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最終話「デッドエンド ブレイカー」


「じゃあ、私は行かなきゃ」

「うん」



「またね、キサラちゃん」

「うん。またね、アカリちゃん」


涙を拭うキサラちゃん。

名残惜しい気持ちを抑え、私は窓から飛び出した。


…

……

………


「おかえり、アカリちゃん。…よかったね。心が通じ合えて」


私は隣の建物の屋上で、キリコさんと落ち合う。

キリコさんは号泣していた。鼻水も出てるし。

…これから、この人とどう接していけばいいんだろうか?


「いいものを見せてもらった……まさかデッドエンドを乗り越えるなんてな」


この場にいるのはキリコさんだけじゃない。

『参謀の魔法少女』

『選別の魔法少女』

『薬師の魔法少女』

現在の魔法少女の中でも、指折りの実力者4人が集まってくれていた。


私のために。

キサラちゃんとの最後の時間を作るために。

参謀曰く、今までデッドエンドを秘匿していた贖罪、らしい。


「僕が何十年、参謀をしていると思う?僕に隠し事なんて通じないよ」

「参謀が気づいたの、昨日。先に気づいたの、あたし」

『薬師の魔法少女』がジト目で参謀を見つめる。参謀はバツが悪そうだった。


………

……

…


私が早退をして、キサラちゃんと別れた後。

ずっと離れたところから見守っていた。

キサラちゃんの近くに居すぎると危険だから、距離を取って。


俯きながら歩くキサラちゃんを見ると、罪悪感を感じた。


いつも通りにしていれば良かったのに、頬にキスをしてしまったのは、衝動的だった。これがお別れになると思うと、どうしても、我慢できなかった。


キサラちゃんから何度も電話がかかってきた。声を聞きたいと葛藤した。でも電話は取れない。決意が揺らぐから。


トラックに撥ねられた瞬間は、気が気じゃなかった。飛び出したい気持ちをこらえ、見守り続けた。


担架に乗せられたキサラちゃんに大きな傷が無いと分かったとき、私は安堵でその場にへたり込んだ。


その後も、病院の隣にある建物の屋上から、見守り続けた。もしデッドエンドが二度目の刺客を送ってきても対応できるように。その時は、決して自重しないと覚悟を決めて。


キサラちゃんはちゃんと目覚めるのか?ドレスはちゃんと護りきれたのだろうか?

不安な私を、回収したマギロッドが慰めてくれた。



知らない場所で目覚めて、キョトンとするキサラちゃん。

号泣する家族に目を丸くするキサラちゃん。

警察の説明を受けて驚くキサラちゃん。

ドレスのことを心配するキサラちゃん。


やっと救えた。

キサラちゃんは生きてる!


目覚めた後も、ずっと見守った。

キサラちゃんは事故の興奮で寝つけないようで本を読んでいた。私はずっと、それを眺めていた。


そして0時を過ぎた。

やった、私とキサラちゃんはデッドエンドを乗り越えられたんだ!


点滅するマギロッドを振り回して感動に酔いしれていると、私の目の前に4人の人影が落ちる。

振り返ると、4人の魔法少女が立っていた。


むすっとした顔の『参謀の魔法少女』

かすかに笑みを浮かべた『選別の魔法少女』

満面の笑みの『薬師の魔法少女』

…そして涙を浮かべる『殲滅の魔法少女』キリコさん。


「周辺は私たちが警戒をしておいてあげる。…ちゃんとお別れをしてきなさい」

キリコさんは、優しく私の背を押してくれた。



私は別れの決意が揺らがないように、魔法少女の姿でキサラちゃんと会うことにした。

私と関わると危険。それを分かってもらうために。


でもキサラちゃんは、私との別れを否定した。

また会おうって。

危険を承知で。

私にキスという枷をつけて。


…ずるい。

私は、もうキサラちゃんと会えないことを覚悟していたのに。

キサラちゃんは、永遠の別れというもうひとつの『デッドエンド』を、ぶち壊してくれた。


やっぱり、私の好きなキサラちゃんは、すごい。

魔法少女じゃないのに、私よりも、ずっと強い!


