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異世界来ちゃったけど帰り道何処? 作者:こいし

第十章 亡霊と不気味な屋敷

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幽霊とメアリー

ああ……この国は謎に満ち溢れている。全ての謎が解かれる時、読者(あなた)はきっと……―――
「弱そう、でも貴方強いんでしょう? ちょっと話をしようよ―――貴方も私に用があって来たみたいだしね」

 メアリーと名乗った、彼女のそんな言葉で僕達は彼女と行動を共にする事になった。
 ギルドの中では視線がうっとおしいから、結局大勢の人の視線を受けながらギルドを出て、宿を取るついでに会話の為の部屋を1つ取ることにした。屋敷に行くのも目的ではあるけれど、このSランクの人外少女の目的がはっきりしないと正直怖い。何を仕出かすか分からないからね。
 例えば、あの屋敷を破壊するつもりかもしれないし、屋敷の噂を聞いて好奇心に擽られたりして、自分が解決してやろうと思ったのかもしれない。

 もしもそうだったら、彼女は昏睡状態に陥ったままのレイラちゃん達やあの幽霊の声を聞くことになるだろう。ソレは不味い、非常にまずい。何故なら、レイラちゃんを魔族だと気が付いた場合……彼女は格好の的になってしまうからだ。魔族を放っておけないタイプの冒険者なら、隙だらけのレイラちゃんを討伐するかもしれない。
 そうでなくとも、幽霊の声を聞いたら異常事態としてギルドへ報告が行くかもしれない。そうなったら、噂ははっきりとした実態を持つ事になり、その解決の為にギルドが冒険者になにかしらの働き掛けをするだろう。

 ただ屋敷に行ってみたいと言うだけならどうにでもなるだろうけれど、この子は人の話を素直に聞き入れる様な子じゃなさそうだしなぁ。ほとほと厄介な子がSランクになったものだ、これならまだ魔王的な戦闘狂の方が良かったよ。

「話によると、貴方はHランクの冒険者の立ち位置のままにSランク冒険者並の名声を手に入れたらしいじゃない」
「名声とは縁遠い状態だけどね、言うなら悪評と言って欲しいなぁ」

 ギルドから場所を宿の一室へと移し、メアリーは僕のベッドに腰掛けながらそう言った。にんまりとした笑みを浮かべながら、悪意なんてさらさら感じさせない口ぶりで。
 とはいえ、僕に名声なんてものはない。あるとすれば、奇怪な目で見られる程度の悪評と、ほんの少しの人間にだけ繋がる信用のみ。僕の事を知らない人からすれば、初対面の人間からすれば、僕は不気味な『きつね』で、人とは思えない気配の死神。名声なんて、程遠い。

「前から興味があったの。貴方が何故Hランクの地位に甘んじているのか、貴方が何故冒険者になったのか、貴方は一体何者なのか……話を聞けば聞くほど良く分からないんだもの」
「……僕が何者なのかねぇ」
「冒険者であるならHランクに甘んじる必要はないし、そのメリットも無い。寧ろ、冒険者でいる必要が無い。貴方にはFランク以上の魔獣討伐依頼を達成出来るだけの力がある、それこそSランク並の力を持ってる筈……ああ、貴方の戦闘の実力ってだけじゃないよ? そこにいる妖精ちゃんや獣人の子もそうだろうけど、なにより『黒漆の紅姫』や『戦線舞踏』を仲間に引き入れる事が出来た魅力も、紛れもなく貴方の力でしょう?」

 メアリーちゃんは、子供がなんでなんで、と疑問を重ねていく姿を彷彿とさせる様な感覚で僕に連続して疑問を投げかける。僕はその疑問に対して、うーんと唸るばかりで具体的な答えを探す気はなかった。
 元々、冒険者になったのは、異世界に来て素性が完全に不明な僕が簡単に就ける唯一の職業だったからで、Hランクに甘んじているのだって生きていく最低限のお金を稼ぐならランクを上げる必要が無いだけだしね。
 『黒漆の紅姫』と『戦線舞踏』……恐らくは現Bランク冒険者のレイラちゃんとドランさんのことだろうけれど、彼女達が仲間になったのだって僕の力とは言えない。レイラちゃんは元々僕を捕食するために付いて来た訳だし、ドランさんだって復讐を踏み止まった結果、仲間と戦ってみようという意思の下、手頃な僕のパーティに入っただけ。
 正直僕の魅力なんて大した事はない。あるとすれば、人に嫌われる様な不気味さくらいだ。生前から、これだけは変わらない。

