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第4話  当たり前になる世話

その後1カ月。


コンビニ店員の早乙女さんと会話を重ねるようになった。


レジ打ちをする間のほんのわずかの隙間。


だけど着実に、少しずつ。


俺を見る目に熱がこもっていった。



そしてある日。


俺は、その日は、明らかに体調を崩していた。


頭が重く、視界がぼんやりする。


それでも、気づけばコンビニに入っていた。


「いらっしゃ——」


早乙女さんは、俺の顔を見るなり、言葉を切った。


「・・・・顔、赤いです」


「大丈夫ですよ」


と返事する俺に、すぐさま返す。


「大丈夫な人の顔じゃないです」


即答だった。


彼女は棚から、スポーツドリンクとスープ、ゼリーを取ってきた。


「今日は、これにしてください」


「・・・・買います」


すなおに買おうとする俺を見て、まだ彼女は何かを逡巡している様子だ。


しかし思い余ったのか、スマホを取り出して、


「・・・・良かったらライン交換しませんか?」


視線が、まっすぐだった。


——ご主人様。この方は体調の悪いご主人様を心から心配なさっておいでです。


体調が悪いのに加え、エクレアからそう言われた俺はぼーっとしている間に、ライン交換が終わっていた。


会計を済ませる。


「今日は、無理しないでください」


声が、少し低い。


「家に帰ったら、食べて、早めに寝て。連絡、くれると安心します」


・・・・母親か。


と思ったがすぐ思い直して、


「・・・・分かりました」


「あと、いつも支えてくれて、ありがとう」


心の底から湧き出た言葉だった。


そう答えると、また、彼女の身体がビクッと震えたように見えた。


けれど、何事もなかったのように、彼女は笑っていた。


その夜、布団に入る前、スマホが震えた。


〈ちゃんと食べました?〉


〈無理、してませんか〉


と来たので、俺は、


〈言われた通りにしました〉


と返すと、すぐに返信。


〈えらいです〉


〈今日は、それで十分です〉


なぜだか、その文面をみると自分を全肯定されたようで涙が出そうになった。



翌日は休日だった。


昼過ぎ、インターホンが鳴る。


ドアを開けると、私服姿の早乙女さんが立っていた。


そういえば、さっき「差し入れを届けたいので、よかったら住所を教えてください」とラインが来て、ぼんやりした頭のまま送ったんだった。



「・・・・差し入れ、です」


手には小さな弁当とスープ。


「消化のいいものだけ持ってきました。今日は、何も考えないで休んでください」


彼女は玄関先で立ち止まっていた。


「・・・・ありがとうございます」


「どういたしまして」


少し照れた笑顔。


「体調、変だったら連絡してくださいね。・・・・そのときは全部、私がやりますから」


その返事にドキッとした。


ドキッとした俺はそれを隠すように、あわててドアを閉めた。


部屋は静かだ。


だが、孤独じゃない。


——ご主人様。


エクレアが、穏やかに告げる。


——この方は、ご主人様に喜んでもらいたくて仕方ないようです。頼まれれば、きっと断れなくなるでしょう。


俺は弁当を見下ろし、小さく息を吐いた。


いつの間にか誰かに気を遣われる自分がいた。


そういえば、エクレアの能力のうち、人に向けている感情を増幅することができるというものがあった。


好意があるなら「とても大好き」にすることができるし、少しでも嫌いという感情があれば「ものすごく嫌い」にできてしまうのだという。


聞いたとき、この力はすこしこわいなと感じた事を覚えている。


いまの早乙女さんの好意。


これは彼女の本心からのものだろうか。

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