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8)お兄様

(武術は、御霊府君に憑依された時に体で学んだし、護身術も頭に叩き込んでいる。落ち着いて……落ち着いて相手を見て……!)


 呼吸を整えながら、向かってくる相手の腕を逆に掴んで引き倒した。


「ぎゃあ!」


 相手の力を利用して地面に捻じ伏せた。

 思った以上に技が綺麗に決まり、私自身が驚いてしまう。

 そして対人戦闘で殺さず、大きな負傷もさせずに制圧できた事に少しだけ自信がついた。


(力では女性は殿方に敵わないと聞いていたけれど、工夫すれば……勝てる……!)


 ほんの僅かな自信を得た私だった。

 けれど、それは相手が慢心していたからで、私の護身術を見た残りの少年らは身構え始めた。


「こ、こいつ!」

「やりやがるぞ!」

「おい! 囲め! 一斉に飛びかかれ!」


 今度は四方から少年達が襲い掛かってきたのだ。


(こ、こういう場合は……!)


 教えを思い出そうとしている私の脳内に御霊府君の声が響いた。


『灯子! 集団戦はまだ灯子には早い! 儂と替われ!』


 私が返答する前に御霊府君に体を強制的に奪われた。


 その後は、見るも無残な光景が広がってゆく。


 御霊府君が笑いながら鞘つきの日月剣を鈍器代わりにして全員を殴打する。さらに眷属の式神を飛ばして噛みつかせ、回し蹴りや肘打ちに関節技まで繰り出して、一方的に嬲り抜いた。

 少年達は御霊府君が振りかぶった得物の一撃でゴムマリのように転がされた。


「な、なんだこのチビ! すげぇ強え……」


 悲鳴が飛び交う中、御霊府君は倒れた少年達を踏みつけた。

 返り血に染まった鞘を肩にかけ、上機嫌な様子で笑う。


『陰陽師見習いと言うから、どの程度のものかと思えば、赤子の手を捻るより容易いではないか。あまりにも歯ごたえが無うて欠伸がでよるわ』


 御霊府君は逃げ出した生徒を見送ると、あっさりと言った。


『儂の出番は終わったようじゃな。後の事は任せる』

「ええ⁉」


 暴れるだけ暴れた御霊府君は体から出て、言った。


『はよう寮に行くぞ。同級どもを全て斃し、最後に立っていた者が陰陽頭になれるのじゃろう?』


 陰陽學寮はそういう場ではない。


 御霊府君は鬼壱さんを助けたい意思など微塵も無かったらしい。

 御霊府君の誤解は後で解くこととして、私はとりあえず鬼壱さんに手を差し伸べた。


「怖い想いをさせて申し訳ない。怪我は大丈夫かい?」


 怖いどころの話ではない思いだったけれど、私は出来る限り人畜無害な振る舞いを心がけて話しかけた。


「……ど、どうして、君はぼくを助けてくれるの? 朝の鬼の時だって……」

「これから共に過ごす大切な相手を守るのに、理由がいるのかい?」

「えっ……?」


 鬼壱さんが固まった。


 不思議に思っていると、鬼壱さん唐突に私の手がぎゅっと握り締められる。

 見下ろした鬼壱さんは、乙女のように潤んだ瞳で此方を見つめていた。



「あ、あのっ! お兄様って呼んでもいいでしょうか?」



 ◆◆◆


「……それはどういう状況だ」


 道蓮様が寮の受付で私を見るなり、嫌そうに片目を細めてきた。

 私の傍らには陶酔した眼差しの鬼壱さんが居る。片時も離れないような勢いで、べったりとくっついていた。

 道蓮様の問いかけに私も説明が出来なくて首を振る。


「僕にも何が何だか……」


 鬼壱さんは先程の騒動でできた私の制服のほつれを直そうとしたり、髪が乱れているのを見て琥珀の櫛を差し出したりする。

 それから、鬼壱さんは道蓮様に熱弁し始めた。


「キミは知らないだろうけど、お兄様は凄いんだよ!」

「……お兄様……?」


 道蓮様が更に嫌そうな顔で問い返すと、鬼壱さんは頷く。


「そう! 怖い集団にも凛々しく立ち向かってくれて、倒れたぼくに優雅な笑みで手を差し伸べてくれて……凄く格好良かった……」

 どれも人として普通の事なのに。


「……気色悪い」

 まるで命を救われたかのように心酔する鬼壱さんに、道蓮様が軽蔑の表情と共に言い放つ。

 しかし鬼壱さんは、先ほどまでの気弱な姿が嘘のように、平然と言い返した。


「道蓮君って、可哀想。お兄様の凄さがわからないんだ」

「……」


 私だけでなく、道蓮様もその変貌ぶりに面を食らったらしい。

 微妙な空気を遮るように、マキリさんの声が響いた。


「あれ? 誰もいねーぞ? 部屋割りってのはどうすんだ?」


 誰かいないかと、受付に入ろうとするマキリさんを慌てて引き止める。

 そうしているうちに、寮の奥へ続く廊下から、白衣を身に着けた女性が颯爽と歩いてきた。


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