表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/29

【番外編】灯子のお見合いにヤキモキする道蓮と御殿の日月剣

 その昔、俺も灯子もまだ幼かった頃、灯子にはお見合いが殺到していた。

 無理もない。

 名門の土御門の、しかも都に響き渡るほどの美少女らしい灯子だ。


 今の何の後ろ盾もない上に、盲人の俺など……と、いじいじしながら灯子のお見合いが終わるのを待っていた俺。

 もしも『素敵な殿方と出逢いました! さようなら道蓮様!』等と言われれば、腹を切って逝こうかとすら考えていた折、灯子が見合いを終えたらしく戻ってきた。(足音で灯子とわかる)


 俺は何事もなかったかのように茶を飲みながら、灯子に問いかけた。


「……見合いはどうだったんだ?」

「はい! 素敵でした!」

「ブッ!」


 思わず茶を噴いたが……! ついに来たか……来てしまったのか……この日が……!

 俺は流れ落ちそうになる涙を何とか隠し、灯子に話を続ける。


「そうか……。で、相手はどんな男だったんだ?」

「……えっ」

「えっ?」


 何だその反応はと思っていると、灯子が手をもじもじさせている音が聞こえてきた。

 これは『どう答えるべきか悩んでいる時』にやる、彼女の癖だ。

 そして彼女は答える。


「あの、その、障子の柄が蝶柄で素敵で……」

「あ、ああ。障子の柄……そうか……良かったな」


 お見合いで、障子の柄とか見るものなのかと思ったが、灯子は続ける。


「お茶請けの桜餅が美味しくて……」

「そ、そうかぁ……」

「どうぞ。道蓮様の分も頂いてきました」


 ぺと、と何か柔らかいものが手にのせられた。

 桜餅みたいだ。ありがとう、確かに美味いな!


 いやいやいや! そうでなく!


 どうやら灯子は障子の柄やら桜餅の美味さに気をとられて、相手の顔を薄ぼんやりとしか覚えていないらしい。しかも会話もほとんど記憶にないようだった。

 俺が見合い相手だったら泣いて帰りたくなるくらいに、惨たらしい。


 しかし灯子は気にしていないらしく、俺との会話に花を咲かせ始めた。

 まったく、色気より食い気なんだなと思いつつ、安心してしまう。


 ◆◆◆


 灯子のお見合いが終わってから、俺は土御門の敷地内を散歩していた。

 もう敷地の構図は把握しているので、杖さえあれば一人でも歩ける。


 そうしていると、御殿の方から聞き覚えのない声がしてきた。


「何だよあのメスガキ! この俺様が山奥まで見合いに来てやったっつうのに!」

「本当ですな若様! 天狗寺の長男にする態度ではありませんでしたわい!」


 灯子の今日の見合い相手だと察し、俺は咄嗟に繁みに姿を隠した。


 天狗寺といえば都でも名門と噂の家柄だ。家人も美形揃いらしい。

 家格は土御門の方が上とはいえ、灯子は、その長男相手に興味も関心も向けなかったのか……。


 しかし奴らは散々、灯子と土御門を貶めていた。


 看過できずに出て行こうとした時、何かが開く音がした。

 天狗寺の長男と、付き添いの爺が驚いている。


「御殿の扉が……開いた……?」

「此処には土御門の宝剣が封印されているはず……」


 その瞬間、絶叫が轟く。


「うっ……うわぁあああああああああ! 化物!」

「ひぃぃいいいいいいいいいいいいいいい!」


 俺には何も見えないので、声と足音で判断するしかない。

 二人が走り出す足音が聞こえた。


 何かが起こっているのに、何も見えない。

 そのもどかしさに堪らずにいる中、何かが笑う声が響く。

 そして、ぽつりと呟く声がした。


『愚かな』と。


 それから、天狗寺の長男と付き添いの男が老人のような姿で発見され、やがて狂死したと風の噂で聞いた。


 土御門の御殿には何かが『い』る。

 でも、灯子は御殿に通い、その『何か』と遊んでいるようだった。

 それは俺にも教えてくれなかった。



「秘密にしろと、言われましたので」



 一体、あの御殿には何が封印されているのだろうか……?

 それを俺は未だに知らない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