表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/31

13)訓練

 西日に染まる室内の窓際に、教官が立っていた。


「来たか」


 教員机の前の椅子には何故か、マキリさん、鬼壱さん、道蓮様が座っており、机の上には実践で使った木偶の首がのっている。


 将雪おじ様から着席するように言われる。

 道蓮様は私の着席を待たず、不機嫌な声でおじ様に話しかけた。


「何故、俺まで指導室に呼ばれた?」

「……お前達の授業の成果を見て感じた事だが」


 ごくりと息を飲む。


(私が失敗したせいで、みんなに迷惑が?)


 しかし、おじ様の言葉は意外なものだった。


「当初の想像以上だ。特に安倍。お前の力は」


 え?


 聞き間違いかと思った。

 道蓮様は教官を見ている。


「ああ、その木偶か……」


 道蓮様だけは何かをわかっているみたいだった。

 将雪おじ様は無言で机の上の木偶の首を手に取って見せた。


「これは安倍が授業で破壊し損ねたものだ。木刀がすっぽ抜けたせいでな」


 全員がその首に視線を向ける。

 将雪おじ様が木偶の頭のあたりをコンコンと叩くと、それは一拍も待たず、灰のように崩れ去った。

 道蓮様が真剣な顔で頷く。

 鬼壱さんも何かに気づいたように私を見つめている。


(これは……? どうしてそんなに驚いているのだろう?)


 何もわからずにいる中、急に体にドシリと重い衝撃が走った。


 御霊府君が憑依した。そう思う間に、私の体が勝手に喋りだす。

 御霊府君は私の体で立ち上がると、椅子に片足を乗せ、前髪をかきあげて高笑う。


『ようやっと気づきおったか。そうじゃ、燈次郎の潜在能力は、うぬらを軽く越えておるのだ!』


 御霊府君の言葉に教官が頷いた。


「お前の言うとおり、現役の陰陽師だとしても、ここまで出来る者は一握りだ」


 教官は驚く皆を他所に、話を続ける。


「その強い力と適正。何より強い精神力故に、この式神と共存できているのだろう」


 御霊府君は誰にでも憑依できると思っていたので、私は驚いた。


「お前の式神は自己主張が強すぎる。強制的に憑依したとして、体の持ち主の意思とぶつかり合い、まともに歩く事すら困難だ」


 教官が言うには、私の場合は生身の人間の動きと遜色が無い程に、式神と呼吸を合わせている、余程の才覚があるのだろうとの事だった。


(本当に……?)


『これで、ようわかったであろう? 燈次郎が陰陽の術をしっかりと身につければ、同窓の有象無象など燈次郎の引き立て役にしかならぬとな!』


 府君の話など聞いていないように、道蓮様が椅子から立ち上がる。

 かと思うと、私の腕を掴んで部屋から連れ出そうとした。


「ちょっ、道蓮さん?」

『貴様! 儂の燈次郎にベタベタ触るでないわ!』


 府君の言葉を無視して指導室を飛び出した道蓮様は、皇都内にある河原へ私を連れ出した。


(え? え? 何? どういうこと?)


 道蓮様は学校から持ち出した木刀を私に投げ渡してくる。


「訓練の時の違和感について、将雪の言葉を聞いて得心した」


 慌てて受け取った私は、木刀と道蓮様を交互に見た。


「確かに貴様の潜在能力は随一かもしれん。そうでなければ木偶に木刀が突き刺さったりはしないだろう。だが、同時に、どうして木刀がお前の手を離れたか、分かるか?」

「分かりません……」


 修行はしたつもりだった。

 その時は上手くいったと思ったのだけれど……。


「お前は力を道具に与えられていない。言ってみれば暴発させている状態だ。それ故、制御できない得物が意図しない動きをする」


 木刀を握る私の手に道蓮様が触れた。


「!」


 私の後方に回った道蓮様は、そのまま空いた片手で私の腰を掴む。

 動揺する私に道蓮様は顔を寄せると、淡々と続けた。


「お前は無駄な動きが多すぎる。力を巡らせる構えも、呼吸も、全く噛み合っていない」


 心臓の音が聞こえそうな距離。耳にする男性特有の低い声と息遣い。

 府君は修行が私の為になるならと、歯軋りしながら黙って見てくれていたけれど……。

 道蓮様の物言いは素っ気ないけれど、教え方は的確だった。


(そういえば、子供の頃、私に何かを教えてくださる時も、親切だった……)


 その頃の道蓮様はもう居ないのだと思っていた。

 けど、こんなふうに共通項を見つけて、何だか居たたまれない気持ちになる。


(その時の道蓮様の手も、温かかったな……)


 日もとっぷりと暮れたころ。私の素振りを見た道蓮様がようやく頷いた。


「……今日はこの程度で良いだろう」

「は、はい! ご指導、ご鞭撻、ありがとうございます!」


 やっとの思いで頭を下げ、汗びっしょりのままで土の上に倒れるように座る。

 そうしていると、突然、道蓮様が上着を脱いだ。


(え?)


 戸惑う私の前で、道蓮様は川へ向かい、水浴びを始める。

 鍛え抜かれた背中に水滴が艶やかに流れ、どきどきしてしまう。

 すると道蓮様が声をかけてきた。


「……お前も水浴びするか」

「え」

「汗をかいただろう」

「え。でも」


 どう断ればいいか悩んだ末、幼い頃に川で注意されたことを思い出す。


「か、川は突然、深いところがあって危ないから入らないようにしてるんだ!」


 この発言に道蓮様が、はっとしたように反応した。

 けれど、それが何かはわからなかった。

 川で水浴びなんてすれば、流石に性別がバレてしまう!

 それから道蓮様は懐かし気に……でも何処か寂しげに目を細めると、口を開いた。


「……そろそろ帰るぞ。門限に遅れる」


 その日から、道蓮様は部屋に帰ってくるようになった。

 私は細心の注意を払って着替えをしたりしたけれど、ま っ た くバレなかった。


 そして……。

 夜中、ベッドで横になっていると、物音がした。

 道蓮様が御手水にでも行くのかと思っていると、虚ろな目で刀を手にしてドアから外へと出て行っていた。


(どういうこと……?)


 わけがわからないまま、私はただ、道蓮様を見送るしか出来なかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