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11)模擬戦開始

 ◆◆◆


 懐かしい夢を見た。


(この夢は……)


 本家が襲撃され、分家の皆と争った後、皇都に到着した日の事だった。


 直ぐにでも陰陽頭を目指して修行し、皇都での暮らしにも慣れるようにと、協力的な親族が取りはからってくれた。


 その折、教官に忠告された。


「道蓮がお前との婚約を破棄したと聞いた。分家の者達が色々と言っているが、俺には信じられん」


 そう言われても、道蓮様からの返事はないし、真実がどうであれ、華々しく活躍されている道蓮様にご迷惑はかけられない。

 そう言ったが、教官は珍しく食い下がった。


「誰かの情報を鵜呑みにするのではなく、きちんと本人同士で話し合え。誤解のまま生きた先で悔やんでも、時は戻らない。あいつと話した上での判断なら、俺も何も言わないが、そうじゃないだろう」


 気は進まないながらも、教官の言葉は最もだと思った。

 だから私は、教官の勧めるまま、皇都の道蓮様が暮らすお屋敷に足を運んだのだ。


 でも……。


「お嬢様! 生きておられたのですね!」


 入り口で出迎えてくれたのは、道蓮様の御家に長く仕えているという、爺やさんだった。


「鬼の襲撃で一家全滅と聞き及んでおりましたが、生きておられたとは……! 良うございました……! 本当に、良うございました……!」


 爺やさんは私の姿を見るなり驚き、涙を滲ませた。けれど、やがて顔を曇らせた。


「お嬢様……申し訳ございません! 既にお聞きかもしれませんが……道蓮様は……」


 私は自分が呪詛の影響で今の道蓮様のお役に立てない身であること――だからこそ婚約破棄は当然であり、せめて最後に、これまでのお礼をお伝えしたいのだと説明した。

 話を聞いた爺やさんは力強く頷いてから、胸を叩いた。


「左様でございますか……! この老いぼれではお嬢様のお力にはなれませぬが、せめて若様に、お嬢様とお逢いくださるようお願いしてまいります!」


 そう言って、爺やさんは屋敷の中へと姿を消した。

 しばらく一人きりで待たされたのち、戻ってきた爺やさんが、悲しげに首を振った。


 ――逢うことすら、拒絶されたのだ。


 私は頭を下げた。


「お嬢様、申し訳ありません、申し訳ありません……」


 何度も何度も頭を下げる爺やさんに見送られ、私は屋敷を後にした。


 ◆◆◆


 次の日、部屋から出てきた私の顔を見た鬼壱さんとマキリさんが驚いていた。


「うわっ! お、お兄様、凄い顔色……」

「トージロ、面白いカオしてんな~」


 御霊府君のお陰で眠れたけれど……。懐かしい夢を見た所為か疲れが完全にとれていなかったようだ。二人に心配された。

 特に鬼壱さんは、フラフラの私を見かねたらしく、厨でお弁当を作ってきてくれた。


「朝餉を食べていると遅刻しちゃうかもしれないけど、空腹だと辛いから、お弁当、作ってきたんだけど……」


 そこまでしてくれたのに、何故か自信が無さそうに目を逸らしている。


「ぼ、ぼくの、手作りとか、気持ち悪かったら、ぼくが食べるから……」

「そんなことないよ。美味しい! 美味しいよ! ありがとう」


 鬼壱さんのお弁当は、はっきり言って美味の極みだった。


 料亭のお弁当のように彩りが鮮やかで、玉子焼きは火入れも味付けも絶妙。おにぎりの具も焼き鮭をほぐして白ゴマと合えたものとか、柚子味噌を焼いたのだとか、多種多様で、しかも量もしっかりあった。


 起床しても食欲を感じなかったのに、そのお料理の見た目と香りでお腹が鳴った私はマキリさんと共にお弁当を口に運んで夢中になっていた。


「ほ、ほんとに?」

「うん! 鬼壱さんが居てくれて良かった」

「えっ……?」


 鬼壱さんが乙女のように照れていた。

 本当に、胃に染みわたるような美味しさだった。


(御霊府君の封印を解いてからは妙にお腹が減って、食べる量が増えてしまっていたけれど、鬼壱さんの重箱弁当、量も多くて有難いな……)


 皆の有難い心遣いを胸に、私達は教室へ向かうのだった。


 そして……。


 勉強は元々の趣味だし、入学にあたり御霊府君と予習をしていたので抜き打ちテストも、それなりに出来たとは思う。


 次は模擬戦の授業だった。

 模擬戦は、鬼を想定した敵を撃破する事を目的とした体術授業である。


(今度こそ、成果を上げねば……!)


 気を引き締めて集合した運動場。

 そこには、鬼を模した木偶が設置されており、教官が説明を始める。


「今から模擬戦を始めるが、この木偶は陰陽寮で開発されたものだ。実際の鬼の特性を呪術で折りこんでいる。つまり……」


 そこで教官が腰のサーベルで木偶を一閃する。

 目にも見えぬ早さの剣戟に生徒から感嘆の声が上がるが、木偶には傷一つついていなかった。

 教官はサーベルを鞘に仕舞い、木偶を示す。


「見ての通り、ただの物理攻撃は鬼に効かぬように、これを破壊するには術を使うか、霊力を武器に宿らせる必要がある」

「おれ、やってみたい!」

 マキリさんが手を挙げ、大きく跳びはねた。


「……賀茂、まだ話の途中だ」

「とりあえず、やってみて、その中で色々教えてくれ!」

 教官は眉間を指で押さえて深く息を吐いていた。


 けど、諦めたのか「……いいだろう」と許可をする。

 喜ぶマキリさんに、教官は付け足した。


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