第4話「もしやあたし殺されそう?」
「どうせあなたのことだから、裏で何かやっているのだろうとは思っていたけれど、まさかこんなことだったとは……。平和のために戦う戦士として、その行いが正しいとでも?」
見知らぬ高校生は英子に詰め寄った。こめかみにがピクピクと震えていた。
「な……なんで。お前、今日は1日勉強するんじゃ……」
振り返った英子の顔はあたしからじゃ見えなかったが、彼女の動揺する姿を初めて見たような気がする。
「あれは嘘よ。そろそろ、あなたの思惑を知らなければならなかったから」
特徴的な長くサラサラな黒髪を片手でかきあげる。日光の反射で微かに光っていて、水が流れているようだった。
「なぜ魔法少女でもない女の子が、魔物退治に参加しているの? そもそも、あの子は何者?」
ビシリと指をさされる。全身から汗が噴き出てきた。何も答えられず、その場で硬直してしまう。
「……鹿乃子の親友ってことらしいぜ」
「じゃあ、有馬鹿乃子があの子を魔法少女の道に誘ったということ?」
「いや、違う。こいつが勝手に首を突っ込んだってだけだ。俺はずっと止めてたんだぜ?」
止めてたのは本当だから何も言えない……。
「なるほど。有馬鹿乃子がそんな非道な行いをしていなくてよかったわ。無邪気な子だけど、そういう線引きはできるはずよね」
一瞬だけ微笑み、彼女は一歩前に足を出す。すると英子が彼女へ立ちはだかるように動いた。
「……何?」
「お前がこいつの首を掻っ切る場面が容易に想像できたんだよ」
「それが正しく、合理的な判断よ。あの子がここに存在し、魔法少女の記憶を持っているという事実が、すでに私たちのリスク——排除するべき存在であることの証明なのよ」
「相手はただの一般人だぜ? 平和のために戦う戦士を自称してんのに、都合が悪けりゃ殺人もやってやろうってか」
「当たり前でしょう」
彼女はひどく冷めた顔をしていた。英子を見下すように、首を傾ける。
「もし魔法少女の秘密が世間に明かされたら、どうなるかわかっているのかしら」
「俺は、そんなひどいことになるとは、別に思ってねーけどな」
「考えが甘いのね。パンケーキを食べたくなるわ」
甘いものを見て、甘いものを食べたくなるという理屈はよくわからないのだが。
「SNSの普及した現代社会の中で、私たちのような、人間から逸脱した存在が受け入れられるわけがない。受け入れられたところで、民衆は私たちの邪魔になるに決まっているわ。そもそも、信じられるかすらどうか怪しいけれどね」
「……確かに、それも一理あるな」
「だから、殺すべきなのよ。そこをどきなさい」
もう一歩前に踏み出そうとしたところで、英子は彼女の両肩をガシッとと掴んで止めた。顔が近づき、睨み合うような姿勢になる。
「何も殺すまでしなくてもいいだろ。あいつ、一般人にしては結構動けるし、度胸もそれなりだ」
「存在が私たちの足を引っ張っているわ。いわゆる存在悪ね」
「………………」
堂々と言うので、英子も口をつむぐ。
「………………じゃ、百歩譲ってだ。ここで殺すくらいなら、魔物と戦わせて、結界の中で死んでもらった方が、いいだろ? 生産性のある行動ってやつだぜ、お前好きだろ?」
「黙りなさい。なぜ百歩も譲る必要があるの? そんなやつ相手に、一歩だって譲ってはならないわ」
「いてっ!」
ゴツんという音が鳴った。肩を握られていた彼女が、英子に思い切り頭突きをしたようだった。英子は怯んで、その場に一瞬座り込む。その隙をついて、彼女は走ってきなさい。
「正義のためよ。今すぐに死になさい」
全く反応できなかった。あたしにできたのは、せいぜい目をつぶるくらいのもの。
しかし、いつまでたってもあたしの身に何かが起こることはなかった。閉じられた視界の中で天国行きを悟ったが、目を開けるとそんなことはなく、高架下だった。あたしの目の前に、見知らぬ女性の後ろ姿があった。
「こんなところで、一体何をしているのかしら」
その女性は身長が高く、黒いスーツを着ていて、ウェーブのかかったベージュ色の髪をしていた。あたしと黒髪高校生の間に割って入り、堂々たる立ち振る舞いだった。
「お、おいお前! 俺を退かせるにしてももっと方法があるだろーが!」
不意に少し先から英子の声と、ザッザッと雑草を踏み荒らす音が聞こえたが、すぐに止まる。目を見開き、愕然と、あたしの目の前に立つその女性を凝視する。
「は……? なんで、リーダーがこんなところに」
リーダー?
それって、魔法少女のリーダー?