 でもメアリーちゃんはそんな答えは求めていないようで、キラキラとした好奇心の塊の様な瞳で僕を見つめてくる。眩しいからそんな大きな瞳で僕を見ないで欲しい。

「僕は別に、冒険者であることはそれほど重要視していないよ。生活出来るだけのお金が貰えるんだったら喫茶店の従業員でもなんでもやるさ。ただ簡単に就ける様な仕事が冒険者だっただけだからね」
「ふーん……でも、思った以上に向いていたみたいね? 冒険者」
「まぁ今の所順調ではあるね」
「順調どころじゃないわよ。貴方は冒険者だけじゃない、一般人の人にも名前が知られてるのよ? グランディール王国であった勇者との交戦なんて、もう知らない人なんていないわ。勇者の存在は全世界的に有名だからね」

 なるほど、僕の悪評の原点は勇者と僕にあったらしい。多分あの戦い自体もそうだろうけど、あの日僕は崩壊したギルドで悪役を演じたからね……アレがきっと勇者と――ステラちゃんもそうか、2人との戦いで出来た僕の噂を悪評にしちゃったんだろう。やっちゃったぜ、無駄に悪役しなきゃ良かった。

「で、僕の名前が有名になったのは分かったよ。それで、結局君は何が言いたいのかな?」
「あははっ! うん、私が言いたいのはね? 才能のある人間は、その力を存分に発揮する義務があるだろうってこと。貴方も私も、Sランクとしてやっていける実力を持っているんだから、それを隠す意味はないでしょう? 寧ろ、実力的に弱者の部類にいる人間が、Sランクの実力を持っているにも拘らずHランクというだけで見下してくるなんて、馬鹿馬鹿しいとは思わない?」
「面白い意見だとは思うよ。つまり、君が1週間かそこらでSランクまで駆け上がった理由はそこにあるのかな?」

 低いランクでいるから、見下される。実力を持った人間は、周囲から正しい認識と待遇を受けるべきだという考え自体は、悪くない。間違ってはいないし、彼女自身がそれを行動で証明している。
 彼女の考えからすれば、僕はその考えから真反対に居る存在――実力を持っているのに、見下される立場に甘んじている。

 とどのつまり―――彼女はそれが気に食わないってことかな?
 無邪気な笑みと、悪意も感じさせない様な言葉の裏にあったのは……僕が気に食わないという考えだったのかな?

 でも、それにしては本当に悪意を感じない口ぶりだ。

「あはは、別に貴方が気に食わない訳じゃないわ。才能を持ちながら実力を隠すのも、人の自由だし、それだけの理由があるのなら別に良いと思う。冒険者って存在は、『自由の人』なんて呼ばれてるんでしょう?」

 メアリーちゃんはそう言う。彼女は彼女で、その辺は割り切っているらしい。この年の少女に嫌われるとか、ちょっとぐさりと来るものがあるから良かったよ。しかし、彼女の考え方も分かる……実力に伴った待遇を周囲がきちんと認識するべきだという考えは、中々悪くない。

「まぁそんな理屈は何処の世界でも適用するだろうから、今更どうこう言わないけれど……冒険者。うん、とてもくだらないけど、暇潰し位にはなるかなって思うわ」
「冒険者にそれほど執着はないんだね」
「それはそうよ、私は冒険者になりたくてなった訳じゃないもの。私の目的に最も適した立場が、冒険者だっただけ」

 目的ね。まぁ興味はないけれど、彼女も僕と似た様な物か。僕は生きるという目的の為に冒険者になった……彼女も同じ、目的の為に冒険者になっている。
 冒険者にそれほど執着はないんだろうけれど、それでも実力主義の考え方に沿って考えるのなら……彼女はSランクという実力を隠さないという訳だ。

