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7)嘲笑

 どうやら彼等は官位を授けられた陰陽師一族の御子息達らしい。


 そして、出自不明の私に良い印象を抱いていないのは、彼らの目つきからすぐにわかった。

 鬼壱さんは怯えて私の背後に隠れた。

 寮に入るには、彼らの横を通るしかない。

 近づくと、ひそひそと声が聞こえてきた。


「陰陽師は元来、血統が重要だというのに……」

「まさか同じ学び舎に雑種の庶民が配属されるとはな」

「知性も品性も無い庶民に陰陽師の職が務まるわけがない」


 私は一応、とある筋からの推薦だけれど、事情があって表向きは一般人ということになっている。


(陰陽師は血統が重視されがちだ。だから、この反応も無理はない……)


 無益な争いを起こして目立つのは、もう避けた方がいいと思っていた。


 すると、後ろで物音がした。


 振り返ると、鬼壱さんが派手に転んでいた。


「だ、大丈夫? 鬼壱君!」


 呼びかけると、鬼壱さんは目尻に涙を滲ませたまま、無理に笑顔を作って答えた。


「だ、大丈夫……ぼくは、大丈夫だから……、キミは早く、寮に……」


 起き上がれずにいる彼。鬼壱さんのすぐ横にいる生徒達が、ニヤニヤ笑っているのが見えた。

 どうやら足をかけられたらしい。

 生徒たちはそのまま、地面に横たわる鬼壱さんを嘲笑うと、彼の長い髪を掴んで持ち上げた。


「鬼壱、お前、無能の癖にデキる兄貴の代わりに陰陽師になれって言われたんだって? そんなの無理に決まってんだろ!」

「お前みたいな女顔の弱虫が陰陽師になれるわけねぇし、天狗寺家の家柄を利用して裏口入学されるとさぁ、俺らの品格まで下がって見えるだろ!」

「田舎臭ぇ庶民に入学されるのもムカつくけど、家柄しか取り柄がねぇ奴がのさばってんのも気に入らねぇ!」

「ヲ組とか、もう終わってるだろ。それにしがみつく理由ある? 辞めろよ、辞めちまえよな!」


 鬼壱さんは彼等と面識があるらしい。


 ひたすら耐える鬼壱さんの姿に、御霊府君の気配が鋭くなったのが伝わってくる。

 それは私もだ。


 鬼壱さんは周囲を巻き込まないように、じっと耐えているの。


 そんな彼を当然のように踏みにじって笑っている彼らが、どうしても許せなかった。


「前から思ってたけど、こいつ女顔だし、マジで男か? 本当は女なんじゃね?」


 誰かの言葉をきっかけに、周囲に下卑た笑いが広がり出す。

 鬼壱さんは確かに中性的な顔立ちだけど、背は道蓮様よりも高いし、骨格だってどう見ても男性だ。

 だから、ただ単に鬼壱さんを馬鹿にするための発言なのだろう。


「そうだそうだ! 全裸になって証明してみろよ!」

「そもそも雑魚にその制服は分不相応なんだよ! お前みたいなのが俺らと同じ制服着てるとか、不愉快なんだわ!」

「ほら、さっさと脱げよ!」


 鬼壱さんは大勢に押さえつけられる。


「や、止めて! 止めてよ! ぼくは男だよ!」


 嫌がる鬼壱さんをなおも嬲る集団に、私はついに耐えきれなくなった。

 背負っていたマキリさんを片隅に横たえ、彼等に声を上げる。


「やめなよ! そんな恥ずかしい事は!」


 抑えきれずに出た声に、集団の視線が一斉に私に向けられる。

 自分たちより弱いと見下した相手には、どれだけ侮辱しても反撃されない――そう信じて疑っていないのだろう。

 彼らは嘲るように問い返してくる


「は? 今、何つったんだよチビ!」

「お前もドベのヲ組だろうが?」

「最下位組の上に、一般人の雑魚のくせに、俺らに命令とか……恥ずかしくねぇの?」

「……価値観は人それぞれだと思うけど、その思想を振りかざして、他人を傷つけるのは間違っているよ。それって、最下位の僕より学園の名に泥を塗る行為だと思う。それに陰陽師として誇りを持ち、家名を守るに相応しい品性を学ぶことも、この学校での大切な役目なんじゃないのかな」


 無体を止めてもらおうと真剣に伝えたつもりだった。


「てめぇ! ドベの庶民の癖に俺らに偉そうに説教してんじゃねぇぞ!」

「何様のつもりだ! テメェも脱がすぞ!」


 怒り狂う集団に対して、御霊府君が鼻で嗤う。


『フッ! 流石は儂の灯子じゃ! 的確に下郎どもをブチキレさせおったわ! よし! 処すぞ灯子! こやつらに、この世の地獄を見せてやるしかあるまいて!』


 御霊府君が拳を握りしめて熱心に励ます中、嘲りながら寄ってくる彼等が私の肩を掴もうとした。


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