…

……

………


まだ唇に残る感触。心が通じ合った瞬間。

身体の内から、力が湧き上がってくるのを感じた。


溢れ出る、魔力。

なんでもできそうな、万能感。

どこまでも見通せそうな、確信。


小柄な『選別の魔法少女』が私に近づき、背伸びをして私の頭を撫でる。


「ごめんね。辛いときに力になれなくて。…アカリちゃん、すごいパワーアップしてる。わかるでしょ?」

「はい。今ならどこでも、どこまでも見通せそうです」


私は参謀に顔を向ける。

「参謀。私は約束しました。また会おうって。…私のことを使い倒してください。雑事は早く、片づけたいです。これからは前線にも出ます」

「あ、ああ。敵のことを雑事で片づけるとは、アカリくんも強くなったね…。うん、分かったよ。今までできなかったことをやろう。停滞した戦況をひっくり返すときが来たようだね」


次に私は、鼻をかんでいるキリコさんへ顔を向ける。目が合うと、キリコさんは微笑んでくれた。


「キリコさん。本当に、ありがとうございました。キリコさんの協力がなければ、デッドエンドは乗り越えられませんでした」

「気にしないで。…デッドエンドを乗り越えることは、歴代の『未来視の魔法少女』の悲願。それを果たしてくれて、こちらこそありがとう」


そうだ、キサラちゃんがトイレで着替えをしているときに盗み聞きしたことを、キリコさんに伝えないと。


キリコさんが一番後悔しているだろうことを。

そして、私を勇気づけてくれたコハクさんへの恩返し。


「キリコさん。あなたの大切な人、コハクさんの魂が学校であなたを待っています。キサラちゃんがコハクさんを救ってくれました。…会いにいってあげてください」

「え…、コハクが…そんなところに!?あの引きこもり娘め…!」


そうは言いながらも、キリコさんは満面の笑みだった。でも、また涙が溢れ出していた。折角、ハンカチで拭いたのに。


私もキサラちゃんもキリコさんも、みんな涙脆い。


「会ったら、驚くかもしれません。メイクを頑張るらしいですから」

「えー!今のうちに私も練習しないと!」


キリコさんは、今まで見た中で一番綺麗な笑顔を浮かべていた。


…

……

…………


クリスマス。

私は軽井沢にいる。


私は魔法少女の姿で建物の屋上に腰掛け、イルミネーションを眺めていた。手には温かいココアを持って。


『千里眼の魔法少女』となった私なら、遠視でイルミネーションを見ることもできた。

でもこれだけは、自分の眼で直に見ないと気が済まなかったから、手早く敵の拠点を破壊して飛んできた。


甘く、温かいココアを飲みながら足をぶらつかせていると、イルミネーションが点灯した。


きらきらと宝石箱のように輝くイルミネーションの周りに人だかりができている。

この中にキサラちゃんもいるだろうか。

たぶん、いや、きっといると思う。



ふと、寒がっている恋人に、コートをかけているカップルが目に入る。


その姿が、去年のクリスマスの、私とキサラちゃんに重なる。


寒がる私にコートを掛けてくれたキサラちゃん。

その思い出が、デッドエンドを乗り越えるヒントだった。


最後にヒントをくれたのは、キサラちゃんだった。

キサラちゃんには敵わないよ。


やっぱり、勇気も優しさもあるキサラちゃんは主人公だ。

…そうするとキサラちゃんと心を通じ合えた私ってヒロイン?なんだかむず痒い。

今までは、ただのモブだと思ってたんだけど。



雪が降り始めた。


でも去年と違って、魔法少女のドレスに護られた私は寒さを感じない。


カップルが身を寄せ合うのが見える。

私のとなりに、キサラちゃんはいない。


…寂しい。

寒さを感じないはずなのに、涙が出て、身体が震えるのはなんでだろう。


ホルスターに差したマギロッドが点滅する。

…励ましてくれるの?

そう。そうだね。


キサラちゃんと心はつながっている。

約束したじゃない。


今は隣にいないけど、ちょっと離れるだけだから。

「またね」って言ったから。

早く会いに行けるようにしよう。


だから、頑張るね。応援してて、キサラちゃん。




私には、未来視を使わなくても分かる未来がある。

どんな未来かなんて、言わなくても分かるよね。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。

EX話「その後の彼女たち」を投稿して、完結とする予定です。

ただEX話は蛇足になるかもしれません。彼女たちの今後が気になる方は読んでみてください。


楽しんでいただけたなら、評価・リアクション・感想をいただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
読み終えました! 面白かったです。 伏線というか、なぜその行動に至ったのか、読み返すとまた味が変わりそうな作品ですね……! 初見で引っかかったポイントが、第2章で明かされていくのは爽快感がありました。…
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