「うん、話してみると確かに面白い人ね。不気味で弱そうだけど、理性的で強い……話に聞いていた通りで期待を裏切らなかったわ」
「それはどうも。それじゃあ、今度は僕の用件を話しても良いかな?」
「あははっ! 良いよ、どうぞ――私に何の用なのかな?」

 メアリーちゃんの話が終わったから、今度は僕の話を始める。
 僕としては、彼女の考え方云々の話よりも、こっちの方が重要だ。

「メアリーちゃんは、この国の外れにある屋敷に行くつもりだって話だけど……なんで?」
「およ? なんで知ってるのかな? ……まぁ良いけどね。特に意味はないけど、言えば観光? あまり人が寄り付かないっていうし、噂も幾つか聞いたのよ。だから見に行ってみようかなって」
「へぇ、そうなんだ」

 屋敷の話を切り出すと、彼女は意外にも観光だと言った。特に目的も無いらしい。でも、うん……厄介そうだ。
 だって、彼女は嘘を吐いている。こんなにも紙の様に薄っぺらい言葉と、眼を合わせようとしない姿勢を見れば、簡単に嘘だって分かる。彼女には目的があって、しかも観光なんて簡単な言葉で片付けられる何かでもないようだ。

 子供は嘘を隠すのが下手だ。この子も実力主義とか色々と考えているみたいだけど、とどのつまり子供っぽい性格なんだ……嘘で僕を騙そうとするなら、もう少し場数を踏んでから来るんだね。僕に嘘を通用しない。

「……実は僕達はこれからあの屋敷に行くつもりなんだ」
「へぇ~! 奇遇だね! じゃあ一緒に行こうよっ!」

 この言葉から、彼女は別に隠れて何かする様な目的はないんだろう。つまり、犯罪的なやましい事をしようとしてる訳じゃない……と。
 じゃあ何のためにあの屋敷に行くんだ? この子の目的が見えない。一緒に行こうよ、なんて言葉を吐く位だから、僕が居てもその目的自体は達成出来るんだろう。しかも、僕に気付かれる事なく済ませる事が出来る。

 そもそも、どの程度までが嘘なのか判断が付かないね。

 仕方ない。放置しておいてレイラちゃん達と鉢合わせさせるよりは……一緒に行動してある程度監視しておく方が安全かもしれない。僕が、じゃなく……レイラちゃん達がね。どうせ拒否したら1人でも行くんだろうし。

「……いいよ、それじゃあ一緒に屋敷に行こうか」
「あははっ! 噂の『きつね』と一時的とはいえパーティを組めるなんて、光栄ね―――いや、それともSランクとしては光栄に思われる側なのかな? なんにせよ、これからよろしくね!」

 そうして、僕は新人Sランク冒険者―――メアリーという少女と、一時的にパーティを組んだ。


 ◇ ◇ ◇


『ん? んんん? なんだか悪寒がするなぁ、ふひひひっ……幽霊が悪寒だって! くふふっ……ふひひひっ♪ 面白いねー、ふひひひっ……!』

 屋敷の中で、幽霊は何やら悪寒らしいモノを感じ取っていた。それは、桔音に対する物か―――それとも、あの新人Sランク冒険者……メアリーに対する物か。
 彼女自身もそれは分からないが、結局彼女は自身の肉体を持たぬ幽霊であり、魂だけの存在。悪寒というだけの何かを感じ取る事もなければ、本能的な恐怖を感じることもない。

 既に死んでいる以上、彼女に生存本能が感じる恐怖があるわけ訳はないし、悪寒を感じる身体がある訳もない。

 つまり、彼女が感じたのは彼女の魂に刻まれた根源的な恐怖。
 肉体があったのなら、人間はあまりの恐怖に肉体が涙を流し、寒気を感じるほどに血の気を引かせ、そして筋肉が硬直し、呼吸も上手く行えず、気の弱い者なら失神するもしくは、ショックで死んでしまうかもしれない。それほどの恐怖だ。
 霊体であるが故に、既に死んでいるが故に、悪寒と錯覚してしまう程度で収まっているが……彼女は気が付かない。

 その悪寒らしき感覚が、自分自身の魂に刻まれる程の恐怖を生前に受けていたことの、確固たる証拠であることを。

 桔音と幽霊の再会は、目前にまで迫っていた。
メアリーの目的、そして幽霊の生前とは―――?
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