【番外編】家庭科の授業
今日は家庭科実習だった。
お味噌汁と、おにぎりを作るらしい。
何故、陰陽師育成学校でそんな授業があるのだろうかと思っていると、御霊府君が宙に浮きながらブツブツ言っていた。
『木偶や鬼を滅するならともかく、味噌の汁なぞ作ってどうするのじゃブツブツ!』
皆には聞こえていないみたいだけど、私には延々と御霊府君がぐちぐち言っているのが聞こえる為、軽く拷問だった。
他の生徒も家庭科の授業は謎らしく、ひそひそと話し合っている。
それを教官が教鞭を手に語りだした。
「戦場に出れば携帯糧食がある。だが、それが尽きた時、自炊をせねばならんだろう。最悪、米と味噌さえあれば、どうとでもなる」
なるのだろうか……。
私がポケーッと聞いていると「安倍! まずお前からやってみろ!」と指名された。ふが!
まずは、お味噌汁に入れるネギから……と包丁を振りかざすと、ヲ組の皆に止められた。
「おい! 燈次郎! その包丁の持ち方は仇の襟首にトドメを刺す時の持ち方だ!」
「お兄様! ネギに何か恨みでもあるの!?」
「トージロ、ヤベー奴だな~」
空中では御霊府君がお腹を抱えて笑っているし、散々だった。
でもそれは道蓮様も同じだったらしく、強火で味噌を沸騰させようとして鬼壱さんに止められていた。
「道蓮君! それじゃあ、お味噌の風味が飛んじゃうよ!」
「強火でやれば弱火の倍で仕上がると思ったんだが……」
「脳筋の理論だよそれ!」
どうやらマトモなのは鬼壱さんだけだったらしい。
(マキリさんは味噌にネギをつけて齧っていた)
鬼壱さんは華麗な包丁さばきと火加減でお味噌汁やおにぎりをアッという間に作ってしまった。
お味噌汁の具は飾り切りされていたり、とにかくレベルが違う。
しかも、とびきり美味しい。
道蓮様は黙食していたけど、マキリさんはリスみたいに頬を膨らませて食べている。
教官や皆が呆れる中、ヲ組の私達は『鬼が攻めてきたら、鬼壱さんを守護ろう』と心に決める事で家庭科の授業をやり過ごそうとした。
しかし、世の中はそう甘くない。
一人の成績が班に影響する陰陽學寮で、鬼壱さんだけマトモでは意味がないと教官に叱られたのだ。
御霊府君は私の体を乗っ取っておにぎりを食べながら、またブツクサ言っている。
『チッ! あのナヨナヨ男が飯炊きすれば良いではないか! 儂の燈次郎がやるべきことは、儂と遊ぶことじゃ! そう約束しておるぞ!』
そんな約束はしてませんし、食べ過ぎです府君。
でも鬼壱さんは頬を染めながら、もじもじしている。
「お兄様がお望みなら、ぼく一生、お兄様のご飯作るよ」
それを見た道蓮様と御霊府君が同時に「『気色悪い』」と暴言を吐いた。
鬼壱さんが泣きだしたので止めてください!
とにかく、教官が根気よく諦めずにヲ組を鍛えてくれたお陰で、何とかご飯は作れるようになった。
それを見たトップクラスのイ組やロ組の生徒はプークスクスしていたけれど。
「ありえないよな~ドベすぎるだろ!」
「不器用にも程があるっつーの!」
「才能ねーんだよ! 辞めちまえよ!」
罵られたけど、仕方がない……。あまりにもヲ組は大半が不器用すぎてます……。
しかしそこで御霊府君が私に乗り移り、包丁を握りしめた。勿論、トドメを刺す方の持ち方で。
『儂の燈次郎を嗤うとは、良い度胸じゃ! うぬらナマス切りにされたいようじゃの!』
ひぃ! 襲いかかろうとする御霊府君の腕(包丁を持ってる方)を私は掴む。
しかし御霊府君は、よっぽど頭にきていたのか、包丁を手放そうとしない。
そこで教官が怒鳴った。
「ヲ組、居残り確定!」と……。
こうして私達は日暮れの校舎内で、黙々とネギを刻んだり、お味噌汁を作ったりするのだった……。




