第17話 再会の微笑みと、黒服の影
東北への出張が決まった。
以前、俺が手がけた土地開発の交渉——霧島玲の名刺一枚で切り抜けたあの案件のフォローアップだ。
ついていくのは、佐々木と鈴木。
飛行機の中で、佐々木は興奮気味に、
「支社長、今回も俺、張り切りますよ!」
と、拳を握る。
俺は苦笑して、
「ほどほどにね」
と返す。
現地に着き、目的である土地の最終確認はすぐに終わった。
地元の担当者が、
「霧島様のご紹介の方なら、問題ありません」
と、笑顔で書類にサインした。
佐々木が、目を輝かせて、
「支社長、一晩泊まりましょうよ!せっかくだし、観光も!」
と、駄々をこねる。
俺はため息をついたが、
「・・・・まあ、いいか」
と、泊まることにした。
佐々木は「ヤッホー!」と喜んで、早速街へ出かける準備。
やれやれと思いながらも、これが彼の持ち味なのだろう。
俺はそう解釈することにした。
そばにいた鈴木に、
「今日はたまの骨休みだと思って、ゆっくりしてくれていいよ」
と声をかけた。
鈴木は小さく頭を下げ、
「ありがとうございます」
と言って、部屋から出て行った。
俺も久しぶりに一人になった。
おいしいものでも食べようかと思い、ホテルを出る。
足は、自然と目的の土地へ向かっていた。
あの交渉の現場。
霧島玲と出会った、古い商店街の近く。
すると、視界の端に、見覚えのある黒いコートと赤いスカーフをした女がいた。
霧島玲である。
霧島玲が、ゆっくりと笑って近づいてくる。
「その節は、どうも」
妖艶な微笑み。
「どうだった?私の名前、効果抜群だったでしょう」
俺は素直に頷いた。
「あれのおかげで、速やかに進みました。本当にありがとうございます」
霧島玲は手を振って、
「どういたしまして」
そして、目を細めて、
「ねぇ。お礼が欲しいんだけど・・・・私と、これから食事してくれないかしら?」
断る理由はなかった。
俺は頷いた。
彼女が連れて行ってくれたのは、高級ホテルの最上階。
予約席が、すでに用意されている。
こんなところ、簡単に取れるはずがない。
やはり、彼女は地元の有力者の一人なのだろう。
ワインを片手に、優雅な仕草で、
「乾杯」
グラスが触れ合う。
「あなたとは、こうしてゆっくり話したかったの。願いが叶って、よかったわ」
食事が進み、デザートが運ばれてきた。
終盤になる頃、霧島玲がゆっくり切り出した。
「ねぇ・・・・聞いていいかしら」
「あなた、神様の形をした人間なの?」
俺はフォークを止めた。
以前にも、そう言われたような気がする。
「とんでもないですよ。俺が神のわけないでしょう」
しかし、彼女は俺を見ているのか、俺の背後を見ているのかわからない視線を向けて、
「いいえ」
「あなたの周りには、強烈な光があるのだから、どこにいたってすぐに場所がわかるのよ」
「よく見ると、あなた自身よりも・・・・あなたのそばにいる方が、神なのかしら」
「守護霊なんかよりも、はるかに光が強いし・・・・こんなの、初めて見たわ」
俺は息を飲んだ。
エクレアのことが見えているのだろうか。
霧島玲は、静かに息を吐いて、
「仕方ないわね」
「こんなこと、本当はしたくなかったけど・・・・」
彼女が手を挙げる。
すると、周りから黒服を着た男たちが部屋に入ってきた。
数人、いや、十人近く。
最初から同じフロアに待機させていたようだ。
俺は一瞬、身構えた。
「どういうつもりですか!?」
霧島玲は、申し訳なさそうな表情で、
「あなたとは、友好的に付き合いたかったけど・・・・危険だと判断いたしました」
「なので、しばらく人の手の届かないところへお連れいたします」
俺の耳元で、エクレアの声が響く。
——ご主人様。今すぐ、どうにかいたしましょうか。それとも・・・・様子を見ますか。
俺の決断は・・・・
——すべては、ご主人様の意思のままに。




