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24)犯人

 ◆◆◆


 その後、私は道蓮様と共に、皇都にある彼の御屋敷に来ていた。

 あれから道蓮様は私に「共に来て欲しい」と頼み、自宅へ招いてくださったのだ。


 白い門をくぐると、柔らかな芝生が広がり、大きな楠木が枝葉を広げて涼し気な木陰を作っていた。

 その近くには澄んだ水を湛えた美しい池があり、池の傍の縁側から見える障子には、蝶の柄が描かれている。


 隣を歩く道蓮様を見上げる。

 私の視線に気づいた彼は、どこか照れたように目を伏せた。


「俺の家とは思えないだろう? 灯子と結婚した時、彼女が心地よく暮らせるようにと思ってな」


 木に触れながら、道蓮様は木漏れ日を浴びて愛し気に目を細める。

 道蓮様に、再会した時のような闇はもう感じなかった。


「若様! お帰りになられたのですか!」


 顔を上げると、表玄関から爺やさんが勢いよく飛び出してきたところだった。

 私は彼と面識があるので、慌てて学帽を目深にかぶりなおし、道蓮様をそっと見守った。


「お待ち申し上げておりました……! ささ、若様、屋敷内へ」


 促す爺やさんに、道蓮様が、冷たい声で問いかけた。



「爺――どうして俺と灯子の手紙を取りつがなかった?」



 爺やさんが背を向けたまま動きを止める。


 けれど道蓮様は構わずに続けた。


「将雪に調べてもらった。俺の灯子への手紙も、灯子からの手紙も――すべてお前が止めていたと分かった。それだけじゃない。お前は土御門の本家が壊滅した事も俺に知らせなかった」

「それは、以前ご説明したとおり、灯子様の死に若様が動揺なさって、任務やお身体に支障があってはいけないと……」


 道蓮様は、聞き入れる気などないと言わんばかりに声を張り上げた。


「ふざけるな! 言い訳はもういい!」

「――……」


 しばらくは無言だった爺やさんが、ぼそりと呟いた。


「……尊き蘆屋の血統が、薄汚い土御門の売女一匹相手に……真、嘆かわしい……」

「何だと?」


 道蓮様が問い返すと、爺やさんが口角を歪める。

 目を見開いたその異様な表情に、私は思わず声を上げかけた。

 そして次の瞬間、彼は狂ったように笑いだした。


「あれほど爺は申し上げましたのに! 土御門は陰湿で卑怯で、おぞましい一族だと!それなのに道蓮様はあやつらにほだされ、あまつさえ汚らしい家の売女なんぞを妻に迎えると。そんな世迷言を!」

「貴様……」


 道蓮様が天誅殺を抜き放ち、漆黒の切っ先を向けた。

 しかし老人は怯むどころか、なおも土御門と私を罵り続けた。


「嘆かわしい! なんと嘆かわしい! せっかく皇都まで引き離したというのに、しつこく手紙を送ってくる諦めの悪いドブネズミ! だというのに若様は甲斐甲斐しくお相手をされ続けて、爺は悲しゅうございました!」


 道蓮様は怒りで声も出ないのか、全身をぶるぶると震わせた。

 それから、殺意に満ちた声で呟いた。


「もういい」


 身構える道蓮様に、老人は甲高い笑い声を上げながら庭の奥へ駆け出した。


「蘆屋と土御門に和睦などあるはずがない! 故に爺が土御門の鬼の封印を解き、害虫どもを駆除して差し上げたのですよ! 女も子供も、当主すらも、残らず鬼の腹の中に! 我らの血で築いた屋敷を、あの外道の末裔どもの血で染め直してやった!」


 道蓮様の背を見つめたまま、私は老人を凝視する。

 老人は庭の奥の薄暗い祠の前で立ち止まり、陽炎のように体を揺らしながら、ゆっくりと首を傾けた。


 その異様な動きに、道蓮様が低く問いかける。

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