第2話 鷹宮家当主と、教団の微笑み
九条べには、鷹宮家の当主とともに、長野の奥深い山中に佇む教団の本部へやってきていた。
当主は儀式のために訪れた。
だが、べにの目的は違う。
ご主人様の父親——神谷恒一の死に、この教団が関わっているかどうか。
それを確かめるためだけに、同行した。
儀式も、九条家の継承も、どうでもいい。
私にとって最優先はご主人様。
継承も儀式も、そのための手段に過ぎない。
さあ、どんな話が聞けるかしら。
ここへ来るのは2度目。
以前は長が不在で、たいした話はできなかった。
教団の本部は、ごく普通の建物。
山間の古い社務所のような佇まい。
当たり前だが、別に仕掛けがあるわけでもない。
信者らしき給仕の者たちが、静かに動き回る。
施設内に奉仕をする者が、十数名見受けられた。
迎えに出たのは、教団の長を務める初老の男性。
良かった。
今度は話ができそうだ。
長は、親しみやすい笑顔で、
「よお、おいでくださった。こちらがウワサの継承者ですか。えらいべっぴんさんだあ。照れてまうわあ」
べには薄く笑みを返した。
鷹宮家当主が、丁寧に挨拶を始める。
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
長は手を振って、
「ええて、こちらこそ、以前は行き違いでお手間とらせてもうたし。堅苦しいことはええから。さあ、どうぞどうぞ」
客間に通された。
畳の匂いと、かすかな線香の香り。
べには座布団に正座し、静かに待つ。
当主と長は、別室に移って話を始めた。
なんだろう。
私には聞かせられない話なのかしら。
やがて、二人が戻ってきた。
長は穏やかな笑みを浮かべ、
「さて、継承者殿。儀式の件ですが・・・・」
べには静かに頭を下げた。
「あの、一つ伺いたいのですが」
「儀式は、歴史的にいつごろから準備を始めたのでしょうか」
「誰も知らないので・・・・あなたに、お伺いしようと」
長はにこりと笑って、
「そうですな・・・・私も正確なところまでは把握しておりません。ですが、この教団自体、あなた方の家が始めた儀式に協力するために作られたものだと聞いています」
「元は同じ家だと?」
「そういうことになりますな。儀式を実現するには、目に見えない力——霊力が必要なのですが九条家には、まれにそういう者が生まれるそうで」
「その者が今の教団の基礎を築いたと伝わっております。なんせ、儀式には莫大な霊力が必要」
「それを補うためにも、莫大な資金が動きました。儀式に必要な法具や霊具をそろえるためです」
「まあ、話すより、直接見てもらったほうが良いでしょう」
長は手に持っていた古い木箱の蓋を開けた。
中に入っていたのは、古ぼけた櫛、手鏡、そして・・・・石?
ただの石としか思えない、灰色の塊。
そんな雑多なものが、並んでいる。
「どうですか?あなたなら、感じるでしょう。この道具に宿る霊力を」
べには、静かに目を凝らした。
エクレア様の使徒に目覚めて以来、霊的な感覚は鋭くなっている。
だが・・・・何も感じない。
これらのものには、微塵の力も宿っていない。
冗談を言っているのかしら?
だが、長の表情は本気だ。
隣の鷹宮家当主も、どうだと言わんばかりの顔でこちらを見ている。
一体、これはどういうこと?
べには胸の内で、エクレアに聞いてみた。
——べに。
——これは・・・・偽物ですわ。
——本物の霊具は、別の場所に隠されているのか、もしくは・・・・。
べには静かに頷いた。
「ありがとうございます。よくわかりました」
長は満足げに箱を閉じ、
「では、儀式の日まで、まだしばらくありますで」




