おまけ2.元公爵令嬢セリーヌのその後 SIDE:セリーヌ改めリージュ
当初はAIさんと共にざまぁ対象としてたけど、路線変更させたので救済処置取る事としましたw
「……生きてる?」
「はい、リージュ様」
隣にいたメイドから私が公爵令嬢という身分を隠す際によく使われる偽名で呼ばれ、私は混乱した。だが、メイドから……エレナと名乗った、あの時牢を訪れた影の女性が経緯を説明してくれた。
父の命令で、毒杯の中身を眠り薬とすり替えていたのだという事。
私の裏の活動を知る者たちが私の助命に動いてくれた事。
そして、私は「リージュ」という新たな名前と平民の戸籍が与えられたという事だった。
「本当にお父様は甘いわね。甘すぎて反吐が出るけど……」
「まさか、改めて死を望むなんて言いませんよね?」
エレナからにっこりと念を押された事もあって、私の逃げ道は完全に塞がれたのであった。
―——
セリーヌではなくリージュとなって一ヵ月が過ぎた私は現在、三ヶ国同盟医療研究所の検問をかねる街の宿屋で朝の身支度を整えていた。
公爵令嬢の私が一人で身支度なんて無理っと思われそうだが、留学先の帝都学園での寮生活では一人での身支度も授業カリキュラムの一つとされていた。
「最初は無駄ではっと思っていたけど、人生何が役立つかわからないものよね」
私は鏡に映る自分に向かって小さく呟いた。鏡の中の女性は、かつての華やかなドレスや薄汚れた囚人服ではなく、質素だが清潔な日常着を身にまとっている。髪も身バレ防止と手入れの手間を省くために短く切り、化粧も一般の平民子女が行う程度に抑えた。セリーヌ・リヒテンの面影はまだ残っているが、張り詰めた空気がなくなった事でどこか柔らかくなったような気がする。
そう思っていると、不意にドアをノックする音が響いた。
「リージュ様、そろそろお時間です」
扉から現れたのはエレナだった。
彼女はあの後、影をやめて私の侍女兼護衛として共にする道を選んだそうだ。
リヒテン公爵家こそなくなっても、宰相として尽力していた父の今までの功績もあって使用人達の多くは良い条件の就職先を斡旋してくれた。なのに、彼女はあえて平民となった私に仕えるというのだ。将来を蹴ったも同然ではあっても、エレナは私同様に決意が固かったというか……
「決意の固さはお互い様でしょう」っと言われたら、黙るしかなかった。
「さぁ行きましょう。リージュ様の聡明さなら三ヶ国同盟医療研究所の研究者になれるはずですから」
「いや、それはないでしょう。だって、私はミラノールみたいに天才ではないのよ」
「いえいえ、リージュ様も十分天才ですよ。なにせあらゆる学問を高レベルで修めているのですから、専門性では適わずとも総合力では間違いなく世界最高峰。それに……いえ、この先は私が言う必要ないですよね」
なんだか含みのある言い方だったが、その理由はすぐにわかった。
―——
研究所の一室に案内された私は面接官となるミラノールと会うなり手をがしっと掴まれてこう言われたのだ。
「貴女がリージュさんね!ありがとう!!貴女のおかげで『影熱病』の特効薬が作れたのよ!!」
「えっ?えっ?えっ?」
その後も興奮気味に語るミラノールに戸惑う私。それを見かねたのか、隣に居た所長の息子でミラノールの夫であるアーロンが妻を宥めながら、ある研究資料を差し出してきた。
それは去年、ミラノールを追放した際に奪った研究資料をみて、ふと思い立った理論を実践できないかっと試したメモ書きだった。
試した結果、その理論は専門知識の有無というより、果てしなく緻密で面倒な検証が必要で実用性皆無と判断して破棄したものだった。
“そうよね。ミラノールのような天才が私のような凡人が気付くようなもの、気付いて当然よね。そして、理想と現実がかけ離れ過ぎてるから除外したっと”
当時の私はそう思っていたけど……
要約すると、そのメモ書き資料がどういう経緯を辿ったのか不明ながらも、めぐりめぐってミラノールに手に渡り、それが行き詰まっていた『影熱病』の特効薬開発の突破口になったそうだ。
ミラノール達もパンデミックが一段落が付いた頃合いを見計らって、このメモ書き理論を書いた『リージュ』という者を探したが、該当者が居ないため半ばあきらめてた所に匿名で情報提供があったらしい。
その情報提供者の正体は筆記鑑定の権威であるガストン検視だった事を後から知った。
彼は私のメモ書き理論と私が元王太子というか馬鹿王太子を炊きつけた事で作ったでっち上げ研究ノートの両方を筆記鑑定しており、双方の類似性から『リージュ』と『セリーヌ・リヒテン』が同一人物である可能性に気付いたのだ。
だが、彼はその事実をすぐに公表しなかった。セリーヌはナコロサーズ王国だと無名でも、留学先であるレナリア帝国では優秀で聡明だったという情報を得ており、メモ書き理論はその聡明さを証明する結果でもあったのだ。だからこそ、彼は私の王国での稚拙な行動に疑問に抱いてさらなる情報を集め、私の最終目標にまで行きついたそうだ。
つまり、彼も私の助命に尽力した一人というか、三ヶ国同盟医療研究所に推薦したもっともたる原因なのだろう。
そんな私の正体を知るのは研究所でもごく一部のみ。
ミラノールやアーロンのような研究者達には全く知らされてないらしく、私も真実を知らない方が余計な騒動に巻き込まれないからっとあえて正体を明かさなかった。
「でも……ナコロサーズ王国の王宮で何度も顔を合わせてる私の顔を覚えてないって、あの子はセリーヌに最初から興味なかったって事なのね」
いくら髪型や化粧を変えたといっても、全く気付きもしない事に少々プライドを傷つけられはした。だが、留学先で出会った天才たちは、人の顔と名前を覚えるのが苦手な者が多かった。彼ら彼女らの頭脳は、常に複雑な数式や理論で満たされており、些細な社交情報のための容量は残っていないのだろう。
ならミラノールも、同じような欠点を持っているに違いない。そう自分に言い聞かせ、気にしないようにした。
こうして、私は研究所の一員として採用された。
肩書は「研究補佐員兼総合相談役」。仕事内容は、文字通り細々とした雑務から、様々な研究プロジェクトへの助言まで多岐にわたった。
この研究員達は医療知識の権威であり最高峰の専門知識を有する天才ばかり。だが、その高すぎる専門性と天才肌が仇となってるのか、視野が若干狭くなりがちだそうだ。
だからこそ、専門性こそ劣っていても様々な学問を高水準で修めてる私の幅広い知識と、それに裏付けされた多角的な意見は非常に重宝するらしい。
おまけに、私には行き詰まっていた『影熱病』の特効薬の開発に決定打となる一石を投じた実績がある。
「リージュさん、この統計解析の方法について意見を聞かせてくれませんか?」
「この実験デザイン、倫理的な観点から問題がないか確認していただけますか?」
「外国文献の翻訳と解釈について、助言を……」
こんな具合に、もうあちらこちらから引っ張りだこにされる毎日だ。
「本当、人生は何が役立つかわからないものね」
私はそう愚痴りながら、私の助手兼研究所の清掃員となったエレナに朝の挨拶を交わしながら今日も研究所の各所で行われているいつも通りの混沌とした議論の一つに混ざり込むのだった。
AIさんはその後、教育プログラムの主任に抜粋される話を書いてたけど……
そんなのは読者が望んでなさそうと思って、バッサリ切ったのは余談であるw




