第18話 霧島玲、神に触れる
俺が答えを出すより早く、部屋の外から突然の喧騒が響いた。
「ぐはっ!誰だ、お前は!」
黒服の男たちのうめき声と、肉がぶつかる鈍い音。
俺はフォークを握ったまま、身構えた。
どうしようか迷っていると、ドアが勢いよく開き、九条べにが飛び込んできた。
黒いワンピースの裾が翻り、彼女は黒服の一人を肩越しに投げ飛ばす。
「ご主人様、大丈夫でしょうか!」
息を切らしながら、俺の前に立つ。
霧島玲の姿は、すでに消えていた。
窓の外に、夜の闇だけが広がっている。
俺は息を吐いて、
「・・・・九条さん、どうしてここに?」
九条さんは俺の腕を掴み、
「あやめから連絡があったの」
「あやめには、あなたの護衛を頼んでいたの」
「霧島玲がホテルに黒服の男たちを待機させている。それに気づいて、私に緊急連絡してきたのよ」
「もともと時間を空けて東北出張についていくつもりだったからちょうど良かったわ」
あやめ——神崎あやめ、俺についてきた部下の鈴木のことだ。
彼女は俺がホテルを出た後、すぐに九条さんに連絡を入れていたらしい。
九条さんは東北のこのホテルへ、まっすぐに飛んできた。
俺は複雑な気分だ。
助かったのは事実だ。
でも、こんなに心配をかけてしまった。
九条さんは黒服の残りを睨みつけ、
「あの霧島という女性・・・・気をつけなければ」
「今後、二度とこんなことのないように徹底的に調査致しますわ」
彼女の瞳は、冷たく燃えていた。
こうして、俺の東北出張は、波乱を含んで終わった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
一週間後。
九条べにの頭にエクレアの声が響いた。
——あの方の居場所を、突き止めてください。
——その後は、わたくしが行います。
九条べには静かに頷き、
「エクレア様。実は、調査は終わっております。居場所のほうも、すでにつかんでおります」
「早速、行きますか?」
——お願いします。
群馬の山奥、霧島玲の隠れ家。
古い日本家屋の奥座敷。
霧島玲は、静かに座っていた。
九条べにが、姿を現す。
「あなたですね。ご主人様に危害を加えたのは」
霧島玲は言葉を遮るように、視線を上げる。
九条べにの背後に、何かを見ていた。
——あなたは、特殊な力を持ってこの世に生まれたのでしょう。
エクレアの声が、部屋に満ちる。
銀髪の幻影が、ゆっくりと現れる。
——その力で、大変辛い思いをした。
——しかし、その能力を逆に利用し、のし上がってきた。
——強い女性、それほど強い女性なら、ご主人様の役に立つでしょう。
霧島玲の瞳が、揺れる。
エクレアが、手を挙げる。
瞬間、光が放たれた。
強烈な光が、霧島玲を包む。
霧島玲が九条べにを見つめたまま動けない。
呼吸が乱れる。
霧島玲は、膝をついたまま、胸を押さえた。
——わたくしの力も、どんどん戻ってきております。
エクレアは九条べにに、
——このものは、どうやらあなたに深い敬愛を持った様子。女の身で黒服の男たちをなぎ倒す姿に惚れたようですね。
——あなたに向いていた敬意と憧れを、少しだけ表に出やすくしました。
——あなたのそばにいたいならご主人様に仕えなさい。そう、彼女の深層心理に語りかけました。
——あとは、彼女自身が選ぶでしょう。
エクレアの姿が、薄れる。
九条べにが立ち去る様子を、霧島玲は潤んだ瞳で見送った。




