6)王子様
「あ、あの、道蓮さん、何か?」
「……別に」
道蓮様は視線を落とすと、感情がわからない声でつぶやいた。
(しかし、班分けがこの面々で確定してしまうなんて……)
幸いな事に道蓮様に正体は気づかれていない。
けど、入学時の組分けは、基本的に代わる事は無いらしい。
しかも、一人が崩れると全体の成績が下がってしまうという特殊な方式だった。
(仲間内で相性が悪ければ一人が優れていても結果に繫がらないと……)
他の卓の生徒は会話が盛んに見える。
しかし、この卓ではマキリさんは自由奔放に食事に夢中。
鬼壱さんはお粥が美味しいと嬉しそう。でも私以外と会話する気はなさそうだ。
道蓮様に至っては、誰とも関わる気が無いようで『話しかけるな』という無言の圧さえ感じられた。
(この班で共闘……。私は、ちゃんと立ち回れるだろうか……)
もともと山奥の家で家族や道蓮様としか密な交流をした事が無い引きこもりの身には、どうやって初対面の方と打ち解けて仲良くなるのか、手順がわからない。
そう思っている私に、府君が満足げな声音で告げる。
『ふむ! この、まかろにぐらたんなるもの、やたら熱いが、真に美味じゃな! 七百年前は、こんなハイカラなものは無かったからのう!』
なんだか喉を美味しいものが通り抜けるなぁと思っていたら、私が考え事をしている間に、もう食べられていたのですね……。
嬉しそうに頬張る御霊府君に、マキリさんが興味を示したらしい。
「そんなにウメーのか! よし! マキリにもくれ!」
『やらぬ! うぬは儂の魚を喰ったではないか!』
「あれはウマかった! それはそれとして、くれ!」
マキリさんが素早く手を伸ばすのを御霊府君が、手刀で打ち落とす。
まるで猫同士が食べ物を奪い合っているような光景の中、道蓮様が食事を終え、静かに立ち上がった。
お盆を持って歩きだす道蓮様に、マキリさんが声をかける。
「どーれん! 相変わらず食うの早ぇーな! ゆっくり食わねーと体に悪いって、とーちゃんが言ってたぞ!」
「……食事など、敵を殺す為に必要な栄養さえ摂れれば何を食っても同じだ。それに、貴様らと馴れ合っている暇などない」
そう言い放つと、道蓮様は靴を鳴らして立ち去る。
結局、食事を終えても、班の空気は好転しなかった。
◆◆◆
食事を終えた私達は、教官の指示通り、学生寮へと向かっていた。
食堂と寮を繋ぐ渡り廊下を鬼壱さんと並んで歩く。
ちなみにマキリさんは私の背で、グーグー寝ていた。
マキリさんは食事が終わった途端に爆睡してしまい、呼びかけても揺すっても起きなくなってしまったのだ。仕方なく背負うしかなかったのだけど……。
「あ、あの、おんぶさせてごめん」
鬼壱さんが申し訳なさそうに告げた。
小柄なのに、筋肉のせいか意外と重いマキリさん。そんなマキリさんを鬼壱さんが抱えようとして、危うく転びかけて今に至る。
私より体力が無い男性が存在した事に少し驚いたが、彼を安心させるように笑い返す。
「気にしないでよ。誰にだって向き不向きはあるんだ。そうやって気遣ってくれるだけで嬉しいし、僕の不得意なものが出た時は君の力を貸してほしいな」
そう慰めると、鬼壱さんは大きく頷いた。
「う、うん! ぼくに出来る事があるなら頑張るよ! って言っても、ぼく、出来る事の方が少ないけど……でも、頑張る!」
そして嬉しそうに続けた。
「……ぼく、助けてもらえたのも、体を気遣ってもらえたのも、初めてだったから……。凄く、嬉しかったんだ……」
彼がどういう環境で育ってきたのかは知らないけど、天狗寺といえば陰陽師の界隈でも歴史ある一族と聞いたことがある。
(確か、将来有望だったご長男が狂死されたとか……?)
そんな噂を思い出していると、鬼壱さんがポツリと呟いた。
「……だから、君が、まるで御伽噺に出てくる王子様みたいで……、凄くカッコ良く見えて……」
「王子様?」
その言葉につい彼を見上げる。
しかし鬼壱さんは口を押さえて青ざめた。
「あ、ご、ごめん!」
「いや……」
「違うんだ、その、本当に君のこと、格好良く見えて……って、こ、こんなこと、男同士で言ってたら気持ち悪いよね! 普通、こういう事、言わないよね! ごめん! ぼ、ぼく、いつもこうで……。一言多いって、父様や兄様にも言われてて……」
鬼壱さんは焦っていたけれど……。
(う、嬉しい! 王子様……! 男性から見て王子様と思われるくらいならば、私の男装がバレる可能性は低いのでは……!)
しかし、そこで御霊府君が宙に浮きながら口を挟んでくる。
『灯子よ、普通のおのこは、同性にそのように言われたら気色悪がって殴るものじゃ』
殴れ! と拳を素振りしてくる御霊府君。
そんな彼をなだめていると、食堂と寮を繋ぐ廊下で、生徒がたむろしているのが目にはいった。




