3.オペレーション・イラディケイト・ザ・ディズィーズ
Operation Eradicate the disease
直訳すると『その病気を根絶するための作戦』です
当初はパンデミックとかバイオハザードを主軸にしようとしたけど、しっくりくるものがなかったので没ったのは余談だったりするw
ミラノールが研究所に来て約十ヶ月が過ぎた後、大陸各地で奇怪な熱病の報告が相次いだ。症状は瘴気病と似て非なるものであり、重度感染者の致死率が⑨割にも達する程の危険性を持っていた。
最初は辺境の村々での散発的な発生だったが、瞬く間に広がり始めた事から感染力も強い事が予測された。
「これは……瘴気病の変異型?でも……なにかが違う?」
ミラノールは、緊急搬送された患者から採取したサンプルを顕微鏡で覗きながら唸った。画面に映る病原体は、確かに瘴気病のものに似ているが、細胞膜の構造が微妙に異なっている。何かが違うのはわかっても具体的に説明できない。ただ、なんとなくとしかわからない違和感だった。長年瘴気病を見てきた研究者としての直感が、警鐘を鳴らしている。
「有効な手立てはない。私が……私がなんとかしなければ」
そんなミラノールに、アーロンが静かに告げた。
「焦るな。落ち着け。我々のやるべきことは焦ることではない。父が各国の保健機関から情報を集めている。詳しい検証や対策は、情報が集まってから行おう」
「で、でも、これがパンデミックに発展すれば、数百万人が危険に晒されます。急がなければ」
ミラノールの声には焦りが滲んでいた。彼女の目には、瘴気病に苦しむ人々の顔が浮かぶ。一刻も早く治療薬を生成させなければ……そんなミラノールの焦りを見抜いたかのように、再度告げた。
「当然、急ぐ必要はある。だが、一人で全て抱え込む必要はない……俺たちはチームだ。そして、他のチームと協力してはならない決まりもない。ここの所属者は国籍も身分もない。あるのは『知りたい』と『救いたい』という想いだけだ。だからこそ、一致団結して協力できる……この危機、皆の力を結集させて乗り切るぞ!!」
アーロンの普段見せない熱い言葉は、ミラノールだけでなく、周りに集まり始めていた研究者全員の心に響いたようだ。彼らは互いに目を見交わし、うなずきあう。
一週間後、所長のクロード博士は研究者だけでなく下働きや出入りの業者も含めた緊急会議を召集した。広い講堂には150人近い関係者が詰めかけ、ざわめきが渦巻いていた。
「諸君、我々に与えられた時間は少ない。だから簡潔に済まそう。この疫病を『影熱病』と仮称し、直ちに『影熱病』に関する研究と特効薬を開発するチームを編成する。そのチームリーダーはミラノール、補佐をアーロンとする。異論はないな」
「「「ありません!!」」」
研究者たちの声が講堂を揺らした。ここでは、功績や権力や年功序列など一切関係ない。ミラノールが研究所内で一番瘴気病に詳しい専門家であるという純粋な合理性から、リーダーの任命は満場一致で可決となった。
リーダーとなったミラノールとその補佐であるアーロンは、早速特効薬の開発に取り掛かった。
免疫学の権威が集まったチームは病原体の抗原性を解析し、薬理学の専門チームは既存薬剤の効果をスクリーニングし、縁の下の力となる臨床データのチームは患者の経過をリアルタイムで収集。その他のチームもサンプル分析から治療法の模索まで、ミラノールをサポートする。
普段は何かと衝突しがちな研究者達が一つの目標に向かって邁進する、まさに研究所が一丸となった総力戦であった。
ミラノールはわずかな仮眠だけでほぼ毎日、他チームが収拾してくれたデータの海に潜り続けた。アーロンは他チームとの連絡を密に続け、必要な資料や物資を整えさせ、議論が煮詰まった時には冷静な問いを投げかけた。
それでも突破口が見つからない日々が続き、研究所内では焦燥感が集ってゆく。ミラノールはヒントを求めて各所から集められた瘴気病に関する理論やレポートを調べる事とした。雑多に集められた紙束の中で、ある理論に紛れ込んでいたメモ書きのような資料が目に入った。
傍からみたら、実現には程遠い理想論。この理論を書いた人物も物は試し的な感覚で検証したものの、実用化が現実的ではないっと結論付けて途中で放棄したようだが……ミラノールはその途中放棄された理論を引き継ぐ形で検証した。
―—そして、2時間後
バーン!!
