4話「私の憧れ」
キリコさんから『デッドエンド』について教えてもらった、その後。
魔力を回復するために、未来視を使わずに眠ることにした。
辛くて、長い戦いになるかもしれない。
心が挫けるかもしれない。
死にたくなるかもしれない。
でも。
デッドエンドは私の責任だ。
…
……
………
アラームで目を覚ます。
身体を起こす。
カレンダーに目を向ける。そのまま5秒数える。
毎朝のルーチン。過去の私が憑依していたら、接続が成功しているかどうか、分かる様に。
今日はキサラちゃんとミサキちゃん、私の三人で映画を観に行く日。
いっぱい、楽しもう。
…未来視には、幸福な今が必要。
悲しんでばかりいたら、ダメだから。
私は精神安定剤を口に含んだ。
……
ミサキちゃんはキサラちゃんの妹さん。
キサラちゃんに似て、とても美人な子だ。
アカリお姉ちゃんって呼んでくれて、とても慕ってくれているのが嬉しい。
でも周りから見ると、ミサキちゃんの方が身長が高くて、お姉ちゃんみたいなんだけど。
駅の改札を出ると、モデルみたいな美人姉妹が!
もちろんキサラちゃんとミサキちゃんだ。
もしかして私がこの二人の間に入ったら、私のちんちくりん度が上がってるのでは?
「おはよう、アカリちゃん!」
キサラちゃんの笑顔がまぶしい。
ロングストレートの艶のある金髪。控えめなメイクは整った顔立ちを際立たせていて、耳にはシンプルなイヤリング。スタイルの良さを際立たせるパンツスタイル。
ファッション雑誌のモデルさんよりも、かっこいい。
「アカリちゃんの桃色のブラウス、良く似合ってるよ!」
キサラちゃんは褒めるのがとても上手い。桃色のブラウスは、大事な日のために買っておいた服。
似合っているか不安だったけど、褒めてもらえて嬉しかった。
「お姉ちゃん達って、すっごい仲良いよね!なんでなの?」
キサラちゃんはにこりと微笑んだ。
「そんなの、親友だからに決まってるでしょ!」
私たちが来たのは、映画館が入っているショッピングモール。
日曜日だったこともあって、多くの人で賑わっていた。
「アカリちゃん、いっぱい楽しもうね!」
「う、うん。そうだね」
辛いことばかりだった私は、キサラちゃんのその言葉だけで感極まってしまった。
顔を背けて、少し出てしまった涙を拭う。
…いっぱい、楽しもう。
……
服屋さんでキサラちゃんに着飾られたり、雑貨屋さんでお揃いの小物を買った後。
映画館の入場時刻までの間、フードコートで休むことにした。
私とミサキちゃんはクレープ。
キサラちゃんは…たこ焼き?
キサラちゃんが甘いものを食べたいって言ってたのに…
「アカリちゃん、ほら、あーん」
「えっ」
「お姉ちゃん、それだと熱くて食べれないでしょ」
「あ、そっか。ごめんごめん」
…キサラちゃんは、少し天然なところがある。
キサラちゃんは串に刺さったたこ焼きを猛烈にフーフーし始めた。
「ほらアカリちゃん、冷ましておいたから!」
再度、差し出されるたこ焼き。
…キ、キサラちゃんがフーフーしたたこ焼き!?
「お、お姉ちゃん、それはアウトでしょ…」
……
ミサキちゃん、キサラちゃん、私の順番で映画館の座席に座る。
そろそろ始まる時間だ。
「ミサキ、今日の映画はどんな内容なの?」
「えーとね、これは異世界転生モノだね。主人公の男の子が転生者みたいだよ。幼馴染のヒロインの子が勇者に選ばれて、それに主人公がついていくんだって。二人で困難を乗り越えながら、世界を滅ぼそうとする邪龍を倒す物語らしいね」
「ヒロインが勇者だなんて、作者はよく分かってるねー」
キサラちゃんはポップコーンを頬張りながら、笑っていた。
「ヒロインがアカリちゃんで、主人公が私かな?私がアカリちゃんから離れるなんて、ありえないからね」
私の顔が、真っ赤に染まった気がした。
照明が落ち、映画が始まる。
初めのうちは、ほのぼのとした内容だ。二人は戯れ合いながら、共に戦い、焦れったい恋をして。
いくつもの試練を乗り越えていく。
クライマックスの邪龍戦。
勇者なのにそれまで守られてばかりいたヒロインが力に目覚め、邪龍を打ち倒す。
2人は抱きしめ合い、結婚の約束をする。
…映画が始まる前にキサラちゃんが登場人物と私たちを重ねていたから、なんだか少し恥ずかしくて直視できなかった。
隣のキサラちゃんの顔を見る。
スクリーンの光に照らされたキサラちゃんは、真剣な顔つきをしていた。
あまり見かけない表情をしたキサラちゃんの横顔に、私は見惚れてしまった。
観た映画はベストセラーの小説が原作なだけあって、面白かった。
でも、その後の結末だけ、私は引っかかった。
映画を観終わって、カフェでお茶をして。
楽しい時間は、あっという間に、終わってしまった。
……
帰り道。
キサラちゃんは考え込んでいるみたいだった。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「うーん」
腕を組んでうなっている。どうしたんだろう。
「今日観た映画、邪龍を倒した後に結婚の約束をしたのにさ、ラストでヒロインが死んじゃったじゃない?それが後味悪くてさ」
「お姉ちゃん、カフェでも言ってたけど、結構引きずってるね」
今日観た映画の後味が相当悪かった様で、そんな不機嫌なキサラちゃんに話しかけてきたスカウトの人は少し不憫だった。「興味ないです」の一点張りで。
「なんなの?邪龍を倒したあとに黒幕が出てきてさ、『世界とヒロイン、どちらを選ぶか』って。唐突すぎるでしょ。しかも主人公が悩んでる間にヒロインが死を選んじゃうとかさ」
「さっき映画のレビューサイト見たけど、最後の決断は脚本家がねじ込んだオリジナルらしいね。ヒロインの死ってラストは賛否両論で、それが炎上の理由みたいだよ。お姉ちゃん、ヒロインの女の子をアカリちゃんに重ねちゃったから、気にしてるでしょ?」
ニヤニヤするミサキちゃんに、キサラちゃんが眉を寄せる。
「まあ、それもあるけど。…エゴだと思うんだよね、原作の結末を変えてまで、観てる人を泣かせたいっていうさ。本当にヒロインが大切な人ならさ、何をしてでも助けたい。主人公はもちろんそう思ってるけど、脚本家がそれを許さない。主人公の行き詰まりを用意して、苦しむように仕向けてる。ヒロインはそれを見て、悲しんで、自分を犠牲にする」
「でもお姉ちゃん。脚本家って、その作品の神、みたいなものでしょ?どうしようもないんじゃない?」
「私だったら」
キサラちゃんの強い眼差し。私が憧れる、キサラちゃんの芯の強さ。
「私だったらそんな行き詰まり、ぶっこわしてやる。誰も犠牲になんて、してやらないんだから」
…
……
………
帰宅後。
私は未来視の準備を始めた。




