4.王太子の愚かな公表は滅びを招く
でも、この国の体質じゃぁ王太子が動かずともいずれ滅んでた可能性高かったかもw
『ルミナス・セラム』と名付けられた『影熱病』の特効薬が開発されてから一ヶ月が経過した。
製造ラインは医療ギルドを通じて大陸中に整備され、薬は商業ギルド主導のもとで疫病に苦しむ地域へと迅速に配布されていった。『影熱病』の拡大は見事に食い止められ、推定百五十万人の命が救われたという報告が各国から寄せられた。
開発チームのリーダーであったミラノールと、副リーダーとして研究者たちを統率した次期所長候補のアーロンの名は、世界中の新聞の一面を飾った。三ヶ国同盟は二人に金一封と最高勲章『生命の光章』の授与を決定した。
だが、授与式の場でミラノールは静かに前へ進み出ると、澄んだ声でこう述べた。
「この勲章は、研究所の研究者や最前線で『影熱病』と闘い続けた全ての者達に捧げられるべきものです」
彼女は金一封を疫病で孤児となった子供たちのための基金へとまわし、勲章の受取先を個人ではなく『三ヶ国同盟医療研究所』そのものへの変更を申し出た。隣に立つアーロンも、深く頷き、同じ意向を示した。
その謙虚な姿勢は、列席していた各国の王族や大使たちの胸を打ち、報道陣はこれを美談として大陸中に伝えられた。人々は、手柄を独り占めにせず、背後にいる裏方の者達の努力を讃える二人の人間性に、ますます敬意を抱くようになった。
そんなニュースは、もちろんナロコサーズ王国にも届いた。
王宮の執務室では、朝刊をみたルドヴィック王太子が怒り心頭な表情でわなわなと震えていた。
「あの女、黙って消えたと思ったら世界を救っただと?」
黙って消えたのではなく、王太子自らが告げた追放処分に従っただけなのだが、彼にとっては全てミラノールが悪いと思っているようだ。
苛立ちのあまりに持っていた新聞をダンッと机にたたきつけるルドヴィックに新たな婚約者となったセリーヌがそっと告げた。
「ルドヴィック様、落ち着いてください。これはむしろ……チャンスです」
「チャンスだと?」
「ミラノールの功績を、再び私のものにしてしまいましょう。『私の研究理論のおかげで特効薬が開発できたのに、彼女は公表せず、全て自分一人の手柄にした』――そうすれば、世間はきっと信じます。何しろ、彼女には前科がありますから。一度目があるならば、二度目もあり得る。人々はそう思い込むはずです」
セリーヌからの薄ら笑いを浮かべた進言に、ルドヴィックも怒りで歪んだ顔から狡猾な喜びを現わす顔へと変わっていく。
「……そうだな。彼女は君から瘴気病の研究理論を盗んだ前科持ちだということにしている。なら、今回も同じ手口を使ったということにすればいい。彼女は君の天才的な理論を盗み出し、国外に逃げて、自分のものとして発表した。なるほど、筋が通っている」
傍から見たら穴だらけも良い所な作戦なのだが、自分の言葉は絶対と信じ込んでいるルドヴィックはこれで全てが上手く行くと本気で思い込んでいた。
周囲の者も大半がルドヴィックと似たような思想を持っていた事もあって、翌日にナロコサーズ王国は世界に向けて正式な声明を発表した。
宮廷書記官が朗読するその内容は、セリーヌの提案そのまま――『影熱病』の特効薬『ルミナス・セラム』の基盤となる理論は、セリーヌ・フォン・リヒテン公爵令嬢が一年前から温めていたものであり、当時研究所にいたミラノールがその理論書を密かに書き写し、国外逃亡後、自分独自の研究として三ヶ国同盟に売り込んだというものであった。
声明の最後は、書記官の声を一段と大きくしてこう締めくくられた。
「よって、王国は、ミラノール・フォン・ヴァイスハイトを英雄ではなく、稀代の詐欺師であると公表させていただく!!彼女の行為は、我が国のみならず、世界の学術界に対する重大な背信である!」
国内の報道機関は、王宮からの圧力もあり、一斉にこの「物語」を書き立てた。『王国真実報』は「二度目の窃盗!逃亡天才学者の化けの皮が遂にはがれる」との見出しを掲げ、『ナロコサーズ・ガーディアン』はセリーヌの「被害者」としてのインタビューを大きく扱った。
すでに「王太子の婚約者セリーヌ様の研究を盗んだ罪で追放された」という嘘を信じ込まされていた国民の多くは、新たな「事実」を容易に受け入れた。街角では、ミラノールを「国恥」「大罪人」としてこき下ろし、セリーヌの「天才」と「忍耐」を讃える詩まで作られる始末だった。
この様をみたルドヴィックは、上機嫌になって笑う。
「はっはっは!!ミラノールはこれでおしまいだな」
「えぇ、これでおしまいですね」
セリーヌもルドヴィックの隣でクスクスと笑う。全ては計画通りっと言わんばかりの表情で笑う。
それから数日が経過し、事態はルドヴィックの予想とは全く違う方向へと動きだしていた。
実はこの辺り、後々の伏線だったりする?