「アーロン、これだわ!!」
夜明け前にも関わらず、ミラノールはアーロンの個室のドアをノックもせずに中へ入った。21歳という結婚前の年頃な淑女が20半ばの独身男性の寝床に突撃なんて、常軌を逸した行為だ。だが、アーロンはおかしいとは微塵も感じる事なく、眼をこすりながらベッドから起き上がり、ミラノールの興奮気味な言葉に耳を傾けた。
「瘴気病の病原体は特定の酵素で宿主細胞の膜を破壊します。でもこの変異型である影熱病は、逆に酵素を阻害する物質を分泌してるのです。だから従来の治療法が効かない。でも、この阻害物質を中和できる化合物を先に投与し、それから……!」
「よし、すぐに確認する!」
アーロンは即座に寝床から出て、白衣を羽織り、研究室へ向かった。二人は眠気など吹き飛ぶ勢いでデータを確認し、過去の実験記録を漁り……アーロンは目を見開いた。
「そうか!病原体の死滅には二段階のアプローチが必要だったのか。まず阻害物質を中和し、それから病原体自体を攻撃する。……突破口がみえた!!」
彼は研究室のインターホンを押し、全館放送をかけた。
「皆、『影熱病』に関する突破口をみつけた!!後は、ひたすら最適化を目指すデータ採取だけの段階となった!全員総がかりでの検証と臨床実験を行う!!再度、皆に協力を要請する!!」
その放送を合図に、研究所を筆頭とした各関係者は完全に目を覚ました。電気が次々と点り、足音が廊下に響き、眠そうな顔をした研究者たちが白衣を着ながら研究室に集まってきた。誰も不平を言わない。目に宿るのは決意だった。
―——
それから二週間、研究所は不眠の連続だった。メモ書き資料にあった二段階アプローチの理論を元に、各チームがそれぞれの専門性を活かして検証実験を重ねた。生化学チームは阻害物質の中和剤の候補を絞り込み、微生物チームは病原体自体に対する最も有効な攻撃法を模索し、合成化学チームは両者を併用可能な製剤の設計に取り組んだ。
得たデータは全てミラノールのもとに収束され、彼女はそれらを統合し、調整し、時には自ら実験台に立って確認した。アーロンは彼女の傍らにいて、彼女をサポートしつつもミラノールの成果を各チームへとフィードバックさせた。
こうして出来上がった七個目の試作品による臨床試験で、ついに望み通りの効果が得られた。培養器の中で、影熱病の病原体が中和剤によって無力化され、続いて投与された抗病原体剤によって完全に死滅したのだ。
「完成だ!」
培養器を覗き込んでいたアーロンが、研究所に響くような声で叫んだ。その声は、疲労でかすれていたが、喜びに震えていた。
「中和剤と抗病原体剤の併用で、試験管内で完全な不活化に成功した!」
ミラノールは涙を抑えきれなかった。彼女の長年の研究と、研究者全員が彼女の理論を疑う事なく、ひたすらに続けてくれた地味なデータ収集や最適化への模索が、こうして現実の命を救うという結果を生んでくれたのだ。彼女は資料から目を離し、周りに集まる研究者たちの顔を見渡した。みんな、くすんだ白衣とクマの目に、満面の笑みを浮かべていた。
研究者たちの間でも、ようやく成果が出た事に沸き立つ歓声が上がり始めた。握手を交わす者、肩を抱き合う者、中には嬉しさのあまり書類を空中に放り投げる者までいた。
それを、アーロンが一喝した。
「喜ぶのはまだ早い!!」
彼の声は鋭く、浮かれていた空気を切り裂いた。
「次は特効薬の量産化に向けての精製法を確立させる!!特効薬が完成しても、安定した供給ができなければ救える命も限られる!!製造プロセスの確立、コストの見直し、各国への発表、流通経路の確認──まだまだやるべき事は山積みに残っている!!一人でも多くの者を救うため、すぐに動くぞ!!」
一瞬の静寂の後、
「おー!!」
研究者たちの声が再び上がった。疲労でふらつく者もいたが、目には新たな決意が灯っていた。アーロンの激により、研究所は緩んでいた空気を再度引き締めた。
ミラノールはアーロンを見つめ、そっと頷いた。彼は父親であるクロード所長とは違う方法で、この混沌とした知識の肥溜めを一つにまとめあげたのだ。普段は不愛想で実直な研究馬鹿だが、いざという時には誰よりも熱く語り、遠くの未来を見据えている。それは、近い将来に父の跡を継ぐであろう研究所のトップに相応しい姿であった。
ミラノールは気を引き締め直し、皆に向けて語り掛けた。
「次のフェーズへ移行しましょう。アーロン、貴方は初期供給分の特効薬の精製の統括を行ってください。また、初期分をどれだけ精製するかの見極めもできますか?」
「もちろんだ。そこは各国の被害状況をみて、算出させる」
「ではそれでお願いします。私は特効薬の製造プロセスを確立させるのと並行してコストの削減や簡略化の可能性を探ります。なお、削減と簡略化は期限を三日と定めますので、そのつもりで各自動いてください」
ミラノールから次に動くべき指針を聞くと同時に、各々のやるべき事に向けて動き始める研究者達。
外はまだ暗かったが、研究所の明かりは、やがて来る夜明けを待たずに煌々と輝いていた。ここには、国境も肩書もない。ただ、知を求め、命を救わんとする者たちの熱意だけがあった。
この回、AIさんに任せると専門用語をずらずらと並べる長文ばっかり作ってきたのだけど……何か理由でもあったのだろうか?_(:3 」∠)_イウマデモナク、ソレラノタイハンハケズッタ




