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14)巾着の中身

 ◆◆◆


 数日が経ち、私も道蓮様と木刀で打ち合いの真似事くらいは出来るようになっていた。もっとも、道蓮様は相当に手加減している様子だけれど。


 今朝も道蓮様が振り下ろす木刀を同じ得物で防ぐ。

 距離を測って後退しても体勢が崩れなくなっている事に自身の成長を感じられて、嬉しかった。

 少し遠くの方でマキリさんが跳びはね、鬼壱さんが手を振って応援してくれている。


「トージロ! がんばれ~! 今日こそ、どーれんを倒すんだ」

「お兄様! 頑張って! でもケガしないように気をつけて~!」


(どちらか片方だけでも道蓮様を応援してあげて……)


 でもそれも、圧倒的に私が弱いからなのだろう。


(打ち込まれる一撃が重い! 実力が違い過ぎる!)


 木刀だけは離すまいと握りしめるが、限界が近い。

 ふらついた私は、ついに尻餅をついてしまった。

 それを見た道蓮様は動きを止めると、木刀を地面に刺して告げた。


「今日は此処までにしておく」

「はい! ありがとうございます!」


 気力を振り絞って立ち上がり、一礼する。道蓮様が目を細めて呟いた。


「まさか毎日、朝夕の鍛錬をねだられるようになるとはな」

「僕は陰陽頭になる為にここに来たんだ。自分の力を上げる為に、出来る事は何だってやりたい」

「……そうか」


 道蓮様は静かに言った。

 しかし、道蓮様の目元には隈が出来ており、顔色も優れない。寝不足のようだった。


「道蓮さん、睡眠不足なんじゃない? 大丈夫?」


 声をかけると、井戸で水浴びをしていた道蓮様が頷いた。


「……ああ。問題ない。それより、お前も水浴びするか」

「ぼっ! 僕は汗をかいてないからいいよ!」

「そうか?」

「僕、寒がり!」

「何で急にカタコトになってるんだ?」


 誤魔化しつつ、道蓮様の上着を準備しようと手に取った。

 すると、内ポケットから何かが落ちた。

 それを手に取って見てみる。


(巾着……?)


 細やかな刺繍が入った女性ものの巾着で、甘い花の香りがした。


(何だろう? これ……)


 中からはカサカサと乾いた音がする。


「触るな」


 手から巾着が乱暴に奪い取られる。

 出会ったばかりのころのような鋭い道蓮様の視線に、思わず身がすくんでしまう。


『何じゃ! せっかく拾ってやったというのに、その失礼な態度は!』

 御霊府君の言葉に、道蓮様は我にかえった様子で雰囲気をやわらげた。


「……中は見ていないだろうな」


 道蓮様は巾着の裏表を確かめると、安堵したように息を吐いた。

 よほど大切なものだったのだろう……。安易に触った私が悪いと思い、頭を下げた。


「申し訳ない。君の大切なものに勝手に触れてしまって……」

 道蓮様も私の言葉に冷静になったのか、首を振った。


「……いや、俺も言い過ぎた。気にするな」

 そうして道蓮様が制服を着用する間、私はずっと巾着に気をとられていた。


(あの巾着の中には何が入っていたのだろう……?)


 道蓮様の様子を疑問に思いつつ、急いで授業に向かう。


 校庭では一足先に場所を確保していたマキリさんと鬼壱さんが手を振ってくれた。


「おせーぞ! どーれん! トージロ!」

「そうだよ。ぼく、二人が来なかったらどうしようかと……」


 二人に対して道蓮様が「悪かったな」と簡素に告げる。

 それに対して鬼壱さんもにっこり笑って首を振った。


「いいんだ。ボクが好きでしてることだから」


 最初、何となく全てを拒絶しているような雰囲気だった道蓮様。

 けれど今は、マキリさんや鬼壱さんが居てくれる事で、そんな空気が落ち着いてきているようにも見える。


 なんとなく、ヲ組なりの心地よさを見つけたような気がした。


 授業はこの前と同じく模擬戦だった。


 校庭に並べられた木偶を前に教官が説明を始める。

 生徒は皆、座ったまま静かに話を聞いている。

 一方の私はというと前回の盛大な失敗の経験が頭をよぎり、緊張と気負いで落ち着かなかった。


(少しは成長した……と思うけど、もしもまた上手くいかなかったら……いや、そんな気弱じゃだめだ)


 ここで躓いているようでは陰陽頭になどなれない。そう己を戒める。

 そんな私を御霊府君が背後から覗き込んできた。


『何じゃ何じゃ? 全身ガチガチではないか! それでは上手くいくものもいかんぞ? 儂が替わってやろうか?』

「い、いえ、あの……」


 御霊府君の言葉をどう断ろうかと考えていると、隣に座っていた道蓮様が木偶を見つめたまま断言した。


「自信を持て。この俺が修行につきあってやったんだ。俺は見込みの無い奴に時間を使う程、お人好しじゃない」

「ありがとう……」


 その言葉に、跳ねていた心臓が落ち着き、温かい気持ちになる。


(そういえば道蓮様、こういう時、いつも声をかけてくれたな……)


 道蓮様の幼い頃と今の姿が、少し重なる。

 あの時は、道蓮様が居てくだされば何でも出来る気がしたものだった。

 落ち着きを取り戻した私を、教官が教鞭で示した。


「今回はヲ組から開始とする。安倍、やってみろ」

「はい!」

 返事をして立ち上がる。


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