
キサラちゃんがはにかむように笑う。
銃で撃たれて、痛みで苦しいはずなのに、微笑みかけるキサラちゃん。
魔法少女姿になって、恥ずかしそうに笑うキサラちゃん。
全身やけどで痛みで呻きながら、それでも私を安心させるような目で見つめるキサラちゃん。
キサラちゃんの死に顔が重なり、枯れたはずの涙がこぼれる。
「え!?大丈夫じゃないでしょ!」
キサラちゃんが優しく頬の涙をハンカチで拭ってくれる。
私はキサラちゃんの手を握る。
「…いつも、私を助けてくれて、ありがとう。私、頑張るから」
その日の夜。
魔法少女姿になった私は、猫のぬいぐるみを抱きしめ、横になっていた。
アロマキャンドルの火だけが灯る、暗闇。
猫のぬいぐるみを抱きながら、キサラちゃんにもらったハンカチを見つめる。
あの後、キサラちゃんは私を保健室へ連れて行った。
私の目の隈を心配そうに見るキサラちゃん。
いつだってそう。
守られるのは、私。
キサラちゃんと見た映画を思い出す。
キサラちゃんが例えたように、私がヒロインで、キサラちゃんが主人公なら。
ヒロインは、自分を犠牲にしてでも、主人公を守るべきだ。
小さな杖のようなマギロッドを手に取る。
マギロッドは、魔法少女の相棒と言えるもの。
いろいろと役目はあるけど、その中のひとつが魔力の充填。
…両親の死を思い出すから、あまり使いたくない。
だけど、今はこれが必要。
限界まで魔力を使い果たしてしまって、満足に休息も取れていない。
お願い。力を貸してほしい。
応えるように、マギロッドにはめこまれたジュエルが点滅する。
私は『薬師の魔法少女』の精神安定剤と睡眠薬を口に含む。
いつもの倍量。
抗う間もなく、すっと、意識が沈殿した。
【未来視ー7】
『キサラちゃんが死んだ。もうわかってる。日時を伝える必要なんてない。』
『いつ何がくるか、予想がつかない。』
『朝からずっとくっついていた。わがままを言って、学校を休んで。』
『夕方、いっしょに家で映画を観ていた。キサラちゃんがトイレに立った。』
『地震が起きた。』
『ミサキちゃんを庇って、下敷きになった。』
ルーズリーフを破り捨てる。ペンを投げつける。
机に伏せる。
未来の私は泣いている。
…
顔を上げ、ルーズリーフをもう一枚、取り出す。別のペンを取る。
『過去の私。聞いて欲しい。キサラちゃんを助ける方法。』
『キサラちゃんを魔法少女にすること。』
『キサラちゃんが魔法少女になったとき、キサラちゃんはおそらく、死の運命を乗り越えている。怪人を倒したから。』
『新人の魔法少女は弱い。それは分かっていたはず。増援が来る可能性だって、いつもなら警戒する。私が油断していなければキサラちゃんの死は防げた。』
『だからキサラちゃんを魔法少女にして、そしてキサラちゃんを、命を懸けて守る。』
『魔法少女は普通の人と異なる運命を歩むはず。』
『でも。でもそれに必要なものはわかっている。意図的にそれをするなら、ミサキちゃんの』
未来の私は書きかけの文字をグシャグシャに塗りつぶす。
『ごめん。でも、お願いだから親友の未来を変えて。』
『またキサラちゃんと軽井沢に行きたい。』




