一話 ウェスタン
「冒険に行きたいです」
「まだ二ヵ月だぞぉー」
先生はぷりぷりと怒っている。前回の冒険では散々だったから仕方がない。
それでも、私にとっての二ヵ月は長い。エルフである先生には、一週間くらいの感覚なのだろう。
「フェンフェンも屋敷が窮屈だそうです」
「……クゥ~ン」
フェンフェンは、私の横で悲しそうに吠える。アルベーデン辺境伯領にはダンジョンがないので退屈なのだ。
「仕方ないなー。ここ行ってきなー」
すんなり通った。怪しい。
私は先生の机に近づいて、広げられた地図を見る。
「前に通ったアイーダの街さ」
アルベーデン辺境伯領の隣にリナート男爵領がある。さらに、その隣の街だ。
三ヵ月前、ジマーリ男爵領に向かう途中で一泊した。帰りは、素通りだった。なので、どんな街か記憶にない。
「四つ先の街に行ったのに、二つ戻ってます」
「知らないよ。そんなこと!?」
四歩進んで、四歩下がって、二歩進む。よろしくない。
「明日の朝、トムたちが出発するから。一緒に行くかどうか、今決めて」
急だ。
それでも、私は即決した。冒険がしたいのだ。例え、小さなものでも。
次の日。
私は馬車に揺られている。
二泊三日の旅なので、前回のような見送りはなかった。
トムさんと執事さんたちは、アイーダの街で何らかの会談を行うようだ。誰も話さないので、内容は知らない。とりあえず、私は適当に遊んでいいと思う。
ジマーリ男爵領に着いて、カフェで休憩した。
それから、すぐに馬車は出発した。
気にしてなかったけれど、馬車が速い。前世で自動車に乗った記憶があるので違和感を感じなかった。
これなら、お昼前にアイーダの街に着く。到着は明日だと思っていた。遊ぶ時間が増えて嬉しい。
アイーダの街に到着した。
前回は夜に着いて、朝早く出発したので街の様子を見ていない。まずは、観光することにしよう。
街は全体的にウェスタンだった。カウボーイが歩いていてもおかしくない。
目の前をタンブルウィードが転がった。この草は実際の西部劇の時代には存在しなかったらしい。でも、ここはゲームの世界なので、お構いなしだ。
ゲームでは、西方のどこかに大きな西部劇風の街があった。カウボーイもいた。
トロッコのミニゲームがやたらと難しかったのを覚えている。
走行中にジャンプしてメダルをゲットする。しかし、トロッコのスピードが速過ぎた。反射神経だけではどうにもならないので、アイテムがある場所を記憶してボタンを押さないといけない。
7個くらいでクリアだったはず。私はそれで限界だった。すべてのメダルを取ると、強力なアイテムが手に入るとNPCが話していた。
ここは小さな街なので、トロッコのイベントはないと思う。あったらあったで、先生が事前に注意したはず。
街の中を歩く。
建物は三十件くらいだと思う。そこそこの大きさの街だ。
停留所の周りに商店と宿屋があり、奥には住居と工房があった。
街の周りは、柵と木の板の防壁で囲われている。マナの関係で、この辺りにはほとんど魔物が出現しないそうだ。
しばらくして、私たちの泊まる家に到着した。空き家を借りたらしい。
私は領主へ挨拶に行かなくてもいいと言われた。早速、遊びに行く。
まずは、お昼ご飯を食べよう。フェンフェンがグイグイとリードを引っ張る。お腹が空いたのか、馬車の中が窮屈だったのか。
また停留所に戻ってきた。途中で人には会わなかった。工房から音がするので、住人は仕事中なのだろう。
目をつけていたレストランに入る。店の前に花がたくさん飾っていたので、荒っぽい人はいないと思う。
中はピカピカするくらい綺麗だった。西部劇風の酒場を想像していたけれど、現代風のレストランだ。洒落た絵や置物、旗などが飾ってある。手配書はなかった。
優しそうな年配の女性が接客してくれた。
私はオススメのカルボナーラを注文する。豆料理は苦手なので、こういうのがあるのは助かる。
フェンフェンはチキンの照り焼きだ。
すぐに料理が運ばれてきた。
食べる。まずまず……そこそこ……微妙。
すると、おばさんが意味深な目で私を見てきた。
「……まずいでしょう?」
そんなにはっきり言われても困る。適当に返事を返す。
「……少し刺激が足りない気もします」
「そう、その通りよ」
当たってしまった。嫌な予感。
「ここのダンジョンの特産品でね。"傲慢こしょう"というアイテムがあるのよ。それをたくさん入れたのが本来の名物の"傲慢カルボナーラ"よ」
どうやら、イベントが発生したようだ。
ここのダンジョンは初心者向けの簡単なものらしい。普通に探索しても退屈なだけだ。こういう人助けのイベントを受けておくのも良い。
二度も続けて大事にはならない……はず。
新章を始めてみようと思います。




